見出し画像

書評「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」

本書が主に述べているのは「その健康情報はエビデンスあるの?」という事です。というかその事をストイックに書き連ねてあります。「○○は健康に良い」とか「○○ダイエット」みたいなムーブメント的な健康情報にちゃんとしたエビデンスがあるのか、という事がたくさん書いてあります。

エビデンスレベル

医学においても、様々な検査や治療はエビデンス(科学的根拠)に基づいて研究され、開発に至っています。他の業界でもエビデンスは重要だとは思うのですが、医学においてはとても厳密で、一つの薬を開発するときや、ガイドラインを改定するときなんかは、たくさんの研究結果を基に決定します。
そこで重要となってくるのはエビデンスレベルというものです。
エビデンスにもランクみたいなのがあって、簡単に言うと

1位:たくさんの研究のまとめ(メタアナリシス)
2位:そのうちの一つの研究
3位:ケースレポート
4位:専門家の意見

馬鹿っぽいけどこんな感じです。
このメタアナリシスってやつがキンブオブエビデンスみたいなもので、本書ではエビデンスに基づいた健康情報は信頼できる、としています。具体的には「オリーブオイルは体に良い」はエビデンスあり、で「グルテンフリー」はエビデンスなし、です。
では何故、エビデンスのない健康情報がブームになったり、多くの人が信じている健康情報にエビデンスがないのでしょう。理由はたくさんあると思いますが、ここでは2つ取り上げることとします。

メディアに出てくる専門家の意見

「テレビで医者や栄養士が言ってた」という健康情報にエビデンスがなかった、という事も本書では書かれています。
エビデンスレベルのランキングをみてもらえば分かるのですが、最もエビデンスレベルが低いのは「専門家の意見」です。エビデンスの世界ではどれだけ偉い教授の意見よりも研修医が書いたケースレポートの方が信頼できるということです。
教授の昔の経験や、時には偏見もある意見の中には間違ったものもありますが、研修医が「間違えた事を書くと指導医に怒られる!」と色々論文を調べて書いたレポートの方が信頼できる、といえば分かりやすいでしょうか。
また、以前noteにも書きましたが、専門家なんてこんなもんですし、メディアに出られる専門家はコンプライアンスの問題から限定的ですので、本当の専門分野でないことが多いです。

専門家の意見には説得力がありますが、そもそもテレビに出てる専門家は専門家でない可能性もあるし、その意見がエビデンスに基づいているものかどうかは怪しいです。

大人の事情

もう一つの理由はお金絡みや既得権益うんぬんの話です。
企業が商品の売り上げのために専門家やインフルエンサーを使って「○○は健康に良い」といってマーケティング戦略として行う事は今も昔も変わりません。アメリカではグルテンフリーが大流行ですが、本書を読めばエビデンスがないことが分かります。
既得権益については「○○省と○○農家はズブズブ」なんて話を想像すると分かりやすいでしょう。「成人において乳製品の過剰摂取は前立腺癌や卵巣癌のリスクを上げる」というエビデンスがあるらしいので、ハーバード公衆衛生大学院のホームページによれば摂取量の上限を設定しているようですが、アメリカ農務省の推奨する食事とは大きく異なるようです。
本書では米国が推奨する食事が酪農業界によるロビー活動により歪められている、と記されています。

医者としてはエビデンスは大切にしなければいけないと考えていますが、エビデンスのない医療情報を否定する事もしません。本当に人間の体って何が起こるか分からないので、科学で証明できないことも多いと思うからです。

ちなみに「卵をたくさん食べるとコレステロール値が高くなる」もエビデンスはないらしいので、卵をセーブするように指導していた患者さん達には謝っておこう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?