連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第一章 プロローグ
第1話 プロローグ
3千人で超満員のアオーレ長岡。大歓声と悲鳴が入り混じる混沌。
リング上では、黒髪をお団子にまとめた女子プロレスラーが相手の体を抱え上げ、リング中央に叩き付ける。その瞬間、興奮の中でリング上の緊張が漂う。
コーナートップロープに駆け上り、大歓声を繰り出す観客に向かい、右腕をあげた。その人差し指は天を指す。
「いくぞー!」
甲高い叫び声を残し、トップロープから思いっきり高く空中に舞い上がり、背面方向にバク宙しながらリング中央に向かって円弧を描き飛んでいく。
まばゆい照明の下を飛翔するしなやかなフォルムは、まるで天から戦いの女神が舞い降りてくるかのごとく芸術的な光景だった。
(なんて……美しいんだろう)
回転により勢いがついた体を相手に浴びせる。
ムーンサルプレス!
リング全体を揺るがす衝撃が、少女の頬にも伝わったような気がした。
小学5年生の少女、平ミナミは、リングサイドのパイプ椅子から立ち上がる。
ただ、ただ目の前で繰り広げられる技の数々が、力強く美しかった。
「「ワン、ツー……」」
観客たちの熱意を含んで……
「「スリー」」
今までにない歓声と怒号、そして会場全体を震わせるような振動が会場を包む。
その圧倒的な熱狂の渦、技と技のぶつかり合いの迫力に圧倒されたミナミは、この瞬間に女子プロレスラーを目指す決意を固めたのだった。
それから11年後。
4月1日。
「今日から経営企画を担当する平ミナミ、新卒だ。みんな、よろしく頼むぞ」
ミナミは女子プロレスを運営している『株式会社SJW』の社員たちに紹介されていた。ただし、女子プロレスラーとしてではない。一人の新入社員としてだった。
「よ、よろしくお願いいたします」
拍手を受ける中、ミナミはどのような表情をしていいかわからず微妙な笑顔で応えていた。
(プロレスラー選手を目指しているつもりなのに、なんで社員になっちゃったんだろう……)
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