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小説★プロレスガール、ビジネスヒロイン? 第二十六話 エピローグ <入社7年目夏>

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 ラスベガスのホテルの一室で、烏山がPCで記事を書いていた。
 題名は『日本女子プロレスの革命児、女子プロレス団体SJWの足跡』だ。
 トーナメント後、SJWを中心に女子プロレス四団体はコミッショナー合弁会社を設立し、プロリーグの設立を実現した。初代リーグ優勝はDIVA、今年はまだ中間時点だがSJWが首位を牽引している。
(大沢さんとミナミちゃんのコンビはバケモンだな。AIシステムを筆頭に、業界を丸ごと変えちゃったんだから、すごいことだよ)
 すると、その記事を横から覗き見した後輩記者が興奮気味に語り掛ける。
「いやー、ほんとにすごかったっすよね。昨日のミナミとツツジ」
「……そうだな」
「さすがツツジは赤いベルト保持者。でも、ミナミのフィニッシュは圧巻でしたね。ツツジに勝って白いベルトを巻いた実力者の貫禄。いやーすごかったです。知ってますか? この二人、デビュー当時にSJWで同期だったらしいですよ」
 烏山は苦笑いするしかない。
(誰よりも先にミナミを見出して特集記事を書いたのはおれだぜ。知ってるに決まっているだろ。秘蔵のマスク時代の素顔ショットだってたくさん撮ってるんだぜ?)
 当時を思い出しふっと笑う。
 サクラやアキラにしごかれて、ぐえっとかうがっとか言っていたあのミナミが、今ではSJWのツートップの一人になって、世界に飛び出したのだ。
「あ、そろそろ式の時間ですよ。早く行きましょう」
「おお。これを日本に送ったらすぐ出るぞ」
 烏丸は最後に数行追記すると、送信ボタンを押した。
『日本団体初のラスベガス球体型複合アリーナであるスフィア興行で全米タッグ王者とのAIシステムを使った真剣勝負。SJWのツツジ・ミナミ組が全米トップタッグを撃破』

 夏のラスベガスの青く眩しい空。町中の小さな教会。集まった参列者が二列に分かれて扉が開くのを待っている。みんな、手に籠を持っていた。
 そこに、初老の紳士がタクシーを降りてくる。
「永山教授。遅いですよ」
 タマちゃんが籠を手渡す。
「講演が長引いてな。でも、フラワーシャワーには間に合ったようだね」
 永山はミナミたちのゼミの恩師だった。
「堀之内君、独立して会計事務所を設立したんだって? おめでとう」
 堀之内は頭を掻く。
「稲田君はコンサル辞めて商社に行ったって? コンサルの方が向いていたと思うぞ?」
 みんなが笑う。
「タマちゃんは、M&Aブティックに転職して活躍しているようだね」
「はい。ミナミたちの仕事も手伝いたかったので。初年度からコミッショナー合弁会社のFA(財務アドバイサー)を受注できたから、会社も喜んでくれました」
 ガッツポーズを見せる。
「で、橋本君は、今をときめくユニコーン企業のCEOだな。大学でも有名だ」
「おかげさまで。まあ、これもミナミとの仕事のおかげです」
 橋本は恐縮する。スポーツテックAIスコアリング技術は、プロレス以外のスポーツにも効果を発揮し、橋本の会社の評価額は当時の一五倍を超える成長を見せていた。
「平も大成したな。当時はレスラーになると聞いてショックだったけど、さすがだな」
「先生、もう平じゃなくて大沢ミナミですよ」

 やがて、ミナミの入場曲が流れ、教会の扉が開いた。花吹雪を浴びながら列の間を歩くミナミと大沢。
「本当に幸せそうね」
「そうだな」
「……私でよければ、そばにいてあげるわよ」
 タマちゃんの回答に、橋本はフラワーを投げる手を止めた。
「……じゃあ、買収案件相談からよろしく」
 タマちゃんはあきれて溜息をつく。
「また、ビジネスパートナーで終わる気なの?」
「まあ、そうならないように頑張るよ」
 二人とも苦笑い。
「そこの二人。今からブーケ投げるから集中してよね。特にタマちゃん!」
「え? 何よそれ?」
 会場のみんなが大笑いする中、ミナミがブーケを青い空に向かって放り投げた。
 そして、ミナミは大沢に笑顔を向ける。
(……ねえ、全米進出達成した後、今度はどんな夢を見に行きます?)
(そうだな。女子プロレスをオリンピック正式競技にしたいと思うんだけど、一緒にやってくれるか?)
(うわっ、相変わらず壮大ですね……もちろんご一緒します)
 ブーケは横に一回転した後くるくると前転し、タマちゃんの胸をめがけて飛んでいった。

                   了

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