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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第二十三章 チャンピオンシップ準決勝 <入社4年目冬>

第一章&全体目次はこちらから
トップ絵はサブヒロインで親友でライバルのツツジ(^^♪

クライマックス間近です(^^♪
ここまでのおさらいできるように、巻末に年表乗せております🎵


本章のダイジェスト

  • 準決勝。試合前の大沢のアドバイスを受け、アラタと大沢が付き合っていようとも、その夢を実現すると心に近い、ついに東京ドームデビューを果たす。

  • 打撃系の相手に苦戦しつつも、アドバイスの効果もあり徐々に自分の流れに持ち込み、最後は新技を披露して勝利。決勝へと駒を進める。

  • 試合後、決勝で当たるツツジから「迷いがある雰囲気だったから心配してた」といわれ、苦笑しつつ大沢との状況を打ち明ける。そして、例え噂が本当だとしても、彼らの夢をつぶさないように良い試合をして、そして自分お気持ちを打ち明けるつもりだと伝え、明日の決勝での善戦を誓い合う。ツツジとの決勝戦があったからこそ、くじけずに来れたと感謝するミナミだった。

本章本編

第121話 晴れ舞台

 前の試合が終了した。
 ツツジが勝利して帰ってくる。

「おめでとう、ツツジ。相変わらずいい動きね」
「ありがとう。次はミナミの番ね。明日決勝戦で会えるように頑張ってね」
「ええ。頑張るわ」

 ハイタッチを交わし、ツツジは控え室に戻る。

(私、もう吹っ切れたから。安心して待ってなさいよ)

 その時、大沢がミナミを応援しに来た。

「どうだ?最近調子がイマイチと聞いたぞ」
「あ、あの、すみません。ご心配かけてしまって」
「それはいいさ。今のミナミなら、本番はしっかりやれると信じている」

 ミナミの胸がきゅんと締まる。

『信じている』

 それは、選手としての信頼。
 今はそれでいい。

「でも今回の相手はキック主体だから注意が必要だ。SJWにはいないタイプだからな」
「はい」
「多分、慣れるまでは苦戦するだろう。でも、ミナミの優れた動体視力が頼りになるはずだ」

 ミナミは驚いて大沢を見る。

 たしかに、ミナミは動体視力が良い。
 モーグルの高速ターンを練習することで、コブの状態や雪質を見極める力が動体視力を育てた。

(動体視力のことは特に言ったことないのに……よく見てくれてるんだわ)

 ミナミの胸が少し暖まる。

「連続打撃に捕まえられないようにしっかり見て対応するといい。チャンスがきたらプロレスらしい技で応戦だ」
「プロレスらしい技?」
「ああ。打撃戦になったら勝てない。こっちの土俵に引きずり込む。そのためには、むしろオーソドックスなプロレス技で勝負することが大事だ」
「はい、ありがとうございます」

 決意を決めた表情のミナミ。

(やはり、アラタさんと付き合っていてもいなくても、私は大沢さんのやさしさに絶対に報います。見ててください)

 ミナミはこくんと頷く。

「大沢さん、ありがとうございます。行ってきますね」
「ああ。自分でつかんだ晴れ舞台だ。しっかり頑張れよ」

 やがて、ミナミの名前がコールされる。
 入場曲が流れ始める。
 大沢がミナミの肩を二度叩き送り出す。

(もう迷わない)

 ミナミはキリッと頷くと花道を歩き出した。

 まばゆいレーザー光線が飛び交う。
 煙幕がミナミを包む。
 たくさんの紙テープと花吹雪。
 今まで見たことがない高い天井。
 アリーナ席からスタンド席まで埋め尽くす数万人の観客。
 その歓声はもはや音ではなく衝撃波に近い。

 ミナミにとっては、選手としての初のドーム参戦だった。
 ミナミは、長い花道を、ゆっくりとその感触を噛み締めながら、リングに向かって歩いていった。

第122話 苦戦

 序盤からミナミは苦戦していた。

(キック、早いわ)

 何とか致命傷を避けるべくガードする。
 一瞬でも気を抜いたら急所を撃ち抜かれそうな鋭さだ。

 ミナミはアラタから教わった防御理論を思い出す。

(攻撃軸に対して受ける角度をずらして力を分散させて、しっかり吸収してインパクト時間も稼ぐんだ)

 ミナミは動体視力を駆使し打撃を受け流し始めた。
 やがて、相手が肩で息をし始める。
 これだけの高速キックの連打でスタミナが奪われないはずがない。

(……もしかして……チャンス到来?)

 ミナミはちらっとオーロラビジョンに目をやる。

(点数差は大きい。攻めないと……たしか、プロレスっぽい技がいいって言ってたわよね)

 徐に、ロープに向かって駆けだすミナミ。
 反動をつけて相手に駆け寄り、高く飛んでドロップキックを撃ちだす。

(プロレスらしいといえばこれでしょ?)

 予想を超える動きに対し、相手は慌てて両腕でガードするがよろめいた。

 今度は逆のロープに飛んでトップロープに。
 その反動を使ったボディアタックがクリーンヒット。
 頭を振りながら立ち上がる相手の背後に回りジャーマンスープレックス。

 相手もこのままではやばいと猛反撃。
 しかし、ダメージによりスピードが若干落ちており、また前半に受け続けた慣れもあり、ミナミの動体視力はすでにそのキックを見極めていた。

 ハイキックをすり抜け相手に急接近し腕を掴む。
 一本背負いと見せかけて背後に回るとタイガースープレックス。
 強烈なダメージを与えるが、それだけでは終わらなかった。

 相手を立たせると背後で腕を複雑にロック。
 そして、そのまま後ろに投げる強烈なスープレックスを放った。

「なんだ!?あの技」
「あの固め方で投げられて、受け身とれるのか?」
「てか、スピードが異常に早くて大きかったぞ?」

 観客の大きなどよめき。
 それほどに衝撃を与える技だった。

 観客たちがオーロラビジョンに目を向ける。
 AIシステムが即座に技の名前と評価点の分析結果を表示する。

『ジャパニーズオーシャンスープレックス 評価10』

 アラタ直伝の新技に満点の評価が与えられた。

 レフェリーがカウントを数える。

「1……2……3!」

 数万人の観客の大歓声がドーム全体を包みこんだ。

 前半の苦戦をしっかりと跳ね返し、勝ちをもぎ取ったミナミ。
 スタッフ席に座る大沢に目を向ける。

 よくやったと頷く大沢。

(これでいいんだ)

 ミナミはガッツポーズを見せてから、四方に向けてお辞儀をした。

第123話 決勝に向けて

 花道から通路に戻ると、控え室に続く通路の途中でツツジが待っていた。

「おめでとう。ミナミ。よくあのキックマシーンに勝てたわね」
「ありがとう。これで二人で決勝に行けるわ」

 二人は両手でハイタッチ。

「それにしても、よくプロレス技で抑え込んだわね」
「私、打撃は苦手だから無理して対抗せずに自分の土俵で戦えってアドバイスをもらってたのよ」
「最後の技はどうなってるのよ?すごい威力ね。明日、あれは喰らいたくないんだけど……」
「覚悟してもらうわ」

 ツツジは苦笑いした後、真顔になる。

「それにしても、なんだかミナミ、迷いがある雰囲気だったから心配したのよ?」
「ごめんね。色々あって……」
「それって、大沢さんとのことでしょ?何かあったの?」
「……もう。ツツジには隠し事はできないわね」

 ミナミはツツジに、大沢とアラタが恋人関係かもしれないこと、二人で目指していた理念にも関係があるかもしれないことを説明する。

「ええ?あの大沢さんとアラタさんが?にわかには信じられないわね……」
「状況証拠は真っ黒に見えるのよね。でも、もうそのことは考えないことにしたの」
「え?」
「私は私の夢をしっかり果たす。この大会を盛り上げて、AIシステムを広げる。これがあれば、もうあんなやらせなんて起こらなくなるわ」

 二人は一年半前のタッグトーナメントを思い出していた。
 やらせ指示により、ツツジはミナミのフォールに屈し、それをきっかけにDIVAへ移籍することになった。

「そして、自分に自信をもって、大沢さんの気持ちを確認しに行くの」
「……そっか。じゃあ、お互いにいい試合しないとね」
「そうよ。しょぼい試合はできないわ。明日はお互い全力で。最高の試合をしましょう」

ミナミは、そっとツツジに抱きつく。

「ありがとう。ツツジ。明日の決勝があなたとの待ち望んだ対戦でよかった。そうじゃなかったら、私は今の状況に耐えられなかったと思う。ツツジとの再戦の楽しみがあるからこそ、立ち直れたわ」
「本当に苦労ばっかりね、ミナミは。大丈夫。私はいつでも、あなたの前で全力で弾き返してあげるわ。デビュー戦の時のようにね。だから張り詰めすぎないでかかってきなさい」
「私だって、成長したんだからね。見せてあげるわ」
「受けて立つわよ」

 勝っても負けても盛り上げて、この大会を成功させて夢を実現する。
 二人はがっちりと握手した。

おまけ(ここまでの年表)


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