連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第十九章 全日本対抗戦(東京ドーム) <入社4年目夏>
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トップ絵はなんと!あの女子プロ最高レスラーの吉祥と準ヒロインツツジのタッグ(^^♪
本章のダイジェスト
4団体による全日本対抗戦という祭典の開催が決定した。その実現に貢献したことは喜ばしいものの、その大会へ参加することは叶わなかったミナミは複雑な気持ち。
祭典は順調に進み、最終戦は本命DIVA対SJW。その大将戦として、DIVAは最高レスラー吉祥とツツジ(ミナミの親友)タッグ。
SJWは自団体トップ2の夢のタッグとなるアキラ・サクラ組で臨む。その試合は極めてレベルが高い好試合となり引き分け。しかし、AIスコアリングは、その中でも吉祥の評価の高さを浮き彫りにする。それもあり、個人MVPは吉祥。アキラは悔しそうにそれを眺める。
大会の後、大沢はミナミを誘ってオシャレなバルへ。出場が叶わず落ち込むミナミへの気遣いだけではなかった。選手と社員をかけ持つうしろめたさをぬぐえないミナミに対し、改革を進めるためにもその掛け持ちが必要であることを諭す大沢。その言葉に安堵し、緊張を開放するミナミだった。
そして、二人はそれぞれの想いを心に宿す。「その声は届いただろうか」……どちらのどの声のことなのか。物語は漸く最終局面へと進む。
本章本編
第98話 祭典
大沢とミナミは何度も交渉を重ね、ついに4社合意を得る。
主催はドーム大会の経験があるDIVAが担当。
実際は大手プロモーターを利用し、利益は各団体にシェア。
チケット販売、物販はそれぞれ団体ごとに行う。
「東京ドーム、2日間連続で抑えられてよかったですね」
「うん、ありがとう。記者会見で告知できそうだ」
記者会見では、AIが出場選手を各団体から6名選出した結果も発表された。
トッププレイヤーだけでなく、伸び盛りの中堅や有望若手とバラエティに溢れる選出がなされ、記者たちを驚かせた。
タッグ3チームの編成や順番を決める裁量は各団体に任された。
団体ごとの戦略要素を残すところもにくい演出だ。
サポートに来ていた橋本とミナミが、袖から会見の様子を伺っていた。
「単なるランキング順じゃないのね」
「これがLLMのすごささ。仕掛け人であるおれたちにも想像つかないような、思いがけない、でもかなり的を得たアイデアが生まれてくるんだ」
「ふふふ、こうやって大事なところは橋本君がそばにいてくれるから心強いわ」
ミナミはそう言って笑うが、ふと陰りを見せる。
(でも、やはり私は6人には選ばれなかった。まだランキングは低いままだもんね……)
4月から全戦参戦し始めたが、3ヵ月ではまだ同僚たちとの累積された差は埋まらない。
「また、がんばればいいさ。いつか、あそこに並ぶ日が来る」
「……橋本君、ありがとう」
そして迎えた初日は、
・DIVA×ガルパ、SJW×OWP
・DIVA×OWP、SJW×ガルパ
のダブルヘッダー。
「SJWとOWPの大将戦すごかったわね」
「サクラとイズミのタッグが渋谷組に勝ったんだもん。金星よね」
「ガルパにも勝ち越して2勝0敗でしょ」
「DIVAは安定してるわね。大将は吉祥だもんね」
「吉祥のパートナーはツツジだって。大抜擢ね」
「DIVAも2勝0敗だから、明日は面白くなるわね」
初日を終えて観客たちの満足度も高いようだ。
二日目は、
・エキシビジョン戦
・OWP×ガルパ、DIVA×SJW
エキシビジョンは勝敗関係なしの夢の競演。
AIが選んだボーダーレスマッチングは、吉祥、アキラ、クーガーのベビーフェイストリオと、渋谷、サクラ、イズミのヒールトリオ。
(こんな豪華な試合が見られるなんて……)
ミナミは大沢と運営席に座り、時間一杯に技のやり取りを楽しむ6人マッチを羨望のまなざしで見守るのだった。
そして、運命のDIVA×SJW戦が始まる。
第99話 最高の証
SJW×DIVAは、勝敗1対1で大将戦にもつれ込んだ。
大沢はツートップのアキラとサクラを大将にあてるサプライズ編成。
対するDIVAは吉祥とツツジ組。
「吉祥は全く隙がない。うちは最高戦力を集中する」
「……すごい戦いになりそうですね」
4人が入場すると、ドーム3万人の大観客が歓声を上げた。
「うわ……今まで見たことない盛り上がりです」
「歴史の1ページになるぞ。よく見ておけ」
「はい」
ゴングが鳴る。
ツツジとアキラが組手を牽制し合う。
お互い柔道出身者、両者ともなかなか優勢を取れない。
(ツツジ……がんばれ)
ミナミの内緒の応援を受け、ツツジが攻勢に出る。
一気に間合いを詰め、小内刈り、払い腰、そして大外刈り。
アキラは器用に捌く。
一旦離れると、サクラにタッチ。
ツツジも吉祥に代わる。
この二人は、真正面からガチンコで両手を組みあう。
所謂、手四つだ。
力はサクラが上。徐々に押し込むが、そこから吉祥の動きは速かった。
足を絡めてサクラを倒すと、ロープの反動を使ってドロップキック。
サクラは水平チョップ連打で反抗。
今度は吉祥をロープへ投げ、帰ってきたところをラリアット。
吉祥は前転で避ける。
「よく見ておけ。吉祥の動きを。いつか、ミナミの参考になるはずだ」
大沢は、なぜかヒールのサクラではなく、吉祥を見るように指示する。
「は、はい」
なぜかはわからないけど、いずれにしても目を離すつもりはない。
吉祥の動きは、アキラやサクラと対峙していても明らかに冴えている。
試合は目まぐるしく4者が入れ代わり立ち代わり技を出し合う展開。
転機はサクラだった。
吉祥が大技、パワーボムを仕掛ける。
その瞬間、サクラは口から毒霧を吉祥にお見舞いした。
「うわっ、毒霧!?」
ミナミも知らなかった奥の手だ。
吉祥は不意を突かれ、そこからサクラの猛攻を受ける。
パイルドライバー、リングサイドに落としてパイプ椅子攻撃。
リングに戻り、決め技の垂直落下式ブレーンバスター。
ツツジが止めに入る。
アキラも入って混戦状態。
回復した吉祥が乱戦の隙をついてサクラをボディスラムの態勢で抱え上げ、そのまま飛び上がり自分お体重もかけて垂直に落とした。
ノーザンライトボム。
吉祥の必殺技が炸裂。
アキラがカットに入る。
ここでゴング。
観客も大満足の好試合だった。
結果は両者引き分け。
しかし、オーロラビジョンには4人のスコアが表示されている。
吉祥のスコアは、他の3人より抜きんでていた。
第100話 祭りのあと
「それでは、技術、攻防、テンション、特別ポイントを合計した個人優勝の発表です」
結果は誰の目に見ても明らかだった。
「DIVAの吉祥選手です」
花束が渡される。
その光景を、最も悔しそうに見ていたのは、いつもはお淑やかでクールなアキラだった。
そして、団体総合優勝もDIVA。
大歓声の中、インタビューが終わり、ついに宴は解散となった。
「やっぱりDIVAはすごいな」
「あたりまえだろ。選手層が違うし、吉祥がいるからな」
「それにしても、あのAIシステムはすごいな」
「SJWが持ち込んだんだろ?」
「マッチングも話題になってたけど、リアルタイムスコアリングは画期的だな」
「あれが、今後のプロレスの基準になっていくんじゃねえか?」
「今回は歴史に残る瞬間に立ち会えた気がするぜ」
駅に向かう観客の興奮は簡単に冷めるものではなく、そこかしこで今大会の感想が飛び交っていた。
こうして2日間でのべ6万人をあつめた4社共同による東京ドーム興行は大成功で幕を閉じた。
大会終了後に各団体社長が集まり、簡単に今後の確認を行う。
ミナミも大沢に同行した。
大会の総括や精算もあるが、やはりAIシステムの取り扱いと次回共同イベントが全員の関心ごとだ。特にAIシステムについてはもはや無視できない大きな流れとして認識されつつある。
1か月以内に、次回の4社会談を持つことで合意し、やっと本解散となった。
「大沢さん、おつかれさまでした」
「ああ、ミナミも、よくやったな。おかげで大成功だ」
「良かったです。このあと、どうします?みんな打ち上げに行ってますが……」
「そうだな。ミナミは?」
そう問われて、頭を掻いて苦笑する。
「乗り遅れちゃいましたし、今日は出場選手が主役ですから、私は遠慮します」
「そうか」
大沢は、スマホを取り出し、画面を確認すると、もう一度ミナミの方に顔を向けた。
「じゃあ、この後食事でも行くか?」
「え?いいんですか?」
ミナミはパーッと笑顔を咲かせるのだった。
第101話 神楽坂
タクシーで10分ほど走り、神楽坂へ。
細い小道に入り、少し歩くと小さなスペイン料理のお店がある。
「うわー、おしゃれなお店ですね」
内装は白い壁に、木のテーブル、カウンター。
その奥で、シェフが挨拶をする。
「そちらのカウンターへどうぞ」
大沢は先ほどの予約でコース料理を頼んでいたようだ。
ワインで乾杯。
そして料理が次々と運ばれてくる。
(おいしそう。私、こう見えてもプロレスラーだから、食べることに関しては得意分野なのよね)
こうして、たわいもない話をしながら食事が進んでいく。
お酒も回ってきた。
(やっぱり、ふたりのときの大沢さんは優しくて……)
ミナミは少し、食べる手を止めた。
(優しくて……甘えてちゃだめだと実感する)
大沢もミナミの雰囲気の変化に気付いた。
「……で、今日の大会をみて、どうだった?」
「大成功だと思います。AIシステムもそうですし、選手もみんなのびのびと楽しそうで……」
「そうだな」
「ツツジも元気そうでした。ドームのメインイベントに出場しちゃうんだもの。やっぱりすごいです。私、嬉しかったです」
「そうか」
(違う。いや、違わない。でも違う。嬉しいのは嘘じゃないけど……)
「思ったこと、全部言っていいんだぞ」
大沢はぼそっと促す。
大沢にはミナミの気持ちは筒抜けなのだろう。
だから、選手たちの打ち上げではなく、二人での食事に誘ってくれたんだと、ミナミも気づいた。
「……私も、あそこに立ちたかったです。メインじゃなくても、第一試合でもいいから、選手として、リングに立ちたかったんです」
ミナミの瞳には涙が浮かび始めていた。
「この二日間、試合を見ながら考えていました。4月から全戦参戦してきました。朝練も夕方の自主練も……でも、まだまだ足りない。追いつけないんです。追いつけない……」
大沢は静かにうなずいた。
「……私、どうしたらいいんですか?仕事、あきらめなければいけないんですか?」
もう涙が止まらない。
薄々、感じていた。
(……そろそろ、両立は限界なのかもしれない)
そもそも、AIシステムが稼働し、4団体も巻き込まれ始めていて、すでに二人の理想は達成し始めている。
(大沢さんも、もう経営企画としての私には期待することがなくなったんじゃないの?であれば、選手に専念すべきなの?)
ミナミはかぶりを振る。
(そんなの……いや)
そんなミナミに対して、大沢は優しい目を向けた。
第102話 その声は届いただろうか
「ここまでこれたのは、ミナミががんばって両立してくれたからだ」
大沢は小さくつぶやいた。
「選手としての苦労を知らない企画の社員がどれだけ改革を叫ぼうと、選手は納得しないから実現はできない」
「……それって……」
(解体される前のZWW時代のこと?大沢さんは……そのころからひとりで奮闘していたの?)
「逆に、100%選手だとやはり改革などできない。会社は誰も契約選手の話など聞いてくれないからだ」
ミナミは目を閉じてを思い出す。
泣きながらマスクをかぶったワカバのこと。
自分を押し殺してSJWの想い看板を背負って立ち向かったサクラのこと。
そして何も言わずにSJWを去っていったツツジのこと。
「選手と正社員を両立する。そして、そのどちらも手を抜かずにしっかりと取り組む。ミナミがそれをやったから、今回初めて改革は成立するんだ」
「……それって……」
「ミナミには感謝してもしきれない」
そんな評価をされていたとは、思いもよらない。
「だから自信を持て。ミナミならこの先もやり遂げられる。ここまで来たんだから。この先に狙うのはミナミ自身が設計する理想像だ。選手と正社員の両立しながら、方向を見定めるんだ」
大沢が何を言わんとしているのか、今ならよくわかる。
ミナミは、自分の選択が間違っていなかったと安心すると、体の力がふっと抜けるのを感じた。
(あ……私、大沢さんに寄りかかってる……)
この匂い。この温もり。離れられない。
「選手としては、より大変になるけど、ミナミが望むならさらに強くなれるように特別の手配を考える。だから、今日はゆっくり休んで、明日に備えればいい」
(特別な段取り?……そんなの、どうでもいいや。いま、この温もりが私のすべてなの……)
ミナミの瞼はゆっくりと閉じていく。
「大沢さん……」
「なんだ?」
(私、大沢さんが好きです)
「え?」
(……知らなかったでしょ?……私の声は……いつか届くのかしら……)
「大沢さんは……私のこと……」
そう言いかけて、ミナミは寝息を立て始める。
疲れと酔いで限界を迎えたようだ。
「……今は、とにかく君の夢をしっかりと成し遂げることに集中するといい。おれは、そのためにならどんな手も貸そう」
そのかすれた声は、ミナミに届いただろうか。
大沢はその肩を抱く力を少しだけ強めた。
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