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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン?  第二十一章 卒業 <入社4年目秋>

第一章&全体目次はこちらから
SJWトップヒールのサクラさん!ついにトップ絵に見参(^^♪


本章のダイジェスト

  • 大沢とミナミが裏で進めていた『全日本女子プロレスリング統一チャンピオンベルト大会』が行われることになった。ミナミにも出場のチャンスが与えられるが条件を言い渡される。マスクを脱ぐかどうか判断すること、そして実家に一度帰ること。

  • 大会に向けて橋本にAIシステムの協力を依頼しながら相談をする。「ミナミはミナミのやりたいプロレスをやればいい」という言葉に安堵するミナミ。そして、橋本はケヤキ並木のライトアップをバックに、ついにミナミに告白したのであった。

  • 反対を押し切ってSJW練習生になって以来、数年ぶりの実家帰宅。そこには理解を示す両親とプロレス雑誌の束。実は、就職当初から大沢が両親に連絡を取っていた。ミナミに夢を叶えさせるために選手と経営を両輪で担わせること、そのためにもマスクを着けさせること、いずれマスクを取るときにはミナミを認めてあげてほしいこと……

  • そして地元長岡大会。ミナミはアキラと組み、サクラ・イズミ組とメインイベントに出場する。大役だった。ベテランに囲まれ苦戦するが、アラタとの特訓の成果を引き出し、善戦しドローをもぎ取る。

  • ミナミの善戦を讃えたのは、デビュー前からヒールチームの長としてミナミを支え続けたサクラだった。そのサクラにマスクを解かれ、ついにミナミは素顔でリングに立つ。まさにサクラからの卒業証書。その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

本章本編

第108話 新タイトル

 大沢が特訓の様子を見に来た。

「あら、大沢ちゃんだわ」

(さすがZWW元トップ。当時の企画部長もちゃん付なんだ……)

 大沢は一言二言アラタと会話すると、ミナミの方を向く。

「全日本チャンピオン大会の提案にDIVAが乗ってきた。交渉を始めるぞ」
「本当ですか?」

 ここしばらく大沢とミナミが構想を練っていた企画。

『全日本女子プロレスリング統一チャンピオンベルト大会』
 
 前回と同様4団体対抗戦ではあるが単なるトライアル対抗戦ではない。
 シングルの頂点を決めるトーナメント戦。
 決勝戦で新設のチャンピオンベルトをかけて争う4団体公式タイトルマッチだ。

(4団体が一つの目標に向けて切磋琢磨する。究極系にはまだ遠いけど……)

 ミナミはガッツポーズを見せる。

「あと、おれの独断でジュニア級もベルトを作ろうと提案しておいた」
「ジュニア級?」
「デビュー五年目までを対象としている。もちろん、ミナミも対象だ。AIシステムが選べば、だがな」
「……私も?」

 前回の対抗戦は出場できずに涙した。

(今回は……出場のチャンスがあるかも?)

「ただし、エントリーする前に二つ条件がある」
「条件?」

 大沢が条件と言ってきたということは、それなりに面倒くさいことを言われるに決まっている。

「一つ目は、マスクを脱ぐことを考えること」
「ええ!?マスクを?」
「結論はどちらでも構わないが、そろそろ今後のレスラー像を真剣に考えるタイミングだと思う」
「……観客に受け入れられるか不安です」

 最初は内心嫌がってた覆面ヒールだったが、観客も自分も慣れてしまっている。不安になるのも当然だ。

「今のミナミの実力なら問題ないはずだ。そしてもうひとつ。次の長岡大会の前に、実家に帰ること」
「え?」

(実家の話はほとんどしたことがないのに……)

 両親の反対を無視して練習生になってからの4年間、まともに連絡していない。

「トーナメント直前のタイミングだ。ミナミは実力でビジネスとプロレスの両立を実現している。そろそろきちんと理解してもらえるはずだろ。それが今回の条件だ」

 そして、大沢とミナミは各団体との交渉を重ね、10月中旬にようやく合意。

 各団体それぞれからヘビー級8名ずつ。
 12月からトーナメント開始。
 クリスマスのドーム大会にて準決勝、決勝を争う。

 ジュニア級は各団体2名ずつ。
 準決勝、決勝はヘビー級の前のセミメインイベントとして行う。

 出場選手はAIが選任することとなった。

第109話 ケヤキ並木

「というわけで、また今回もご協力をお願い!」

 橋本の目の前で両手を合わせてお願いするミナミ。

「ね、今日は私が奢るから」
「……まったく。次から次へと。ミナミといると飽きることがないよな」
「でしょ?楽しいでしょ?」
「まあ、継続した営業収入にはなるから助かってるさ。もう少し早めに言ってくれたらもっと助かるけどな」

 苦笑する橋本。

「無理させちゃってるもんね。本当にありがとう」

 二人はビールで乾杯する。

「また東京ドーム?」
「そう。クリスマスの2DAYS」
「わかったよ。予定空けておくよ」
「あ……もしかして……」

 ミナミは食べる手を一瞬止める。

「彼女と予定とか、大丈夫?」
「……」

 橋本はまじまじとミナミを見つめる。
 そこに、邪気が全くないことは長い付き合いでわかっている。

「そんなのないよ。心配すんな」
「よかった。あ、いや、そういう意味じゃないわよ?」
「なんだそれ。そういうミナミはどうなんだよ」
「私?今はトーナメント一筋。絶対に興行としても成功させる。そして、私も優勝する」
「応援するよ」
「ありがとう。関係者用の特等席用意しておくわね」

 こうして、お酒が進んでいき、ほろ酔いの二人。
 散歩しようと公園通りを北上し、人もまばらとなったケヤキ並木をブラブラと歩く。

「え?ついに、覆面外すのか?」
「まだ決定じゃないけど、考えておけって」
「そっか。で、ミナミはどうしたい?」
「……不安なの」

 歩を緩めるミナミ。

「覆面でやってきて、今更素顔になって受け入れられるのかしら……ってね」
「……」
「でも、私にはあこがれの選手がいてね。とっても素敵でかっこいいの。凛とした表情で相手に立ち向かっていた」

 ミナミの表情はすがすがしい。

「素顔でやりたいんだな」
「……そうかもね」
「覆面でも素顔でも、ミナミはミナミのやりたいプロレスをやればいい。それがおれたちを勇気づけてくれる」
「……ありがとう。前も同じように言ってくれたよね。嬉しかったんだよ」

 ミナミは微笑んだ。
 そのミナミの手をそっと取る橋本。

「ミナミ。君が好きだ」
「え!?」
「おれは、ミナミが好きだ」

 ミナミは突然のことで真っ赤になる。

「クリスマス大会が終わったら答えを聞かせてほしい」
「……」

 まさか、いきなり告白されるなんて。
 心臓が二倍速に跳ね上がる。

(でも……知っていた。橋本君はずっと見守ってくれていたもの……)

「ありがとう。真剣に考えるね」

 ミナミは、橋本の手をそっと握り返した。

第110話 実家

「まあ、元気そうでよかったわ。体、大きくなったわね」
「そ、そう?」

 数年ぶりの実家。
 父は外出中。すぐに戻るとのこと。まあ、気を使ったのだろう。
 母と二人でリビングでお茶をする。

「仕事と試合、しっかりやってるの?」
「まあまあね。まだまだこれからよ……あれ?あの雑誌……」

 テレビ台の下に見慣れた雑誌が束になって置いてある。
 ミナミはそれを手に取った。

『週刊WW』

 女子プロレス専門誌である。
 ところどころ付箋が貼られている。

「大沢社長さんが時々送ってくれるのよ」
「え?ええ!?大沢さんが?」
「そうよ」
「てか、なんで大沢さんを知っているの?」

 そんなこと、聞いたこともなかった。

「あら、知らなかったの?あなたが就職するときに、社長さんが挨拶に来てくれたのよ」
「ええ!?」

 さらなるサプライズにミナミは唖然とする。
 母は週刊誌をパラパラとめくりながらミナミに伝え始めた。

「『大事な娘さんを預かりたい。選手としても魅力的だし、経営にも携わってほしいと考えてます』ってね。中小企業なのにしっかりした社長さんね」
「私、そんなの聞いたことなかったわ」
「そうなのね。じゃあ、なんで正社員として迎えて経営に関与させたいかも聞いていないのね」
「え!?」

 たまたま、東大経営学部卒だったから……じゃなかったのだろうか。

「『ミナミはプロレスを改革したいと考えているから、それを実現させてあげたい。そのためには、選手の立場ではなく、経営側にも立たないといけない』って言ってたわね」
「……うそ……」

 そういえば、同じようなことを先日も聞いた気がする。

(……最初から、そのつもりだったの?)

「それとね。覆面レスラーでデビューするときにこの雑誌と共にお手紙を送ってもらったわ」

 母はデビュー時の小さな記事のページに挟まれた手紙をミナミに手渡した。

 そこに、大沢の想いが書かれていた。

 ミナミの夢を実現するためには、素顔が世間に広まらない方がやりやすいこと。
 ミナミが両親の理解を得るための時間も必要。
 だから覆面でデビューさせるが、いつかミナミが自信をもってマスクを取り、素顔で胸を張れる時が来たら、理解を示してほしいというお願い。

 手紙を持つ手が震える。
 
「いい社長さんに巡り合えてよかったわね。そして、よく頑張ったわね。お父さんももうすぐ地酒買って帰ってくるから、お祝いしましょう」

 ミナミは声も出せずに、ただただ頷き続けるのだった。

第111話 決意

 翌日。
 11月最終戦となるアオーレ長岡大会。

 ミナミの故郷。
 そしてミナミがZWW時代のアラタの試合を見てプロレスラーになる決意をした場所だ。

 SJWとしては初の開催となる。
 メイン試合には、なんとミナミが出場する。

 ミナミにとって凱旋ではあるが、業界ではもはや公知の事実になりつつある覆面ヒールサザンの正体でも、世間一般では未だにベールに隠れている。
 3千人の満員の観客も、そのメインイベントであるタッグ戦の一角を、地元出身のミナミが担っているとは知らなかった。

「AIが決めたマッチングだよ。まあ、ミナミの地元が長岡で、初の凱旋だという情報をAIに追加で入れといたんだけどね」

 お茶目なことを言うのは営業の北沢だ。

(まったくもう……完全公平公正だって言ってるのに……)

 でも、悪い気はしない。

 相手はサクラとイズミのヒール最強コンビ。
 そして、ミナミは初めてのアキラとの異色コンビを組むことになっていた。

 試合前。
 会場に向かう通路に大沢がやってくる。

「大沢さん。いろいろとありがとうございました。実家で、気付いたこと多かったです。そして、ずっと父や母とも連絡を取ってくださったんですね。本当にありがとうございます」

 大沢の目の様子はサングラスでわからない。
 でも髪をかき上げるしぐさは照れている証拠だろう。

「ま、まあ。ミナミががんばった成果だから。まあ、とにかくがんばれ」
「大沢さん。私、絶対に大沢さんの期待に応えます」
「お、おう」
「まずは、ジュニアトーナメントの選手に選ばれて、そして、頂点に立ちます。大沢さんに、ベルトをプレゼントします」

 それを聞いて、大沢はやっと表情を崩した。

「そうだ。それでいい。高い目標を決めて、それにチャレンジする。それがミナミの魅力だ。無謀なことも多いけどな」
「ちょ、ちょっと待ってください。そこ、落とさなくてもいいじゃないですか」

 ミナミは思いっきりのふくれっ面を大沢にぶつけた。

第112話 決断

「まじめな話してもいいか?」
「はい……なんでしょう?」
「ミナミが覆面で続けたいか、取りたいか」
「はい。実家でも話をしました。もうマスクに頼らなくてもやっていけます。今日にでも、マスクを外そうと思います」

 それを聞いて、大沢は大きく頷いた。

「わかった。それで、マスクを外したらミナミはヒールを続けるか?ベビーフェイスに移るか?」
「え?それは……」

 ミナミは一瞬の間を置いた。
 すでに、結論は出ている。

「……私。やっぱりアラタさんみたいになりたいです」

 大沢はまた大きく頷いた。
 アラタは旧ZWW最後のベビーフェイストップレスラーだ。
 そこを目指すというのなら、答えは一つ。

「わかった。であれば、今日のタッグはいい経験になると思うよ」
「あ……」

 今日のタッグパートナーは、SJWの現ベビーフェイストップのアキラだ。

「はい。勉強してきます」
「そうするといい。でも一つだけ約束してほしい」
「え?」

 ミナミは不安に感じる。
 大沢のひとつだけ、は大概2~3この条件を言い渡されるフラグだからだ。

「マスクを脱ぐのは今日の試合終了後だ。でも、試合内容が悪かったら延期だ」
「はい」
「で、マスク脱ぐまでは、ヒールレスラーに徹すること。今特訓している新技も使うなよ」
「ええ?」

 大沢が秘密訓練中の新技を知っていることに驚く。

(……ああ、アラタさんからレポートされているのか。それにしても、新技なしで大丈夫かしら……)

 不満そうなミナミの表情を察した大沢は説明を追加する。

「マスクを脱ぐという効果は大きい。でも、それを最大限にしたいなら戦い方も変わったということを示す必要がある。つまり、新たな必殺技が必要だ」
「……ベビーフェイスでの試合まで温存した方が良いと?でも、トーナメントに選出されなかったら……」

 今日の試合が終わったら、もう選手選出。そして、来週はトーナメント初戦だ。

「安心しろ」

 大沢はミナミの両肩を掴んだ。

「ミナミは絶対にメンバーに選出される。それだけの実力を身に着けている。自信を持て」

 いつの間にか、大沢の後ろに、アラタとアキラ、イズミが立っていた。
 三人とも、自信を持った表情で頷く。

「わかりました。大沢さんのアドバイス通りにやってみます」
「ああ。最後のヒール、満喫して来い」

 ミナミは覚悟を決めて、アキラと共にメインイベントに向かって歩き出した。

第113話 卒業証書

 聞きなれたヘビメタ調のオリジナルヒールチーム入場曲が流れる。
 サクラとイズミが先に入場した。

 続いて、ポップな入場ソングが流れる。

「じゃあ、ミナミちゃん。行きましょうか」
「はい。今日はよろしくお願いします」

 こうして、アキラ、サザン組もリングに上がった。

 ゴングが鳴る。

 トップレベルとレジェントレベルの中に、一人だけジュニアが混ざっているのだから、集中砲火を受けるのは当然ミナミだった。

(でも、簡単にはやられない)

 ミナミはアラタとの特訓の成果を引き出す。
 新技ではない。
 技のキレをはじめとした、力学的な根拠を持った完成度だ。

 軽量級の重量の不利をスピードとキレで利点に変える。
 まさに、F=mΔv/t。
 mがなくても、Δv/tで勝負できるはず。

 ミナミはスタミナの続く限り動き回った。

 それでも、やはり相手は長年の経験と実績を持つ。
 理論を越えた強引な突破力を発揮し追い詰める。
 そしてサクラの凶器攻撃。

「避けて!」

 アキラが声を上げる。
 これを食らったら本当にやばい。

 そのとき、ミナミは左手を自分の喉にあてていた。
 直前に飲み込んだカプセルを咬む。
 
 掟破りの毒霧噴射!

 ピンク色の毒霧を受けてサクラは一瞬ひるむ。
 その隙をついて、両腕をまっすぐに固め後ろに投げる。
 タイガースープレックスだ。

(これは新技じゃないもんね)

 そして、アキラにタッチする。

 アキラは正統派の技の連続でヒール攻撃を封印していく。
 そして、ついにサクラをリング中央でダウンさせた。

 やばいと思ったイズミがすかさずカットに入る。
 アキラがそれに応戦。

 そして、アキラはミナミに目で合図を送った。

 ミナミは、その意図を受け取ってコーナートップロープに一瞬で飛び乗る。
 そこから、一気に前転しながら飛び出した。

 デビュー前からヒールチームリーダーとして自分を引っ張ってくれたサクラに対する、感謝の気持ちを込めたローリングギロチンドロップだ。

 ミナミはインパクトの瞬間に体を硬直させ、速さと硬さを上げる。
 これがサクラにクリーンヒット。

 そこで、ゴングが鳴る。
 60分の試合が終了した。

「……やるじゃねえか。ゴングが無かったら厳しかったぜ」

 サクラが、ミナミの手を掴む。
 そして、高らかとその手を挙げる。

「おれからの卒業証書だ。胸張れよ」

 サクラは、ミナミのマスクを解いていく。
 アキラもイズミもその様子を嬉しそうに見守った。

 マスクを外したミナミの素顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

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