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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第二十四章 チャンピオンシップ決勝 <入社4年目冬>(後編)

第一章&全体目次はこちらから
トップ絵は主人公のミナミ(^^♪
16章以来のずいぶんお久しぶりのトップ絵カムバックですw
(しかも素顔でのトップ絵登場は13章以来……主人公なのに不憫すぎる💦)

今回で本編は完了です。ツツジの秘密兵器、雪崩式一本背負いで意識を絶たれたミナミ。この後どうなるのか?お楽しみくださいね🎵
(本章の後はエピローグを残すのみ♪)


本章のダイジェスト

  • 意識を失ったミナミは、過去のことを思い返していた。

  • 中学の時、大学一年生の時、社員になってから……常に大沢が見守ってくれていた。ミナミの想いを覚えていてくれていた。スキだという気持ちは届かなくても、ミナミは幸せですと感謝したい。

  • 「ミナミ!」大沢の声でミナミの肩が反応する。「まだやれます」。カウントは2で止まった。

  • その後もツツジの猛攻が続くが、何とか凌ぐミナミ。ツツジはさらなる秘密兵器、逆二本背負いで追い込みをかける。しかし、それを受けきると覚悟を決めたミナミ。技を受けた後、気合で立ち上がる。

  • そして、ミナミらしいスピードと技のキレで逆にツツジを追い込む。トップロープに登ると、天を指し「いくぞー」の掛け声。ツツジが目を疑うような新技はフェニックススプラッシュ。そこからジャパニーズオーシャンスープレックスへとつなぐコンビネーション。ついにツツジから3カウントを奪い、初代ジュニアチャンピオンとして白いベルトを腰に巻く。

  • 善戦を讃え合い、これからの夢を語る二人。そしてミナミは、行くところがあると言い、ツツジは行って来いと背中を押した。

  • ミナミは大沢に会いに行く。そして、これまで見守ってくれたことに感謝を伝え、そして自分の気持ちを伝えた。「怖いんです、夢が叶ってしまったら……」ミナミは俯いて震える。そして……(あとは本編読んでね)

本章本編

第128話 追憶

 中学一年生のとき、女子プロレス団体ZWW事務所の扉を開けた。
 入団したいと言うと、若い面接官が部屋に通してくれた。

『私はプロレスが好きです。アラタ選手にあこがれています。でも、学校ではみんなやらせだといって笑います。私は、そんなことを言わせたくない。私がプロレスラーになって、究極の技と技のぶつかり合いの魅力がきちんと評価されるようなプロレスの世界を作りたいんです』

(あのときの面接官が大沢さんだったのね……アラタさんにも会わせてくれましたね)

 大学一年生のときも。

『いずれ純粋な技と技の凌ぎ合いによって人を感動させる団体を作るから、卒業したらそっちに入団しにおいで』

(私の想いを……覚えていてくれたんですね)

 SJWに加入してからも。

『このまま不合格にするのはもったいないということで、別の選択肢を用意してみた』

 選手と経営に両立の機会をくれた。
 覆面を提示してくれて、自分の覚悟と両親の理解の時間をくれた。
 M&Aでイズミさんと組む機会をもらった。
 体を心配してギロチンドロップを授けてくれた。
 八王子でのデビュー戦。
 ツツジのためを考えて送り出してくれたタッグ戦。
 AI改革、ガルパへの遠征。
 そして、アラタさんをトレーナーに紹介してくれた。

 たくさん。
 本当にたくさん。

(10年以上前の中学の面接のときから、ずっと見守って、支えていてくれたんですね)

 例え、スキだという気持ちは届かなくても。
 ミナミは幸せですと、こんなにたくさんをもらった感謝を伝えたい。

『……ミナミ』

(声が聞こえる。大きな歓声の中でも、私にはわかる)

『ミナミ!』

(……はい……ここにいます)

「ミナミ!がんばれ!」

 ミナミはぼんやりとした視界の中に、はっきりと大沢の姿だけを認識した。
 今まで見たことがない。
 立ち上がって、力一杯に叫ぶ大沢を。

(はい!まだやれます)

 ミナミの体がびくっと動く。
 肩がマットから、わずか1cmだけ浮いた。
 レフェリーはそれを見逃さなかった。

 カウントは2で止まった。

第129話 終盤戦

 ミナミの耳に、5万人の大歓声が戻ってきた。
 意識がはっきりしてきた証拠だ。

(あぶない、気を失っていた。負けるとこだった?)
 ミナミはオーロラビジョンに視線を向ける。
 今ので点数はツツジに大きく引き離された。

(でも……3カウントは取られなかった。大沢さんの応援のおかげです)
 ミナミは大沢に視線を移す。
 大沢は両手のこぶしを握り締めて頷いている。

(まだ……やれます)
 でも、体が動かない。足が重い。

 ツツジがミナミを無理やり立ち上がらせる。
 バックに回られて腕を取られる。
 逆一本背負い。
 ツツジの十八番だ。

(やらせない。背負い系の破り方は身についているわ)
 ミナミは、思いっきり自ら飛び上がることで半回転多く回り、足から着地し難を逃れる。

「ほう、まだそこまで動くの?やるわね」
「……まだまだ、これからよ」

 ミナミはニコッと笑う。
 ツツジも笑みを返すと、猛攻に出た。

 小内刈り、背負い、大外刈り、払い腰。
 容赦なく柔道技で攻め立てる。
 ミナミはなんとか避けるだけで精一杯。

(……でも、足のダメージは回復してきている)

 ミナミは自分の体の状態把握に努める。
 足の踏ん張りが戻ってきている。
 一方で、上半身のダメージは深刻だ。
 でも……

(あと一発なら、ツツジの必殺技を受けられる。そこで、一気に巻き返す)

 そして、その時が来た。

「これが私のとっておきよ」

 ツツジはミナミの背後でミナミの両腕を担ぐ。
 逆一本背負いの両腕背負いバージョン。
 いうなれば、逆二本背負いだ。

 タイガースープレックスやジャパニーズオーシャンスープレックスと同様に、両腕をロックしているので受け身を取りにくい。

(まだ、こんな技を隠していたなんて……なんとか、耐えろ!私!)

 ミナミは集中力を高める。
 頭は揺らすな。
 首から肩に緊張感を。
 そして、インパクトの瞬間に首を上へ持ち上げるんだ。
 これで少しでも速度緩和し時間を稼ぐ。

「ぐがっ」

 背中をマットに打ち付けられる。
 カウントが入る。

「1……2……」

 ツツジの新技を食らい、もう無理だろうと誰もが思ったそのとき……
 カウント2で体をひねらせ逃れる。

(やった。覚悟を決めていたおかげで意識を保てたのは大きい。体に鞭打ってでも、ここで動くべきだ)

 ミナミは雄たけびを上げながら、ツツジよりも先に立ち上がった。

「「うおー---」」
 観客は驚き、大歓声を上げる。
 しかし、一番驚いていたのは、技を放ったツツジだった。

第130話 決着

 片膝をついて立ち上がろうとするツツジ。
 先にミナミが走り込む。

「うおおおおー」

 ツツジの片膝を左足で踏み台に、そして右足で顔面を貫く超至近距離の膝蹴り。
 踏み台を使うことで、硬い膝に全体重を乗せて高速でぶつける。
 F=mΔv/Δt
 シンプルだけどm、Δv、1/Δtのすべてを最大化させるおそるべき技、シャイニングウィザードだ。

 ミナミはさらに花道にでると、全力で助走をつけてリングに向かって走り込んだ。

「くらえ!」

 花道からトップロープに飛び乗り、そのままのスピードを使って強烈なミサイルキックをツツジに打ち込む。
 ツツジは二回転して仰向けにダウン。

(私の右足、今度はしっかり踏ん張ってね)

 ミナミはワンステップでコーナートップロープに登った。
 そして、天を指さす。

「いくぞー!」

 ツツジはローリングギロチンドロップを警戒し、回避の準備に入る。

(ローリングギロチンなら、一度リング方向に向きを直す時間が必要なはず。その隙に避けることができるはずだ)

 しかし、ミナミはリングに体を向けることなく、そのまま一気にバク宙の形で飛び出した。

(……まさか、ムーンサルト?いや、違う。これは……ミナミの進化系?……)

 ツツジは為す術なくそれを見上げた。

 ミナミは、バク転の形で離陸したあと、180度横に回転し空中で前を向く。そこから1回転超前転することで速度をつける。
 そしてツツジの上半身に、自分の上半身のプレスを与える。

 秘密に開発していた新技、フェニックススプラッシュだった。
 しかし、そこでホールドにはいかない。

「ツツジ、これが私の全力よ」

 ミナミはツツジを起こし上げると、バックに回る。
 決め技はジャパニーズオーシャンスープレックス。
 大きく速度が速い回転弧。
 両腕を複雑にロックしたインパクト。
 つま先までピンと伸びたブリッジでフォールする。

 カウントが入る。

「1……2……」

その声を聴きながら、ツツジはゆっくり目を閉じた。

(……こんなコンビネーションを身に着けていたんだね。やっぱり、ミナミはすごいよ。さすが、私のライバルね……)

「……3!」

 レフェリーがカウント3を宣言する。
 会場が静まり返った。

 そして、一瞬の時を経て。

「「うおおおおおおお」」

 大歓声に包まれる。

 オーロラビジョンには、ミナミの勝利が宣言されていた。

 ミナミは大沢の方を見る。
 大沢は、うんと頷く。

(ついに、やったわ……)

 ミナミは天井を見上げた。

第131話 白いベルト

 上半身を起こしたツツジに近づくミナミ。
 ゆっくりとひざを折り、その上半身に抱き着く。

「……おめでとう、ミナミ」
「ツツジ、ツツジのおかげよ……」
「あなたの実力よ。今回はね。次は負けないわ」
「うん、楽しかったわ。また、次もいい試合しよう」

 二人はきつく抱きしめ合って、讃え合った。

 その後、リングアナが真白いジュニアチャンピオンベルトをミナミの腰に巻く。

「こんなに大きいんだ」

 ぶかぶかのベルト。
 はにかむミナミ。

 そのミナミの手を高々と持ち上げたのはツツジだった。

「ねえ、ミナミ。私、次を考えたんだ」
「あら、なんとなくわかっちゃった」
「ふふふ、私、もう四年目だし、先にヘヴィ級に移って赤いベルトを巻いてミナミを迎え討つことにする」

 ジュニア級は五年目までと定義されていることからも、ヘヴィ級に移っても違和感は無いタイミングだ。

「やっぱりか……じゃあ、私も早く移らなきゃなきゃね」
「まだ二年目なのに?」
「あら、年齢は同い年でしょ」
「確かに」

 二人は笑いながら観客に礼をすると、手をつなぎながら花道を引き揚げる。
 その時、ミナミはスタッフ席に大沢がいないことに気が付いた。

『試合が終わったら、またここに来てくれるか?』

 確か、試合前にSJW運営控室で大沢はそう言っていた。
 多分、大沢が待っている。

(やるべきことは全部やった。ベルトも手に入れた。これで自信をもって……)

 ミナミは手に力を入れる。

(自分の正直な気持ちを伝えられる。拒絶されるかもしれない。実は、やはりアラタさんと付き合っているかもしれない。それでもいい。今日が最後だとしても、今言わないといけないと思う)

 花道から通路に戻ると、ミナミはツツジの両手を掴んだ。

「ごめん、今から行くところがあるの。休憩時間、10分くらいしかないと思うし」

 ツツジはにっこり笑う。

「わかってるわ。自信もっていってらっしゃい」
「ありがとう、じゃあ、またね」

 走り去っていくミナミ。
 ツツジは苦笑いしながら手を振る。

(あーあ。もし帰ってこなかったらこの後の試合後インタビューどうしよう。敗者の私一人で受けろって言うのかしら?……拷問じゃん。私も、ばっくれようかしら……)

第132話 夢

 ミナミは恐る恐るドアを開ける。
 やはり、大沢はそこにいた。

「大沢さん、あの、私、勝ちました」
「ああ、よくがんばったな。お疲れ様。そして……おめでとう」

 ミナミは大沢に白いベルトをそっと外して手渡した。
 大沢はそれをゆっくり眺める。
 そして、優しい笑顔でミナミに囁いた。

「どうだった?肩の荷降ろして、楽しめたか?」
「はい……あの……」

 ミナミは、もじもじする。

「……はい。決勝に出て、ベルトも取れて、こんなにもたくさんの観客が、私たちの技と技のぶつかり合いを楽しんでくれたと実感できました。私、幸せです」
「よくここまで頑張ったな」

 そして、コスチューム姿のままのミナミにコートをかける。

(……暖かい)

 その優しさに、体も心も温まる。

「大沢さんのおかげです」
「ミナミの努力の賜物だろう」
「試合前にアラタさんを連れて来てくれたのも大沢さんですよね。私、おかげでしっかりと試合に集中できました」

 ミナミはグッと一息飲み込む。

「私が中学のころから、ずっと見守ってくれていたんですね。本当にありがとうございます」

 照れているのか、苦笑いを見せる大沢。
 ミナミも苦笑い。

「本当に感謝が絶えません。でも、怖いんです。夢が叶ったら、私は……もう……」

(もう、大沢さんに必要とされないかもしれない……)

 ミナミは俯いて震える。

 大沢はミナミにむかって近づいていった。
 その気配を感じ、ミナミが顔を上げる。

「……」

 大沢は、真正面からミナミを包み込むように両腕の中に抱き寄せた。

「おれは、これからもずっとミナミと一緒にいたい。頑張るミナミの夢が叶うまではと思っていたけど。これから先もずっと一緒にいたい」
「……それって……」
「おれはミナミが好きだ。ミナミと一緒に、もっとたくさんの夢を叶えたい。夢が叶えば、次の夢を作ればいい」

 ミナミは大沢の腕の中で、宙を見上げた。
 緊張が解けて、涙が一筋頬を伝う。

「大沢さん……」
「これからも、そばにいてくれるか?おれと一緒に、これからも」

 大沢は手を緩め、ミナミの顔をまっすぐに見る。
 ミナミの顔はぐしゃぐしゃだった。

「はい、私も。大沢さんが好きです。優しくて、信念にあふれて、大きな夢をもっている大沢さんが好きです」

 大沢がミナミを見つめる。
 ミナミも大沢を見つめる。
 二人の顔が近づく。

 背後でヘヴィ級決勝戦の入場テーマ曲が聞こえ始めた。
 大歓声が聞こえる。
 それらすべて、二人の耳には届いていないようだった。


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