小説・エッセイ。言葉を嗜む写真家。 人生のモットーは「くだらないロマンスを作る」こと。…

小説・エッセイ。言葉を嗜む写真家。 人生のモットーは「くだらないロマンスを作る」こと。 instagramを中心に活動。都内在住。

マガジン

  • 「青くなれなかった春に」

    どうでも良いことが全部愛おしく思えるような日々に恋焦がれていたかつての僕。 灰色にしか見えなかった春も、大人になって見ると、意外に「青かった」のかもしれないと思えるようになった。 これは、青くなれかった僕の幼稚な春のお話。

  • 短編小説集「今日も君を忘れられない」

    誰もが抱える忘れられない人に纏わる「後悔」を物語に。

  • 親愛なる私たちに向けた言葉

    あとで読む記事をマガジンに保存しておくことができます。不要であれば、マガジンの削除も可能です。

最近の記事

「来年も花火しようね」と君が言った。

遠くから君が呼ぶ声が聞こえた気がした。 思い出に深く根を張り過ぎた、あの頃の君のままの声で。 微睡みの中の君は、まだ僕等が共にいた時間の中を生きていて、人気のない真冬の海岸沿いを駆けながら、その華奢な背を追いかける僕を見て笑っていた。 その光景は、まるで映画のワンシーンみたいなのに、確かに存在していた幸せな日常だった。 君が立ち止まって「ねぇ」と問いかけてくる。けれどもその先に続く言葉は聞こえなかった。 やがてほんのりと優しさを漂わせた色彩豊かな光が強くなり、その温

    • 「先輩なら、きっと大丈夫ですよ」

      「お、やっぱりここにいたね」 立て付けの悪い図書室のドアが軋んだ音をたてたかと思うと、聞き慣れた声がした。振り返るとそこには「よっ、後輩くん」と手をヒラヒラと遊ばせる先輩が立っていた。 「久しぶりですね先輩。どうしたんですか? もう冬休みですよ。もしかしてまた間違えたんですか?」 「またって何よ。間違えてないから。君は私のことなんだと思ってんのよ」 「先輩は先輩です。馬鹿で横柄で、世間知らずで、それでいて超わがままで最低な人です」 「久しぶりに会ったのにひどい言い草

      • 「つまらないままの貴方でいてね」

        桜の花みたいな寂しさを纏う人だった。 大学一年生になったばかりのある春の日のこと。 田舎から上京して初めての一人暮らしで、慣れない環境での生活によるストレスで積もった心細さを埋め合わせるみたいに、急かして作った友人に誘われるがままに、私はサークルの新歓に参加した。 その空間は、私が生きてきた十八年という時間の中には存在したことのない居心地の悪さで、同じサークルだからと気安く肩を抱いてきたり、連絡先を交換しようと迫ってきたりする先輩たちに嫌気がさし、心の拠り所を見つけるど

        • 「名前のある関係になりたかったんです」

          好きな人がいます。 片想い歴は、かれこれ一年くらいでしょうか。 彼とは大学二年生の時に再履修したドイツ語の授業で出会いました。言い訳ですが、出席日数が足りなかったとか、授業態度が悪かったとかが理由で落単したわけではなく、うっかり期末テストの日程を間違えて受け損ねただけです。 因みにですが、同じ理由で必須科目の「マクロ経済学」も落としました。こちらはまさかの抽選外れが続いて、四年生になった今履修しています。 今度落としたら留年が確定する緊張感はなかなか手に汗握るものがあり

        「来年も花火しようね」と君が言った。

        マガジン

        • 「青くなれなかった春に」
          13本
        • 短編小説集「今日も君を忘れられない」
          5本
        • 親愛なる私たちに向けた言葉
          9本

        記事

          「先に出会ってたら、好きになってたよ」

          東京、渋谷駅。センター街を少し進んだところに、映画の名前を冠したカクテルが楽しめる「八月の鯨」という小洒落たバーがある。 リンゼイ・アンダーソン監督の手で描かれたアメリカ映画を店名に冠するバーのカウンター席で、悠二は一人グラスを遊ばせていた。 偶然最終選考まで進んでしまった大して興味のない企業の面接を受けるために、東京にやってきた悠二は、目的であった面接を午前中に終えてしまい、帰りの深夜バスまでの暴力的に有り余った時間の使い方に迷っていた。 数ある名作タイトルの中から「

          「先に出会ってたら、好きになってたよ」

          死神はサンタのようにやってくる

          数年前に一度だけ、「あっ、死にたいかもしれない」と思った夜があった。 ふと気づいた瞬間、真横に自分の身長の倍ぐらい大きな鎌を持った死神がいて、 「どうも〜、死神です。突然なんだけど、今日なんか死にたくない? 今なら楽に死ねる方法教えてあげるけど、どう?」 「あ〜、どうもこんばんは。今日は星が綺麗みたいですね。空気が澄んでるのかなぁ。明日は快晴かもしれませんね。言われてみれば確かに死にたいかもしれません。ちなみにそれってどんな方法ですか?」 みたいな世間話のついで程度の

          死神はサンタのようにやってくる

          過去を嘆きながら生きるには、人生はあまりに長すぎる

          今の日本人の平均寿命は、男性が82歳、女性は88歳ぐらいらしい。 人生100年時代にはまだ程遠いものの、人類の進歩は目覚ましい。 そう遠くない未来、100歳まで生きるのはデフォルトの時代になるのかもしれない。(正直私はそれを望んでいないのだけれど) では、例えばの話。10代のうちにしか出来なかった後悔があったとしよう。 今10代の人は最近の後悔を、もう20歳を超えていい加減現実に打ちのめされ始めている人は過去の後悔を思い返してみてほしい。 制服を着てデートしたかった

          過去を嘆きながら生きるには、人生はあまりに長すぎる

          恋愛が分からないって、きっと体調不良だよ

          恋愛感情って、いつの間にか行方不明になります。 しかも決まっていつも突然。 夏の夕立ぐらい気まぐれにふらっと現れてくることもあれば、そのまま一瞬で過ぎ去ってしまうこともあります。 「あれ、好きだと思ってたんだけど違ったみたい。あの胸の高鳴りは一体なんだったんだろう」と思った経験は最早数えきれません。 心理学者アドラーは、「人の悩みは全て人間関係に関する悩み」だと解きましたが、その実殆どは異性への恋心の悩みなのではないでしょうか。 僕の元には度々こんな質問がきます。

          恋愛が分からないって、きっと体調不良だよ

          「恋人がいる人が魅力的に見えるのは、当たり前のことじゃない?」

          「恋人がいる人が魅力的に見えるのは、当たり前のことじゃない?」 そんな話を聞いたのは、目黒通り沿いにある神乃珈琲でのこと。日記によると、梅雨なのに雨の降る気配が全くない快晴の日だった。 当時毎週日曜日の早朝に通うことがルーティンになっていたそのカフェは、休日なら開店時間には行かないと席が取れない。 僕はその店の月煎というブレンドと、クリームホーンというスイーツを好んで注文する。 その日もいつものように開店時間の少し前に店に並び、お気に入りの窓際席でお気に入りのコーヒー

          「恋人がいる人が魅力的に見えるのは、当たり前のことじゃない?」

          1人になるのは好きなのに、1人でいる自分は嫌いなんです。

          最速で矛盾をしている。 だって1人になるのは好きなのに1人でいる自分が嫌いだなんて、ギリギリどころか全く理解できない。 唐突に起き上がってチュールを寄越せと鳴いている愛猫の横で、今まさにこの文章を書いている自分ですらよく分からないのだ。 きっとこの文章を読んでいる貴方は、何度も繰り返しタイトルを読み返す羽目になったに違いない。 でもこれが事実。 僕は1人になるのは好きだけど、1人でいる自分はどうにも好きになれない。 昔から人を誘うのが苦手だった。 デートにしても、

          1人になるのは好きなのに、1人でいる自分は嫌いなんです。

          LINEとインスタと寝れない夜

          僕「眠くないの?」 ピコン 「今日はなんか眠くない」「なんか話そ」 僕「あー、そういえば最近インスタ始めたんだよね」 ピコン 「え、今更?笑」 当時好きだった子と度々こんな感じで始まる1秒で既読がつくLINEのやりとりをしていた。 いつもは返信がこない時間にLINEの通知がなって、僕からの「眠くないの?」というメッセージに、彼女が「今日は眠くない」という趣旨の返信がくるのが寝れない夜のお決まりパターンだった。 勿論彼女が眠くないだけで、僕は顔にスマホが落ちてくるく

          LINEとインスタと寝れない夜

          何にも期待しないのが長所で、何にも期待出来ないのが僕の短所らしい。

          東京から実家に帰省する時に、絶対に深夜バスで帰る友人がいる。 適当に小林とでも名付けよう。 都内で電車よりもバスで移動したがる変わり者だった。 小林曰く電車や新幹線が嫌いなわけでも、お金を気にしている訳でもなく、ただ純粋にバスに揺られている時間が好きらしい。 お金で時間と楽さを買えるならそっちを選択してしまう僕には到底理解出来ない話だった。 以前一度だけ深夜バスで帰省したことがあるけれど、換気が行き届いていないもんわりとした社内の空気と、隣に座っていた小太りの男性の

          何にも期待しないのが長所で、何にも期待出来ないのが僕の短所らしい。

          「好きかもしれない」はもう負けている

          高校1年生の時に、好きかもしれない人が出来た。 夏目前の6月末。 静岡の土肥海岸というところで、2泊3日の宿泊研修をした時のことだった。 遠泳を目的とした研修だったのに連日空は雨模様で、大して海で泳いだ記憶がない。その日も昼過ぎから海が荒れ始めたので、ホテルで時間が過ぎていくのをただ待っていた。 「好きかもしれない」の対象だった子は、クラスは違うけれど同じ部活で入学してからもそれなりに一緒にいる時間が長かった子だった。 200人は入る畳の宴会場で、雨が強まっていく外の景

          「好きかもしれない」はもう負けている

          恋敵は親友になり得る

          私が高校時代に経験した恋愛は、先日更新した「勝手に終わった恋だった」の中に登場する話と、LINEに頼って終わらせてしまった恋の二つだ。 二つ目の恋を簡潔に伝えるとするなら、私にだけ矢印が向いていない三角関係の恋愛だった。 結果は言うまでもなく私の惨敗。 高校野球は負けても甲子園の砂を持ち帰れるのに、目も当てられないほどに惨敗したにも関わらず、何も得る事は出来なかった。 話したい事は山ほどあるが、今語りたいのは「恋敵は親友になれる最大の可能性を秘めている」ということだ。

          恋敵は親友になり得る

          「ここじゃない」と言い続けて。

          「自分がいるべき場所はここじゃない」 そんな感覚に陥ることが儘良くある。 具体的に何が足りてなくて、なんでそこが自分の場所ではないと思っているのかは分からない。 ただなんとなく「ここじゃないんだ」という漠然とした思いを、僕は常に心の内側に秘めている。 きっと「私」の言葉を見て、感情にも言葉にもならないような何かの所為で、胸に違和感を覚えている人は、同じような思いを抱いているのではないだろうか。 もしかすると「私達」は、スナック菓子と500mlの缶ジュースさえあれば「

          「ここじゃない」と言い続けて。

          勝手に終わった恋だった。

          中学生の時、人生で初めての恋人が出来た。 好きが何かとか、 愛が何かなんて考えたことはなかったし、 所詮は大人の真似事でしかなかったけれど、 僕にとっては紛れもなく初めての恋愛だった。 少し前に「大人の恋愛と子供の恋愛は何が違うと思いますか」と聞かれたことがある。 私はその時「本質的には何も変わらない」と答えた。 恋なんて全部等しく脆くて、痛くて、それでいていじらしく心地の良いものだと思ってるからだ。 でも実際の所、必死になって背伸びをして大人を演じようとしていた

          勝手に終わった恋だった。