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「好きかもしれない」はもう負けている

高校1年生の時に、好きかもしれない人が出来た。

夏目前の6月末。
静岡の土肥海岸というところで、2泊3日の宿泊研修をした時のことだった。

遠泳を目的とした研修だったのに連日空は雨模様で、大して海で泳いだ記憶がない。その日も昼過ぎから海が荒れ始めたので、ホテルで時間が過ぎていくのをただ待っていた。

「好きかもしれない」の対象だった子は、クラスは違うけれど同じ部活で入学してからもそれなりに一緒にいる時間が長かった子だった。
200人は入る畳の宴会場で、雨が強まっていく外の景色を眺めながら、僕らは頭の片隅にも残らないような会話をしていた。

ふと僕が畳に横になると、彼女は真横に座って徐に僕の眉毛を触り始めた。

「どうしたの?」と僕が聞くと「なんでもない」と彼女は言いながら暫く僕の眉毛を指で撫でるようにしていた。

下から見上げる彼女のまつ毛の長さと、瞳の潤いが綺麗でドキドキした。

「あぁ、好きかもしれない」

そう思ったのはたぶんこの時だった。

ちゃんと「好き」だと認められたのはそれから1年以上先になるけど、「好きかもしれない」とそう思い始めた時には、僕の恋はもうすでに始まっていたんだと思う。

結論から先に言えば僕らが結ばれることはなかった。
それでも僕はこの先2年間と大学生になってからも暫く彼女のことが好きだった。

これ以上傷つけないと言うくらいボロボロになった恋愛だったが、人生の中で忘れたくない恋愛を一つだけあげろと言われたら、間違いなくこの頃の話をする。

それくらい僕の人生のなかで格別色のある時期だった。

「好きかもしれない」から「好き」に変わるまでに1年もの期間が空いてしまった理由は、前の恋愛から期間がそんなに空いていなかったことと、部内の恋愛が禁止という法的拘束力のないルールを律儀に守ろうとしたからだった。

無駄にいい人間を演じたがる僕は、時折マジョリティの意見から外れられなくなってしまう時がある。
少し前まで恋人がいたのにと噂されたり、ルールを守れないやつというレッテルを貼られるのが怖かった。

そうやって何かに縛られている間に、彼女の元では別の恋が進行していて、僕は「好きかもしれない」から「好き」になるまでに1年も無駄な時間を過ごしてしまった。

「好きかもしれない」と思った時は、もうすでに負けているんだと思う。
それを認められなかったり、受け入れられなかったり、否定してしまったりしたことは1度や2度ではない。

でも好きになる人を選べないように、好きになるタイミングだって自分では選べないのだから、「かもしれない」と思い始めた時点で、外の目なんて気にしないで認めてあげるべきだった。

彼女と僕が結ばれる未来があったのかは分からないし、その道が幸せだったのかどうかも分からない。

ただもう一度あの頃に戻れるなら、僕は「かもしれない」なんて思わずに「好き」だと自分で認めてあげたい。

「好きかもしれない」と思い始めたら、もうそのレース始まっていたんだってちゃんと伝えたい。

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