逗子から、あなたへ。 それは「心」を揺さぶる作品たち。 逗子を舞台にした小説はもちろんのこと、逗子という場所から発信していくことで、たとえば打ち寄せるさざ波の囁きや、吹き渡る潮風の香り、山々の樹木のさざめき、そんな逗子らしさを感じることができる作品たちをお届けしていきます。 わたしたちの願いは、ひとりでも多くの人に、作品に触れてもらうことで、その人の心を、喜びや感動、あるいは恐怖や興奮といった感情で揺さぶること。 心が揺れることで、いま生きていることを心の底から実感してもら
癌の摘出手術を受けたのが 2018 年の夏のこと。 それ以来、抗癌剤治療を続けてきた。いわゆる癌サバイバーとしての人生がはじまったわけだ。今年、2021 年のはじめまではそれまでとさほど変わらない生活を送ることができていた。 抗癌剤の治療といっても点滴を受けるのがメインで、確かに副作用はあったけれど、日常生活にそこまで影響を及ぼすものではなかった。まぁ、二三日大人しくしていれば、いつもの毎日に戻ることができていた。原稿を書くだけの気力が保てず、ときにはお休みを頂いたりは
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 新 その 2 それは光からはじまった。 それは闇からはじまった。 それは思うことからはじまった。 それは、終わりからはじまった。 「なんだか紗亜羅の様子がおかしいんだよね」 この実は軽く溜息をついた。 「どんな感じなの?」 大学からの帰り道。麻美
いつも Zushi Beach Books をお読みいただき、ありがとうございます。 すでにタイトルでお判りのように、今回も第二十三話「新」のその 2 を完成させることができませんでした。 ご存知のように、いま癌サバイバーとして抗癌剤治療を続けている最中で、先日の 11/30 に抗癌剤を点滴、現在経口薬を服用しています。 今回も頭が働かなくなるとともに身体も動かなくなり、文章を書き続けるどころか日常生活にも支障が出てしまうことになってしまいました。しかもやむを得ぬ事情
なぜそんな気になったのかまったく解らなかった。 それでも気がついたら横浜駅で迷うことなく京浜急行に乗り換えていた。逗子・葉山行きのエアポート急行。終点までただ混乱する頭のまま乗っていた。 頭の中で交錯するシーンには怒号も混じっている。いき場のない諍い。何度、繰り返してきたことだろう。ひとつひとつ思い出そうとするたびに、知らず知らず涙が滲む。 ──なんだって、あいつなのよ……。 自分勝手でいい加減でてきとうでわがままで恥知らずでいじわるでうそつきで見栄っ張りで怠け者で
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 新 その 1 それは光からはじまった。 それは闇からはじまった。 それは思うことからはじまった。 それは、終わりからはじまった。 吹く風が冷たい。 ピンと張り詰めたようなその風が、草加部紗亜羅の軽くカールした髪を揺らした。歩道の脇の枯れ葉たちがそ
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 一 その 3 はじまり、それはいつもそっと訪れる。 はじまり、それはやがて形を成していく。 はじまり、それはいつも揺るぎないもの。 はじまり、そして永久に続くもの。 「美咲ちゃん?」 ふいに声をかけられ、美咲はびくっと肩を振るわせた。 どれほどそ
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 一 その 2 はじまり、それはいつもそっと訪れる。 はじまり、それはやがて形を成していく。 はじまり、それはいつも揺るぎないもの。 はじまり、そして永久に続くもの。 丸一日、熱に魘された麻美だったが、その翌日にはすっかり治っていた。 「麻美、大丈夫
いつも Zushi Beach Books をお読みいただき、ありがとうございます。 すでにタイトルでお判りのように、今回も第二十二話「一」のその 2 を完成させることができませんでした。 ご存知のように、いま癌サバイバーとして抗癌剤治療を続けている最中で、先日の 11/2 に抗癌剤を点滴、現在経口薬を服用している最中です。抗癌剤は点滴と経口薬を併用しているんですが、この経口薬の影響が大きいようです。点滴後の夜から服用をはじめるんですが、翌日はまだいつものように原稿が書
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 一 その 1 はじまり、それはいつもそっと訪れる。 はじまり、それはやがて形を成していく。 はじまり、それはいつも揺るぎないもの。 はじまり、そして永久に続くもの。 カレンダーをめくるのが楽しみだった。 季節が新しくなるのはもちろんだけど、新しい
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 坐 その 4 すこしずつ溢れている。観てもわからないほど僅かに。 流れはそこを好み、零れはじめる。 そしてなにかを吸い寄せるように、集まっていく。 やがてそれは光すらも捉える場となっていく。 「まるで人が違っちゃったみたいなんだよねぇ」 この実は大
いつも Zushi Beach Books をお読みいただき、ありがとうございます。 ご存知のように、いま癌サバイバーとして抗癌剤治療を続けている最中で、先日の 10/12 に抗癌剤を点滴、現在経口薬を服用している最中です。ここ二ヶ月ほどですが抗癌剤投与した後の副作用が酷く、執筆に集中できない日が続き、第二十一話「坐」の完結編、その 4 を完成させることができませんでした。 体力が落ちてしまうと、どうしても集中力に欠けて、文章を書き続けることが困難になってしまうようです
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 坐 その 3 すこしずつ溢れている。観てもわからないほど僅かに。 流れはそこを好み、零れはじめる。 そしてなにかを吸い寄せるように、集まっていく。 やがてそれは光すらも捉える場となっていく。 一変した世界にこの実の笑顔が加わった。 富岡は文字通り
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 坐 その 2 すこしずつ溢れている。観てもわからないほど僅かに。 流れはそこを好み、零れはじめる。 そしてなにかを吸い寄せるように、集まっていく。 やがてそれは光すらも捉える場となっていく。 不思議なもので世界が一変していた。 秋の柔らかな陽射し
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 坐 その 1 すこしずつ溢れている。観てもわからないほど僅かに。 流れはそこを好み、零れはじめる。 そしてなにかを吸い寄せるように、集まっていく。 やがてそれは光すらも捉える場となっていく。 気がついたらその陽射しに暑さではなく、温もりを感じるよう
うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。 環 その 4 めぐる。古からめぐるもの。 はじまりがあり、そして終わりはない。 新たなはじまりへとすべては繋がる。 めぐる。それは遙か古から続くもの。いつまでも……。 吹く風が冷たい。ときおり空からは白いものが落ちて薄らと積もることもあった。義平た