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ものがたり屋 参 一 その 3

 うっかり閉め忘れた襖の影、街灯の届かないひっそりとした暗がり、朽ちかけている家の裏庭、築地塀に空いた穴の奥。

 気づかなかった身のまわりにある、隙間のような闇に、もしかしたらなにかが潜んでいるかもしれない……。

一 その 3

 はじまり、それはいつもそっと訪れる。
 はじまり、それはやがて形を成していく。
 はじまり、それはいつも揺るぎないもの。
 はじまり、そして永久に続くもの。

「美咲ちゃん?」
 ふいに声をかけられ、美咲はびくっと肩を振るわせた。
 どれほどそこに立ち尽くしていただろう。美咲はなにが起こったのか、まったくわけが解らず、だからといってそこを立ち去ることもできず、逆さまに開いたまま雨を溜めていく真っ赤な傘を見つめていたのだった。
 しゃあしゃあと川が流れる音を呆然と聞きながら。
 振り返るとそこには結人がいた。
「結人くん……」
「どうしたの?」
「あのね、あのね……」
 美咲は結人の手を掴みながら必死にいま見たことを話そうとするのだが、しかしほとんどなにも話すことができなかった。頭が混乱してしまって言葉が出てこなかった。
「攫われちゃったの。麻美ちゃんが眼の前で攫われちゃったの……」
 いきなり涙が溢れ美咲はそこで泣き出してしまった。
 しとしとと降りしきる雨が傘を打つ音が静かに響く。
 結人は泣きじゃくる美咲をただ黙ってしばらく見ていた。やがて収まったところで、改めて声をかけた。
「どうしたの?」
「こんな話、信じてもらえないかもしれないけど……」
 美咲はまだ涙が溜まったままの瞳でじっと結人を見つめると、ひと言ひと言戸惑いながらも、言葉を探すようにして話しはじめた。
 いつもとは違う道を帰る麻美を見つけて、その後を追うようにしてここまできたこと。麻美はここで立ち止まると、真っ赤な傘を差していた女の子と話しはじめたこと。その子が手を差し出すと、麻美がその手を握りかえして、そして……。
「あの子、わたしの眼をじっと見たの。そして訳ありげに笑った瞬間、ふたりの姿が消えていて……」
 美咲の瞳からまた大粒の涙が零れだした。涙にまみれた眼でじっと結人を縋るように見つめた。
「その子って、真っ赤な傘に真っ赤なランドセル、真っ赤な長靴の子だった?」
 美咲は涙を湛えた瞳のまま大きく頷いた。
「確か。狛田香苗……」
 結人は呟くようにいうと、じっと川面を見つめた。
 水かさの増している田越川。しゃあしゃあと流れる音がいつにも増して耳につく。
「え? 知ってる子?」
「昨日だったかな。ふたりでいるところを見かけたんだ」
 逆さまに開いたままの傘に手を伸ばすと、結人は溜まった水を流してから静かに閉じた。傘と同じ真っ赤な柄をその右手で握ると、そっと眼を閉じた。
 訝しんだ美咲が見つめるなか、結人の左の小指から薬指にかけてみるみるどす黒く変色していった。
「結人くん、その手」
 美咲が不思議そうに首を傾げた。
「やっぱり、そうか」
 結人は呟きながら、手にしていた真っ赤な傘をじっと睨みつけた。
「やっぱりって、どういうこと?」
「キミがいったとおりだよ。攫われちゃったんだ、麻美ちゃんは」
 結人は美咲の眼をしっかりと見つめたまま頷いた。
「攫われたって、だれに? それも、どこへ?」
「いまは解らないことだらけだと思う。でも麻美ちゃんを連れ戻せば、すべてはきちんと解ると思うよ」
 美咲はその意味を図りかねて、結人の顔をじっと見つめた。
 しとしとと降り続く雨が傘を打つ音が響く。
 やがてなにかを確かめるように美咲は口を開いた。
「それで、結人くんはどうするの?」
「もちろん、助けにいくんだよ、麻美ちゃんを」
「どうやって?」
 美咲は首を傾げた。
「これがすべての鍵を握っている。大切なヒントなんだよ」
 結人は右手にしていた傘を改めて見つめた。
「この真っ赤な傘が?」
「そうだよ、だからぼくの左手の色が変わっちゃっただろう」
「それって、どうして?」
「説明はまたあとで。とにかく麻美ちゃんを助けにいかなくちゃ」
「うん」
 美咲は大きく頷いた。
「とても危ないかもしれない。それでも美咲ちゃんはいくの?」
「もちろん。だってわたしも関係しているかもしれないんだもん。麻美ちゃんが攫われただなんて」
 美咲はぎゅっとその唇を強く引き結んだ。
「判った。それじゃ、しっかりとぼくの腕を掴んでいて。決して離さないようにね。傘も忘れずにちゃんと持っているんだ」
 美咲はいわれたとおり傘を閉じると、結人の腕を両手でしっかりと掴んだ。
 結人も傘を閉じると、美咲の顔を見つめた。それから頷きかけると、手にしていた真っ赤な傘をそっと開いてふたりの頭上を覆うように差した。
 その瞬間、景色が一変していた。
 川の両岸に建っていたはずの家々は消え去り、そこにはただ川の流れだけがあった。足下の道路もただの泥だらけの道になっている。ところどころに水が溜まり、泥濘んでいた。
 しゃあしゃあという川が流れる音がやけに大きく響く。
 降る雨はさらに細かくなり、まるで絹糸を思わせる。
 結人が真っ赤な傘を閉じると、絹糸のような雨がふたりに降りかかる。けれど、濡れるということはなかった。美咲の髪に降りかかった雨粒は、薄らと光を帯びて輝いているようでもあった。
「ここは、どこ?」
 美咲は結人の腕を掴んだまま不安げに辺りを見渡した。
「ここは、たぶんどこでもないところ。もう腕は離しても大丈夫だよ」
「うん」
 結人は真っ赤な傘を閉じると傘地をていねいにまとめてネームを留めた。
「濡れないの?」
 美咲は思わず空を見上げると、手を差しだして雨を受け止めようとした。
「濡れないはずだよ」
「どういうこと?」
 美咲はあたりを窺いながら首を傾げた。
「ここはね、ぼくたちが毎日過ごしている現実の世界とは違うんだ。だれかが作った世界とでもいえばいいのかな」
「嘘の世界なんだ……」
「ほら、夢と同じだと思えばいい。夢の中で雨に降られても濡れないだろう。それと同じですべてが現実と同じってわけじゃないんだよ」
 結人は自分にいいきかせるように頷いた。
「それでも左手の色はそのままなんだ」
「ああ。探さないとね、麻美ちゃんとそれからこの傘の持ち主を」
 結人はじっと川面を見つめると川が流れていく方へと歩きはじめた。美咲も遅れないように着いていく。
 不思議なことに歩き出すとすぐに眼の前に大きな樹が現れた。桜の樹だろうか。すっかり枯れてしまっていた。その向こうに建物が見えた。大きな工場のようだった。ただあちこちの窓は割れ、壁も剥がれ落ちていて、全体が朽ち果てている。開いたままになっている入り口からふたりは中に入った。
 いったいなにを作るためのものなのかまったく解らなかったけど、大きな機械があちこちに並んでいた。そのすべては錆びついていて、たとえスイッチを入れたとしても動きそうにはなかった。
 人影もなく、また物音も聞こえない。
 雨が屋根を打つ音だけが工場全体にただ響いている。そこを支配しているのは沈黙と、沈みきった埃っぽい空気だけ。工具や割れた窓ガラスの破片が通路に散らばっていた。
 建物全体が捨て去られ、忘れ去られたもののようだった。廃墟だけが持つどこか空疎な静けさがふたりの心をじわりと浸食していく。そこにいるだけでなぜか塞ぎ込んでしまう気分になってしまう。
 ふたりは足下を気をつけながら通路を歩いていった。やがてその先に出口が見えてきた。
 外に出るとふたりの前に広がっているのは建ち並ぶ家々だった。しかし、それもいま通ってきた工場と同じで、すべてが朽ち果てて見えた。家そのものが傾いていたり、壁が崩れていたり、屋根が崩れ落ちている。
 家並みのすぐ横を川が流れていた。しゃあしゃあと流れる音が大きく聞こえる。濁った水がまるで氾濫するように流れていた。
「どこにいるんだろう?」
 美咲が溜息を漏らした。
「しっ」
 結人はしっかりと眼を瞑ると耳を澄ました。
 ──なにしてるの?
 ──探してるの……。
 ──なにを探してるの?
 ──大切なもの……。とっても大切なもの……。
 ──どうしたの?
 ──だから、落としちゃったの……。
「聞こえた? 麻美ちゃんの声だよね」
 結人は確かめるように美咲の眼を見た。
 美咲は口を閉ざしたまま、ただ頷いた。
「あっちだ」
 ふたりは川沿いを歩きはじめた。
 ──ほら、こっちだって。
 ──どこ?
 ──こっちだよ。
 ──どこへいくの?
 ──探しものだよ。一緒に探してくれるんでしょ?
 ──ねぇ、ちょっと待ってよ……。
 ──一緒に探してくれるんじゃなかったの?
 声を頼りにふたりはしばらく歩いた。何軒か先に桜の樹が見えてきた。やはり桜の樹だった。これもすっかり枯れていた。
 そこに玄関が大きく開いたままの家があった。
 大黒柱が傾いているのか、家自体がまるで隣の家に寄りかかるように歪んでいた。それでも玄関だけはちゃんとしている。
「どこ? どこにいるの?」
 麻美の声が家の奥から聞こえてきた。
 結人と美咲は互いに顔を見ると頷きあった。
 玄関から中へ入った。三和土のすぐ横には靴箱があった。扉が外れて中が丸見えになっている。汚れた靴が何足か乱暴に重なっていた。その中には真っ赤な長靴もあった。
 上がり框の向こうに廊下が延びている。あちこち散乱していて、まるで家の中を嵐が通り過ぎたあとのようだった。ゴミや紙くず、壁に掛かっていただろう額なんかも床に散らばったままだった。
 結人はあたりを伺いながら靴のまま上がった。
「麻美ちゃん?」
 廊下の奥へ声をかけると、結人はそっと耳を澄ませた。美咲もどんな物音も聞き逃さないようにじっと眼を閉じた。
「麻美ちゃん、美咲だよ」
 しばらくして今度は美咲が声をかける。
「だれよ?」
 廊下の奥から嗄れたような声が響いてきた。どこか棘のある甲高い女の子の声だった。
 結人と美咲は頷きあうと廊下をゆっくりと奥へ向かった。
 左側は壁が続いていた。けれどやはり壁土がところどころ剥がれ落ちていて、下地の竹小舞が覗いている。うっかり触るとぼろぼろと壁そのものが崩れてしまいそうだった。
 右側には襖が並んでいる。まともな襖はなくほとんどは襖紙が半分ほど破れていた。組子が見えるものや、部屋の中が覗けてしまうもの、大きく反り返ってしまって鴨居や敷居から外れたものもあった。
 ぎしっぎしっ。
 一歩一歩あたりを伺いながら静かに歩を進めていく。そのたびに床板が草臥れた軋み音を立てる。
「だれよ!」
 また、声がした。さっきよりも強い口調だった。しかも、今度は玄関の方から聞こえてきた。
 ふたりは思わず振り返ったけど、そこにはだれの姿もなかった。
「ねぇ、どこ?」
 今度は麻美の声だった。壁の向こうから聞こえてくる。
「だれよ!」
「どこなの?」
「だれ?」
「どこにいるの?」
「出ていけ」
「え、どうして? 探すんでしょ?」
「大切なもの……」
「一緒に探すんだよね」
「だれだ!」
「え? なに?」
 ふたつの声が交互に響いてくる。それもあちこちの方角からでたらめに聞こえてくる。
 結人と美咲のふたりは声がするたびにその方向を見るのだけど、しかしだれの姿もそこにはなく、また別の場所から声が聞こえてくる。
「だれだ!」
「どこにいるの?」
 まるでとても大きな万華鏡の中に放り込まれて、その中で響きあう声を追いかけているようでもあった。
 やがて結人は廊下の奥を見つめると一歩踏み出した。
「出ていけ!」
 ひときわ大きな声が響いてきた。それはさらに甲高く、金切り声にも聞こえる。
 結人は構わず廊下を歩いていく。美咲もそれに送れまいとしてついていった。
「出ていけ!」
「いますぐ、出ていけ!」
「ここから出ていけ!」
 金切り声がさらに大きくなっていった。
 やがて突き当たりの部屋の前まで来ると、結人は襖の引手にその手を伸ばした。
「やめろ!」
 怒号のような声が頭上から響いてきた。まるで雷が落ちたような衝撃を伴っていた。
 それでも動じることなく、結人はその襖を静かに開けた。
 ふいにそれまで響き続けていた声がぴたりと止んだ。
 突然訪れた静寂の中、結人と美咲はその部屋へ入った。
 こぢんまりとした和室だった。しかもここだけはそれまでとは違ってきちんとしていた。襖に破れはなかったし、壁も綺麗なまま。部屋の中もついさっき掃除を済ませたばかりのように整っていた。
 窓際には和机が置かれ、窓から外を見ることができた。天気は相変わらずで雨が降っていた。雨粒が窓ガラスを濡らしていく。滴が幾筋にもなって窓を伝い落ちていた。
 窓のすぐそばを川が流れているのか、そっと耳を澄ませるとしゃあしゃあという川の流れる音が聞こえてくる。
 窓の外で木の葉が風に揺れていた。桜の葉だった。
 まるで刻までも止まってしまったような静けさの中、結人は部屋の真ん中までいくと静かに口を開いた。
「大切なものなんでしょ?」
 結人は部屋の中を見回した。
 美咲も同じようにあたりを伺った。
「探しているものを持ってきたから」
 結人はだれにともなく大きく頷いた。
「しくしくしく」
 ふいにすすり泣く声が聞こえてきた。
 壁際にあった和箪笥に顔を押しつけるようにして蹲っている女の子が突然姿を現した。
「キミが探しているものを持ってきたから」
 語りかけながら結人はその子のそばへと歩み寄った。
「だからキミが連れてきた麻美ちゃんを帰してほしいんだ」
 女の子は振り返ると、じっと結人の眼を見つめた。
「香苗ちゃんだよね、狛田香苗ちゃん」
「探しもの見つけてくれたの?」
 香苗はその首を大きく傾げた。綺麗に刈り揃えられたおかっぱ頭の前髪が揺れる。
「キミが探しているものがなんなのか、ちゃんと解っているから大丈夫。麻美ちゃんはどこ?」
 香苗は一瞬疑うような眼で結人の眼を見つめてから、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「隠れん坊してるよ」
「もう遊ぶのは終わりにしてあげて。家に帰してあげなきゃ」
「でも……」
 香苗は俯くと畳をじっと見つめた。
「でも?」
 美咲が尋ねた。
「また……、また、独りになっちゃう……」
 香苗は拗ねたような声で呟いた。
「香苗ちゃん、キミにもちゃんと居場所があるんだ。ぼくがそこへ帰してあげるから、麻美ちゃんも帰してあげて」
「ほんとう?」
 香苗は顔を上げると確かめるように結人の眼を見た。
「約束するよ」
 結人は香苗をしっかりと見つめ返した。
「判った」
 香苗はこくりと頷いた。
 そのとき部屋の襖が静かに開いた。
「結人くん、美咲ちゃんも。どうしたの?」
 驚きの声を上げながら麻美は部屋に入ってきた。
「よかった、麻美ちゃん。心配したんだよ」
 美咲は抱きつかんばかりの勢いで麻美に駆け寄った。
 麻美と美咲は腕を取り合いながら、互いの顔を確かめるように見つめあった。
「約束だよ」
 香苗の眼つきが鋭くなった。
 結人は力を込めて頷き返した。
「これだよね、香苗ちゃんがなくしちゃったものは。この真っ赤な傘」
 結人は手にしていた真っ赤な傘を香苗に渡した。
 香苗は大切そうに受け取ると真っ赤な傘をただ見つめた。
「落としちゃったの。雨の日にこの傘を。おとうさんが買ってくれた真っ赤な傘。前からほしかった傘。大切なものだったのに、あの雨の日に」
 香苗は傘を見つめたまま呟くようにいった。
「どうしたの?」
 結人が訊いた。
「風が、いきなり強い風が吹いてきて、それで……」
「川に飛ばされちゃったんだ」
「だから大変だと思って、わたしは飛ばされた傘を取りに川に入って、それで……」
「香苗ちゃんも川の流れに呑まれちゃったのね」
 麻美が納得したように頷いた。
「わたしの居場所はどこなの?」
 香苗は大きく首を傾げた。
「その傘をしっかりと持ったまま、右手をぼくの右手に重ねてくれないかな」
 結人は香苗の前にその右手を差しだした。
 香苗は不思議そうな顔で結人を見ると、おずおずとその右手を重ねた。
 結人は香苗の手をやさしく握りしめると眼を閉じて、口の中でなにか呟きはじめた。色が変わっていた左手の小指から薬指にかけてさらにどす黒くなっていく。部屋全体の空気がぴんと張り詰めたようなものに変わっていった。
 麻美と美咲はただ固唾を飲んでふたりの姿をただ見ていることしかできなかった。
 やがて呟き終えた結人はそっと眼を開け、香苗を見つめたままその左手を大きく振り上げた。
「えい!」
 鋭い声とともに結人は左手を力強く振り下ろした。その瞬間、その手の先からなにか黒いものが床に飛び散り、それとともに香苗の姿が消えていた。
 麻美と美咲が驚いた顔で見つめる中、結人はゆっくりと顔を上げて天井の方を見やった。
「さようなら」
 結人はやさしく語りかけるように囁いた。

 しゃあしゃあと川の流れる音が響いてくる。気づくと麻美と結人、それに美咲は田越川沿いにいた。
 雨がしとしと降っている。
「あっ、濡れちゃう」
 麻美が慌てて傘を開いた。
 美咲も気がついたように傘を差した。
「なにがどうなってるの?」
 美咲は、雨を確かめてからのんびりと傘を開いている結人の顔を見た。
「香苗ちゃんが逝くべきところへいったんだ。だからあの世界も消えちゃったんだよ」
「それは判るんだけど、結人のあれはなんなの?」
 麻美は結人を不思議そうに見つめた。
「そうよ、しかも左手は? あっ、元に戻ってる」
 美咲も不思議そうな顔つきになった。
「説明が難しいんだけどね、どうやらぼくには祓うことができるみたいなんだ」
「祓うって、どういうこと?」
 麻美はその首を傾げた。
「ここにいてはいけない存在を祓うんだよ。この世界から、本来いるべきところへ戻してあげるって感じかな」
「もしかして、幼稚園のときのあれもそうだったの?」
「邪な存在が麻美ちゃんに憑いちゃったみたいだったから祓ったんだ。あれは追い出したってところかな」
 結人は思い出すように頷いた。
「ねぇ、なんの話?」
 美咲がわけが判らずふたりの顔を見つめた。
「この世にはね、不思議なことがいっぱいあるってこと」
 結人は自らにいきかせるように頷いた。
「さぁ、帰ろう。一緒に」
 麻美と美咲は互いに見つめあうと、どちらからともなく手を繋いで歩きはじめた。
 ふたりの姿を見ながら、結人は改めてそっとひとりごちた。
「この世は不思議なことで満ちているんだ」
はじめから

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