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#64 時間旅行についての愛を語る

過去は誰かの顔や姿を借りるものよ。それがぼけているのなら、顔が見えるまで思い出すことに時間をかけなくてはならない。

『貝に続く場所にて』石沢麻依 p.50

 PCの前でぱちぱちとキーボードを打ちながら、私はほんの少しだけイライラしている。家のwi-fiが調子悪く、思ったようにサクサクとネットの海を彷徨うことができないのだ。

 どうもマンションの回線状況が思わしくなく、ネットサーフィンをするにあたっても一苦労。そんなにあくせく動いてどうするの、少し落ち着いた方が良い、と自分に言い聞かせるのだが、やはり生来せっかちなのかゆっくりと待つことができない。地震かと思ったら、自分の貧乏揺すりのせいで揺れていた。思わず顔が青くなり、やばいやばいと独り言を呟く。

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 かつてはそれこそ一分一秒が惜しくて、とにかく予定を詰め込んでいた。ある種強迫観念に囚われていたのかもしれない。何もせずに立ち止まったら、後ろから追いかけてきた何かに斬られる。実際はそんなことないのに。もしかしたら時間泥棒の影に追いかけられているのだろうか。

 年を重ねる中でようやく最近は少し立ち止まることを覚えた。その当時友人に休日は何しているの?と聞いたら、「ええ、なんだろ。ぼーっとしてるかな。ベッドでゴロゴロしてる」という答えが返ってきて、何それとてももったいないことしてる!目を覚まして!とビンタをしたくなったけれど、ここ数年はむしろ彼女の心情がよくわかるようになり、むしろ昔の自分をビンタしたい。

 日中根詰めて仕事をすると、その反動なのか家に帰った途端ふぅーと一気に肩の力が抜けてその場で崩れ落ちそうになる。心なしか、昔よりもスタミナは確実に落ちている。これはきっと歳のせいではなくて、コロナだなんだと動くことを怠った自分への罰ではなかろうか。

 何も考えたくない時、気がつけばテレビをプチっとつけて、ひたすら齧り付いている。齧りすぎて、もしかしたら歯跡がどこかに残っているかもしれない。

 昔はテレビよりも本だった。近頃よく会う私より若い年代の人たちは、一人暮らしだと意外とテレビを持っていない人がいる。私もどちらかというとテレビを捨てても平気派だったので、それを考えると確実に私自身も心境の変化が生じている。

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 とにかくテレビの良いところは、無心になって物語の世界に没入できることである。テレビをつけて何を見ているかというと、アニメとドラマ。しかもジャンルが絞られつつあって、なぜか目にするものはタイムトラベルものが多い。

 また久しぶりに『バタフライエフェクト』を観て、結末を知っているにもかかわらず最後のつながりに思わず前のめりになる。名作は色褪せない。残念ながら次作以降は全然物語が違っていて、全くのめり込めなかったが。思えば、『マトリックス』も一番面白かったのは1作目だけだった。シリーズものはやっぱりあかんなぁと思っていたら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は2作目も面白かった。

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 アニメは十数年ぶりに『時をかける少女』を観た。細田守監督の作品の中では一番好きで、定番中の定番。これまた名作は色褪せない。と思いきや久しぶりに観た『君の名は』は、だいぶ自分の中で美化されていて、当初見た時のような感動が全くなかった。たぶん大スクリーンでの光の美しさあってのヒットだったのだと、今ならわかる。

 その他、友人であるスケさんに勧められて見た『STEINS;GATE』。最初世界観に入り込むまでになかなか時間がかかったのだが、最後まで見た時の満足感は相当なものがある。最近、Netflixにアップされた『サマータイムレンダ』を見始める。これまた面白くて、自分をセーブしながら少しずつ見ている。

 とまあ、のらりくらりと時間旅行にまつわる物語をつらつらと見ていて、もう昔から使い古された設定なのに、今もなおあの手この手で視点の異なる時間旅行を主人公たちがしており、羨ましくなる。並行世界とかってどうなんだろうと思うけれど、案外今とは異なる世界の自分はもう少し器用に世の中の海を生きているのだろうか。

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 時間旅行が今もなお人の心を惹きつけてやまないのには、取りも直さず物語により複雑怪奇な設定を加えられることができるからだろうし、もし自分が時間を旅行できたらと考えるだけで妄想が膨らむからなのかもしれない。

 少しずつまた創作意欲が湧いてきて、長い物語を描き始めた。今だに昔noteで公開した小説を読んでくださる方がいて、自分が執筆したものによって誰かの心を少しでも動かすことができたのかなと妙な感慨に耽っている。とはいえ、昔書いたものは今読んでみるとだいぶ文章がおかしなことになっていて、赤面する思いだけど。

 結局ね、たくさんの失敗を重ねて、その時の出来事をやり直したいと思うターニングポイントはいくつもあるのだけど、それもきっと今の自分を形作っているものだと思えばまあ悪くはなかったのかなと思ったりもしている。

 なーんて毒にも薬にもならないことを考えている。せっかくだからこれを機に色々ドラマやらなんやら自分の中にインプットしておこうと思って、Netflixに加えてFODとHuluも契約してしまった(1ヶ月お試しで)。最近は木皿泉さんの『すいか』にハマって一癖も二癖もある登場人物たちに思わず自分の思いを重ねている。それにしても浅丘ルリ子さんが渋すぎて痺れる。

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 本当にあっという間だ。時間が流れていくのが、年を重ねるごとにどんどん速くなっていく。まだ年端もいかず友だちと走り回っていたあの頃は、日が暮れるまでの時間がとてつもなく長かった。それが今では、ほんの少し瞬きをした瞬間にあっという間に夜になっている気がする。日常に慣れるって、恐ろしい。

 恐ろしく速く流れる時間に沿って、もしかすると気がつかない間に未来に向かって時間旅行をしているのかもしれない。瞬きする合間に、あっという間に誰かとのランデブーの時間になっている。あ、ランデブーって今時使わないのか。でも、響きが好きだ。

 そろそろ終わりが見えなくなってきた。きっとこういう日もある。偶発的に時間を旅して、あっという間に終わる日も。私は今日、何をやってたのかな。紅茶を淹れて一息つく。長いようでいて、短い日。沈む太陽の光が綺麗だった。たぶん、それだけの日もある。はんなりと流れる時間に愛を込めて。

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