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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜をまとめました!
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2023年9月の記事一覧

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(12)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(12)

 軍議の間。
 豪華絢爛な造りで国の繁栄の象徴ともされる皇居、白蛇城において軍議の間がその名前通り使われることは滅多にない。小国や反乱分子、それこそ邪教との争い程度において大臣達を交えて会議をする事などこの数百年起きておらず、大抵は修練場にある会議室で軍務大臣と大将格が顔を揃えての話し合いで済んでいるからだ。
 しかし、今回は違う。
 相手は、かの青猿率いる青猿の国。
 しかも、邪教と手を結んでい

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(11)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(11)

「ダメ!」
 ツキの腹に柔らかく、温かい感触が伝わる。
 ツキの手が止まり、レーヴァテインの切先が青猿の臍に触れる寸前で止まった。
 ツキが黄金の双眸を下に向けるとボロボロになったツキの長衣に細い手が回されていた。
 アケだ。
 ツキは、黄金の双眸を丸くする。
「ダメ・・ツキ・・・ダメ!」
 アケは、ぎゅっと両腕に力を込めて、必死にツキを止めようとしている。
 いつも黒い布で覆われている本来の目の

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(10)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(10)

 突然、膨らむようにして現れ、そして消えた魔力の方向を巨大な木の猿の肩の上から青猿は見た。
「霜の巨人か・・あの白兎・・僅かとは言え巨人を召喚しやがるとは大したものだ」
 それに百の手の巨人の気配も弱まっている。
(幼妻ごと殺したか?それとも簡易的な封印を施されたか?)
「どっちにしても無事ではないだろうな」
 青猿は、下方を見下ろす。
「お前は、どう思う?」
 木の猿の巨大な拳が地面にめり込み、

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(9)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(9)

 蜥蜴の背中が曼珠沙華の花のように開き、そこから地獄から助けを求める亡者の如き白い腕が揺らめきながら伸びてカワセミとウグイスを襲う。
 二人は、翼を大きくはためかせ、腕の攻撃を交わすもそのあまりにも早い動きに皮膚が裂かれ、羽毛が千切れ、身体中を赤く染める。
 カワセミは、緑色の魔法陣を展開し、風の刃を生み出して百の腕に放つ。しかし、風の刃は微風のように腕をすり抜けるだけで切り傷1つ与えない。
 ウ

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(8)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(8)

 麻袋を破るように青猿が森の中から平野へと飛び出す。
 空中を投石機から打ち上げられた岩のように勢いよく回転していると言うのに青猿の顔には笑みが浮かんでいる。
 青猿は、巨大な右の腕で地面を殴りつける。拳が地面にめり込み、地面を削りながら速度を殺す。
 青猿は、地面に足をつけ、顔を上げる。
 森の木々を薙ぎ倒しながら黒狼と化したツキが突進してくるのが見える。
 黄金の双眸は滾り、刃のような犬歯を剥

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(7)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(7)

 次の瞬間、黒い影が走り、青猿の身体が大きく吹き飛ぶ。
 青猿の身体が地面を弾みながら転がる。
 黄金の双眸に燃え上がらせたツキが黄金の魔法陣を展開し、黒い鎖を一直線に伸ばして青猿を打ち付けた。
 ツキは、魔法陣を解くとアケに駆け寄り、抱きしめる。
 アズキが心配げに鳴いてアケの周りを飛び跳ねる。
「アケ!」
「しゅ・・じん・・」
 アケは、痛みに呻きながらも声を出す。
 本来の目を抑えるアケの手

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(6)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(6)

 人の姿になった青猿は、庭に設置されたテーブルにゆっくりと座る。その動きは猿の姿をしていた時と違い、とてと洗練されており、座る姿も背筋が伸びてとても綺麗だ。
 アケは、アズキの背で温め直したお湯を湯呑みに移し、少し冷ましてから茶葉を淹れた急須に注ぐ。少し時間を置いてから再び湯呑みに注ぐと黄緑色の鮮やかな茶が満たされ、清涼な香りが広がる。
「粗茶ですが・・」
 アケは,そっと青猿の前にお茶を置く。

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜 第7話 青猿(5)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜 第7話 青猿(5)

 料理を作る時間がなかったので作り置きしておいた羊羹とお茶のセットを用意し、庭に出されたテーブルにアケが準備し終えると、それを狙ったかのように森の方から豪快な笑い声と鳥達の慌てふためく声が響き渡った。
「来たか」
 ツキは、コーヒーカップから口を離し、顔を顰める。
 アケは、ウグイスの表情が青ざめ、今にも吐きそうになっているのに気づいて慌てて駆け寄る。
「青猿の魔力に当てられているのだ」
  ツキ

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(4)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(4)

 オモチとカワセミは、猫の額の断崖の前に立つと直立して右手を左肩に当てて敬礼した。
 澄み切った青空に暖かな陽光、鳥の囀りが辺りを包み、柔らかな風が吹く。
 普段の時にアケがいれば今日はここに蓙でも広げておやつにしようかと言いそうな陽気だ。
 しかし、オモチとカワセミにそんな余裕はない。
 オモチの表情は、変わらないがカワセミの表情には恐怖の混じった緊張が走っていた。
 この場所に来る前から気配を

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(3)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(3)

 お昼ご飯を終えてアケは、厨に戻って洗い物を終えると梅をたくさん乗せた笊を持って外に出る。その後をアズキが短い足を動かして追いかけてくる。
 澄んだ青空の下に出ると幾分か心が晴れる気がする。
 アケは、ガーデンチェアに腰を下ろし、丸テーブルの上に笊を置く。
 アズキは、アケの足に頬を擦りつけ、そのまま地面に伏せて寝てしまう。
 薄く紅のさした鮮やかな黄緑色の梅たちが戯れ合うように笊の中で転がる。そ

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(2)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(2)

 アケは、残った家事を全てそっちのけでナギの手紙を握りしめてツキのいる居間に走った。アケが慌てて屋敷の中に入っていくことに気づいたアズキも慌てて後を追い、その後ろをオモチが重そうに身体を揺らしながら追いかける。
「主人!」
 アケが思い切り居間の扉を開けると「ツキだ!」と言う声が木霊するように返ってくる。
「慌ててどうしたのだ?」
 ツキは、満月が大きく描かれた黒いコーヒーカップをテーブルの上に置

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(1)

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(1)

 昨夜まで降り注いでいた雨が上がり、雲の切れ間から久々に太陽と青空がの心地好良い姿を見せる。
 朝早くには色の濃い美しいアーチを描いた虹も姿を現れ、気落ちしていた心を明るく映してくれた。
 そして虹と共に渡ってきた幸せに心を弾ませた。
 アケは、ずっと閉めっぱなしでいた屋敷の窓という窓を開けて澱んだ空気を入れ替え、三角巾で長い髪を纏め、割烹着を着ると屋敷中をくまなく掃除し始める。
 箒で床を履き、

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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜間話 梅・・そして虹

明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜間話 梅・・そして虹

 昨夜降った雨の香りが草花に染み付き、清涼感のある香りがゆらめくように庭を流れる。
 アケは、着物の裾を捲し上げ、素足のままに履いた草履で濡れた地面を踏み締める。その隣で小さな火猪のアズキが蹄に泥が付くのが嫌なのか、比較的にぬかるんでない場所を選びながら小さな足を動かしている。そんな仕草がとても可愛らしく、思わず抱きしめたくなるが今は大振りの笊を抱えているので出来ない。
「行くわよアズキ」
 アケ

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