ノエル

評論という名の創作に勤しむしがない社会人

ノエル

評論という名の創作に勤しむしがない社会人

最近の記事

  • 固定された記事

藤井風 まつり 素直で穏やかな「世界への挑戦」

藤井風のセカンドアルバム「LOVE ALL SERVE ALL」がリリースされてはや半年ほどたちました。個人的には2022年最も聴いたアルバムになりそうな予感もしているのですが改めてアルバム内の曲について語りたいと思います。 今回語るのはアルバムのリードシングルとして先行配信された「まつり」です。 ジャズやクラシック、歌謡曲、R&Bなど様々なジャンルを「藤井風」としか言えないジャンルに昇華するポップセンス。それを日本の和のテイストに向けてうまく着地しているそんな曲です。彼のL

    • 真夜中の

      本屋で装画が目に留まってついつい手に取ってしまう。 本好きならそんな経験を何度かしたことがあるはず。 御多分に洩れずそんな調子で今作を手に取りました。 読み終えた感想としては、、、 なんか自分に合わない。言ってしまえばそこまで心躍る読書体験ではないと感じてしまいました。 しかしこの本が不思議なのは最後まで読み切らせる力。何かに取り憑かれているかのようにページをめくってしまう。心の中に天使と悪魔がいて両手を引っ張られるような気分でした。 その後しばらくは特にこの本の

      • 黒い家

        好きな小説家を3人上げろと言われればすぐにその名前を言わざるを得ない。 貴志祐介。 昨今様々な芸術領域で起こっているジャンルレス化をより早く展開させており、貴志祐介としか言いようのない世界観が魅力。 個人的にホラーが少し苦手ということもあり「黒い家」は少し後回しにしている感はありました。 しかし一度本をひらけば流石の一言。あれよあれよと読む手は止まらず、休日を丸々使って読み切ってしまいました。 ホラーといっても人間のうちに潜む悪のホラー。 映画やドラマでついつい悪

        • ゴールデンスランバー

          伊坂幸太郎さん。遅ればせながら初めて読みました。 ビートルズフリークなら振り向いてしまうタイトルに本屋に行けば1番目立つところに一冊は置いてある伊坂さんの本。 読まないのがおかしいと思える状況に何度か遭遇しようやく手に取りました。 読み終わって思ったことはアクション映画を見終わったかのようなハラハラ感と小説の繊細な表現が混在していてもうすごい。でした。 それほどまでにエンタメ小説と叙情性の表現を果てしない高みで両立しています。 帰る場所やいつまで経っても変わらない仲

        • 固定された記事

        藤井風 まつり 素直で穏やかな「世界への挑戦」

          音楽

          三島由紀夫をたいして読んだことのない私だがこのシンプルかつ強烈なタイトルは放って置けなかった。 三島由紀夫の中でもかなりの異色作らしく、かなり難解。心理学的用語や古典の引用、それらを理解できなくとも人間心理の本質に理詰めで近づく構成は新鮮でした。 精神的な病にも明るくなってきた近年ですが60年代半ばにここまで偏ったテーマで深くまで書き連ねる姿勢はさすが三島由紀夫でしょうか。 中心軸として性と欲がありました。肉体として現実に存在する性。心理的に、本質的に存在する欲。それら

          さんかく

          衣食住のうち二つを掴まれたらそれは浮気なのでしょうか。 内容をちらっと見てすぐに惹かれてしまいました。 こういった男女間のリアルであってリアルでない世界観は千早さんの小説では鉄板ですよね。 けど毎回二番煎じにとどまらないのが千早さんのすごいところだと思います。 もしかするとそれらの関係性は本質的に同じなのかもしれません。 ただ表面を齧っただけの読者が勝手に枠に放り込む。そんなやわな工程にも思えました。 しかし千早さんと私達読者が文字を介して通じるその過程には、ただ

          さんかく

          ストレートが来ると思ったら床に穴が空いた

          灼熱が息をするようになってきたこの頃。 もっぱら外に出ずに読書ばかりしていると夏真っ盛りという事も忘れてしまいます。 そんな三連休に読んだのは 井上夢人 「ラバーソウル」 ピンとくるかたも多いのではないでしょうか。「ノルウェーの森」も収録されているビートルズのアルバムタイトル。 本屋でまんまとタイトルにつられました笑 最近少しづつミステリーに手を出していふ私は井上夢人氏の作品を初めて手に取りました。 何かの取り調べのように様々な人物の供述で展開されていく物語。

          ストレートが来ると思ったら床に穴が空いた

          3回読み直した本

          私事ですが週末に四国へ旅行に行ってきました。 旅行といえばどの本を持って行こうか。まるで小学生の遠足みたいな気持ちになれる数少ない機会の一つでもあります。 今回私が選んだのは名作中の名作、村上春樹氏の 「ノルウェーの森」です。 私が本を読むきっかけになった大きな意味を持つ本でもあります。 人間の皮膚の下を描くような生々しさ、それでいて触れるか触れないかソワソワするような感覚。小説でしか得られない感覚は多くありますがそれの典型で最たるものだと思います。 今回に限って

          3回読み直した本

          最近読んだ本

          めっきり暑くなり外に出るのが憚られる季節がやってきました。 そんな夏は勝手に読書の夏だと思っています。 凪良ゆうさんの「流浪の月」。皿に乗った三つのアイスクリームとテーブルに落ちている二つと皿の上の一つのイチゴ。 皿に乗ることを諦めたのか、それともスプーンを使うこと自体諦めたのか何かしらの諦念が感じられる妙に艶やかなカバー写真。 更紗と文の関係性は二人にとっては全く違うもので、それは触れることもしない真反対のものだったのでしょう。 多様性などが叫ばれる昨今において誰

          最近読んだ本

          海辺のカフカ 読んでみて

          社会人になりまとまった時間が徐々に取れなくなる中ようやく読みました。 村上春樹著「海辺のカフカ」 村上春樹の作品はたまに読みたくなるのですが「ノルウェーの森」か「スプートニクの恋人」を繰り返し読んでいました。 村上春樹の作品にはよく生と死が対極的に置かれていることが多いと思っていました。 しかし「海辺のカフカ」では現実かそうでないかの境目が非常に曖昧な世界観が全開。 その曖昧さはおそらく誰もが持っていた若い頃(精神的に)の不安定さそのもので共感と多少の同族嫌悪的な恐

          海辺のカフカ 読んでみて

          本を開けば千早あかね

          千早あかねさん。つい最近新作「しろがねの葉」を刊行され、今をときめく作家の1人というのは疑いようがないでしょう。そんな千早さんの作品は一回紹介するほどハマっていました。 しかし。しかしデビュー作を読んでいないことに気づきました。そんなわけで書店に直行。ありました。 魚神 (うおがみ) 目を引く表紙のデザインは少し刺々しく、生々しさが匂う。読み終わると他の作品にも通ずる部分が多くありました。ではいつものようにダラダラと書き連ねたいと思います。 まずかんし感じたことは「あ

          本を開けば千早あかね

          文字という名の仮想現実

          いつものようにKindleをするするチェックしていると何度か目にしたことのあるタイトルが... 個人的にはミステリーは10回に1回くらいのペースでしか読みません。かつゴリゴリ文系の私は理系ミステリー代表の森博嗣さんを何度かスルーしていました。 そして期間限定なのかは分かりませんがKindle Unlimitedの文字が!これは読むしかないと思い読んでみました。 結果、1日で読んでしまいました、笑 いや、もちろん科学知識の欠乏から理解できない箇所には何度も出会いました。

          文字という名の仮想現実

          ゆりかごに揺られて

          カートヴォネガットの作品にハマって3冊目に選びました。「猫のゆりかご」 ディストピア小説が好きな私にはあまりに魅力的なあらすじですぐに手に取りました。 ぶっちゃけましょう。想像とは違いました...笑 予想を裏切られた!というような爽快感でらなく、むしろ「んんん?ほええ、なるほど」のような奇想天外な感情にさせてくれました。(語彙力) 日本に落とされた原子爆弾、これについての本を語り手が執筆しようとするところから物語は始まります。 原爆をめぐる取材を続ける中で主人公はあらゆ

          ゆりかごに揺られて

          人生最高のエンタメ小説

          決してタイトル詐欺ではありません笑 あくまで主観でしかありませんがSF小説を50冊以上は読んだ私のトップということだけ伝えさせてください。 『プロジェクトヘイルメアリー』は、作家アンディ・ウィアーによるSFエンタメ小説です。 物語は主人公が記憶喪失で目覚め、名前や自分がどこにいるのか、過去やことの経緯を理解するために奮闘するところから始まります。そして彼は宇宙船に乗っており、そこで人類の存亡に関わる使命を果たすための研究を行っていることに気づきます。 ググれば出ること

          人生最高のエンタメ小説

          人間関係を表現するのに1番向くのは小説

          千早茜さんの「神様の暇つぶし」を読みました。彼女の小説と出会ったのは「男ともだち」が初めてでした。 その時から彼女の独特の世界観、特に型にとらわれない人対人をリアルにかつどこか遠い世界のように描く世界観に惹かれてました。 しかし「神様の暇つぶし」を読むと更なる衝撃が私を襲いました。 人が共通しているのは誰もが私は皆と違うところがある。と思っているところ。そんな一見辛辣なテーマを漂わせる小説でした。しかしそこに垣間見えるのは未成熟な感情の波、染み付いた人と比較してしまう思

          人間関係を表現するのに1番向くのは小説

          低俗主人

          なあ、おれの主人はおれのことをなんだと思ってるんだ?毎日のように散歩には連れてってくれる。甘ったるい飯も食わしてくれる。それに文句を言うつもりはこれっぽっちもない。ただ自然からあまりにも隔絶されたおれは歳を食っただけの無能上司のように世界の片隅にも寄与することができない。まあ、周りの奴らみたいに下卑た扱いで消費されるよりはいくらかマシかもしれない。ただ人間としてはそんな下卑た意思すら持ち合わせないおれの主人は生の気配をかなぐり捨てた苔に覆われた地蔵みたいだ。主人に限らず最近は

          低俗主人