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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする

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恋愛小説です。  過去の傷からクラスメイトに心を閉ざした嫌われ者が、新しい恋によって前を向こうとする痛々しい青春模様を書いている…つもりです。  春…起承転結でいう「起」のパート…
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#失恋

【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第53話-春、修学旅行3日目〜旅の終わり、恋の終わり

 如月中学校ご一行様を乗せたバスが、河口湖畔のホテルを出発する。
 理美は最後にホテルのエントランスを、道を挟んだ湖畔の庭園を目に焼き付けた。
 さようなら。私の初恋が終わった場所。
 きっとこのホテルの事を、私はずっと忘れないだろう。
 ちゃんと悟志と向き合う決意が出来た場所。
 いつかまた、この景色を見たい。曇りのない気持ちで、大切な人と。
 もう間違わない。誰かを好きでいるということは、その

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第49話-春、修学旅行2日目〜理美④

理美は膝をついて泣きじゃくっている。
 貴志の心を奪った坂木紗霧が憎かった。
 貴志の隣は、誰もが羨んでいた特等席。それを手に入れた、坂木紗霧に嫉妬した。
 そして紗霧がいなくなり、貴志の心は壊れてしまった。
 いくら泣いたところで、それは何の解決にもならない。それがわかっていても、泣きながら謝ることしか出来ない。
 出来ないのだ。
 理美は泣きながら謝ることしか出来ない。貴志が、2年近く

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第48話-春、修学旅行2日目〜貴志③

 最後に見た紗霧の顔は笑顔だった。目の端に涙を浮かべた、寂しい笑顔。その意味を知った時には、すでに彼女は貴志のそばにいなかった。
 あれから1年半の月日が過ぎた。

 夜風が冷たく体温を奪っていく。こんな風に心も冷めてくれたらどれだけ楽だっただろう。
 水面の揺れる音だけが二人の間に流れる時間を教えてくれた。静かに静かに時間が過ぎていく。
 その静寂を破るのは、二人の会話のみ。
「好きっていう言葉

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第45話-春、修学旅行2日目〜理美②

「私ね、悟志くんの事が、好きだよ」
 湖畔の闇に吸い込まれるように、言葉が紡がれた。河口湖の風は穏やかで、理美の次の言葉をも包み込もうと静かに波音を立てていた。
「悟志くんは、貴志くんの代わりなんかじゃない。
 ひとりの男の子として、好きなんだ」
 貴志は黙って頷いた。初恋が失われることの痛みは、とても根深い。ひょっとしたら一生をかけても癒やされないんじゃないか?とすら思う。
 それを乗り越えて弟

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第44話-春、修学旅行2日目〜紗霧②

 修学旅行2日目の夜。宿の和室で修学旅行生達が騒いでいる。紗霧は一人、広縁で外を眺めていた。星も見えなくはないが、和室からの明りが邪魔をしている。炭酸水を口に含んで、テーブルに横たわるスマートフォンを眺める。貴志からのメッセージはまだ開いてもいない。
 星が見たいなあ。夜空いっぱいに広がる星が見たい。
 外は怖くて出られない。貴志が横にいてくれれば出られるだろうか?それはもう叶わない事なのだけれど

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第40話-春、修学旅行2日目〜貴志①

 本栖湖湖畔で富士山を眺める。湖の碧と、富士山の蒼と、空の青。透き通るような景色の中、心を静かに鎮めていく。徹夜明けの眠気から開放されて、心も景色と同じように晴れ渡っていた。
 昨日会えなかった初恋の人。最愛の人。そして自分のせいで深く傷つけてしまった人。坂木紗霧を想う心。
 会えるかもしれないと思った昨日、久しぶりに触れた気がした。紗霧に伝えたかった、自分自身の気持ちに。
 俺は紗霧に会いたかっ

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第39話-春、修学旅行2日目〜旅は眠気と共に

 修学旅行って、こんなにも怒涛の展開をするものだっけ?将来卒業アルバムを開いた時に、きっと彼らは1日目をそう言って振り返っただろう。
 裕に訪れた二度目の恋は見事に散った。瑞穂に至っては初恋が霞んで消えた。
 理美は頬を腫らして、貴志は消えた恋人とギリギリの一線で再会を果たせなかった。
 中学生…?の修学旅行とは思えない展開で迎えた二日目。
 貴志たちの班は、全員が必死に眠気と戦っていた。

「い

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第32話-春、修学旅行1日目〜紗霧③

 なんとなく。そう、なんとなくだった。占いの館にいた、中学生の集団がなんとなく気になっただけだった。
 スープチャーハンに舌鼓を打った紗霧は、店を出ると、向かいにある占いの館へと向かった。
 同じ占い師が空いている様子だったので、その前に立つ。するとなぜか占い師は、自分の顔を見るなり大きなため息を着いたのだった。

「お姉ちゃん…。もしかして、失恋とかしなかったかい?
 それも一生を左右するんじゃ

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第10話-春、班決め〜理美

 晩御飯の調理が一段落ついて、貴志がダイニングテーブルに食べ物を持ってくる。
「パスタを揚げて塩を振ってある。甘いものを切らしてるから、とりあえずコレで我慢しろ」
 意外な特技を披露するものの、前髪に隠れた表情は誰にも読み取れない。台所にはラップに包まれたおかずたちが並んでいた。即席のプレッツェルに一番初めに手をつけたのは裕ではなく、瑞穂でもなく、理美だった。
「美味しい!塩加減が絶妙だね」
 そ

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