Math Note Ⅰ 第27話
釣り銭を受け取り、大きな雪の屋根を乗せたタクシーを見送った。ガラガラと玄関の扉を開けると、久しぶりに実家の甘い匂いがした。しかし玄関以外、明かりはほとんど消えていて、奥の薄暗い部屋で母が父の枕元に座って泣いていた。母の背中は、また少し小さくなったように感じた。
「ああ、昭雄。よう帰ってきてくれた」
「父さんは」
「今は眠ってる。だども、お医者さんはそんげ長うはねえって」そう言って、母はまた泣き出した。
「英雄と時雄は」
「英雄はどこにいるかわからね。時雄にはまだ連絡がついて