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Math Note Ⅰ 第18話

18  2次不等式の解から係数を求める――イメージがあるから

 鈴木には謝ることができた。でもあの時殴ってしまった理由をちゃんと説明したわけじゃないから、納得してないだろうな。また少し落ち着いたら話そう。それまであいつ、待ってくれるかな。
 父さんも母さんも、僕のためにがんばろうとしてくれている。僕が二人のためにできることは、今は勉強することだけだ。
 でも今の成績じゃどれだけがんばっても国公立大学なんて難しいんじゃないか、とひるんでしまう自分もいる。「サッカー盤」に例えるなら、端っこの選手の足が欠けてしまったら、どんなにくるくる回しても、コーナーにあるボールに触ることができないみたいに。
 
 いや、まずはペンを動かそう。
 
 スマホの電源を落とし、|引き出しに入れようとしたとき、引き出しの中に白いノートが入っていた。これは昨日のノート。誰だよ、こんなところにノート入れたの。僕しかいないか。俺が昨日ぼんやりしてここに入れたのかな。
 英語の課題から手を付けるつもりだったが、抗いがたい力が働いて、僕はそのノートを手に取り、適当なページを開いてしまった。そのページがふんわりと光ったような気がした。
 
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〈問〉2次不等式 $${x^2+mx+m+3>0}$$ の解がすべての実数であるとき、定数 $${m}$$ の値の範囲を求めよ。
 
〈解〉2次方程式 $${x^2+mx+m+3=0}$$ の判別式を$${D}$$ とおくと、
 $${D=m^2-4・1・(m+3)}$$
  $${=m^2-4m-12}$$

 $${D<0)}$$ より $${m^2-4m-12<0}$$
 $${(m+2)(m-6)<0}$$
 $${-2<m<6}$$

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 2次不等式の解はグラフのイメージで考えるというのは定石だから、 $${f(x)>0}$$($${f(x)}$$ は $${x}$$ の2次式)の解が「すべての実数」であると言われたら、 $${y=f(x)}$$ のグラフがどのような状態なのだろうと想像しなくてはいけない。$${y>0}$$ の部分が「すべて」なのだから、グラフは $${x}$$ 軸より常に上にあるというイメージだ。言い換えれば、グラフが $${x}$$ 軸と共有点をもたないのだから、2次方程式 $${f(x)=0}$$ の解は「ない」。つまり、判別式は $${D<0}$$ ということだ。あとは式を作って、その不等式を解けばよい。
 
……だから何だ。
 
 国公立大学って言っても、僕はどの大学に行きたいんだろう。スマホの電源を入れ直して、東京にある国公立大学を検索する。東京だけで国公立大学は十二、大学校まで含めると十四もある※1。関東まで広げると三十八もある※1。難易度も様々だ。いくつかの大学のホームページを見てみたが、どれも何となくすごそうな感じはするが、あまりピンとこなかった。
 
 そうか、行動に移すにはイメージが大事なんだ。大学入試の勉強をするなら、入学したい大学のイメージをちゃんと描く。一度大学を見に行ってみよう。そしたら通学時間や学生生活をもっとイメージできると思う。イメージができたら、もっと勉強もはかどるんじゃないかな。
 あ、そうだ。明日鈴木を誘ってみよう。あいつも勉強全然やる気にならないって前に言ってたもんな。今度は素直に話せそうな気もする。
 
 もう一度スマホの電源を落として、数学のノートと一緒に引き出しに直した。まずは英語の課題を終わらせよう。

※1「スタディサプリ進路」WEBページより。閲覧日2024年5月20日 https://shingakunet.com/

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