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Math Note Ⅰ 第31話
31 散布図と相関係数――何かに表れる
電車を降りて階段を駆け上がる。鼓動が早くなればテンションも上がる。改札を出て、学校までの道のりを、少し目線を上げて歩く。木の葉を下から見上げた時の、朝日が透けてキラキラした感じがとても好きだ。
馬場先生が勧めてくれたので、手帳を買い、毎日やった勉強時間を寝る前に記録することにした。
今日で記録を初めて一週間になるが、後で記録するということが分かっているので、時計を見て中途半端な時間なら、あと十五分だけ頑張ってみよう、などと考えるようになった。
また、これも馬場先生のおススメだが、問題集のできた問題番号に丸をつけていくことにした。ちょっとずつ丸が増えていく感覚や、このページはコンプリートしたという感覚も楽しい。
でも時々これでいいのかと思う時がある。この勉強でちゃんと必要な力がついているのか、ライバルはもっと難しい問題集を解いてるんじゃないか、予備校に通って、学校では決して教えてくれないようなテクニックを学んでるんじゃないか。
歩いていると、ブロック塀の上に何かが置いてあるのが見えたので、手を伸ばしてとってみた。それは何度か見たあの白いノートだった。なんでこんなところに。思わずパラパラとめくってみる。朝日を浴びてキラッと光ったようなページがあったので、そこを開いてみた。
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〈問〉 生徒10人にA、B 2種類のテストを行ったところ、Aの得点の分散が$${250}$$、Bの得点の分散が$${200}$$で、AとBの得点の共分散が$${125}$$であった。このとき、AとBの得点の散布図として適当なものを下の①~④のうちから1つ選べ。
![](https://assets.st-note.com/img/1716893105815-JYhaC6HWJP.jpg?width=800)
〈解〉AとBの得点の相関係数は
$${\dfrac{125}{\sqrt{250}・\sqrt{200}}=\dfrac{125}{100\sqrt{5}}=\dfrac{\sqrt{5}}{4} \fallingdotseq0.559}$$
したがって、正の弱い相関があるから、散布図として適当なものは ②
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2種類のデータA、Bがあり、それらのデータを横軸と縦軸にとり座標平面に表したものを散布図という。一方が増えると他方も増えるような右肩上がりの傾向があるとき「正の相関」があるという。逆に一方が増えると他方が減るような右肩下がりの傾向があるときは「負の相関」があるという。
かなりはっきりとわかる場合は「強い正の(負の)相関」があるといい、ぼんやりとその傾向が見てとれるときは「弱い正の(負の)相関」があるという。
![](https://assets.st-note.com/img/1716893371119-1FiJGoc1Ff.jpg?width=800)
そして、その相関は「相関係数」を調べることでもわかる。
AとBの相関係数 $${r}$$ は
$${r=\dfrac{s_{AB}}{s_A・s_B}}$$
(ただし、$${s_A}$$ : Aの分散、 $${s_B}$$ : Bの分散、$${s_{AB}}$$ :AとBの共分散)
で表される。共分散の求め方は……話が長くなるのでここでは省略しよう。
そして、この相関係数 $${r}$$ は $${-1}$$から$${1}$$ の間の値をとり、強い正の相関があるときは$${1}$$に近い値を、 強い負の相関があるときは$${-1}$$に近い値をとる。相関が弱くなると$${0}$$ に近い値をとる。
この問題の場合は、相関係数が$${0.559}$$だから、そんなに強くはないけど正の相関関係があるとわかる。だから、ぼんやり右肩上がりの②が求める散布図、ということだ。
……そうか。
「田中くん、おはよー」大きな声に、驚いて現実に戻る。「何してるの?」
「いや、別に。おはよう、鳥谷さん」落ち着いたふりをしてノートを鞄の中に隠す。
「最近、田中くん、表情が変わってきたねー」
「え、そうかな」
「うん。なんかオーラ出てるよ。やってやる!って感じー」
「ははは。そうだといいんだけど」
鳥谷さんだって、今までと顔つきが全然違うのが僕にもわかる。
相関があるかどうかは、散布図を見ればわかるが、相関係数を計算することでもわかる。
勉強で力がついているかどうかは成績でもわかるが、問題集につけた丸の数でもわかる。丸の数だけできる問題が増えて、できない問題が減っているってことだ。手帳に書く時間も、これまで自分がやったことないくらい増えてきてるじゃないか。書くということは、成長を「見える化」しているんだ。
実在するかどうかわからないライバルや、あるかどうかわからないテクニックの心配をするのはもうやめよう。自分が今できることに集中するんだ。「ジェンガ」に例えるなら、相手のスリリングな抜き方を見ている暇があったら、次に自分が抜くブロックを探しておくほうがいいのと同じだ。
「もう田中くん、話聞いてるー?」
もう一度現実に戻って、鳥谷さんに謝った。今に集中しなきゃ。
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