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小説

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#一次創作

短編『君の愛はそこにある』

短編『君の愛はそこにある』

貪るようなキスをした。されたのではなく、した。なんだかすべてがどうでもよくなったんだ。あの日から私たちは同じ時を過ごしていた。
ラブホテルに入った時点で了承は取れたものとするのは早とちりなのだろうか。いつも通り一緒にご飯を食べて、カラオケに行った。いつもより狭い部屋に通されたから、私たちは隣に座った。腕が当たる。足が当たる。きっとその時点で君は余裕がなくなっていたのだろう。どこかそわそわしたような

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SS『彷徨う田んぼ』

SS『彷徨う田んぼ』

老人は今日も田んぼの横を歩いていた。細々した世界において、田んぼは貴重な真っ直ぐな場所である。
老人は全てを見てきた。大統領が銃殺されたのも知ってるし、大地震でも生きのびた。こどもはいる。孫もいるし、多分もうすぐ曾孫も生まれる。
長い雨が止んで、空気は洗い流され地球は輝いている。きっと高い場所から見てもこの場所はきらきらと光沢を感じさせるだろう。街が好きだった。あそこのコンビニはもともと友達の家だ

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SS『私の想いは濁流する』

SS『私の想いは濁流する』

河原を歩いている私の体を初夏の風は強く冷やした。もう5月になるというのに、こんなにも寒いものなのか。
空はもう白み始めている。
夕焼けのような世界は、私のことを知らない。誰も私がここにいることを知らない。
優しく包み込んでくれる空気が欲しかった。でももう声も出せなくなった私なんて、守る価値もないらしい。
鳥の声がした。
もう世界はもう息をしている。信号はいつだって動いている。車が止まり、また走り出

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SS『アルテミスにはなれなかった』

SS『アルテミスにはなれなかった』

雨が降る月夜、私は空を見ていた。雲に隠れていたのに少しだけ見えた。こんな綺麗な月があっただろうか。新月になる前の細くて折れそうな月がそれでも私を照らしていた。
アキラはもう家に戻っただろうか。
さっきまで一緒にこの高台から残業により光る街を見ていたのに、私は1人傘もささずにいる。
あいつの浮気癖は治らなかった。私のことを大事にしていないことなんて知ってたし、それでも一緒にいたいなんて思ってた私が馬

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SS『理想郷の中の傍観者』

SS『理想郷の中の傍観者』

【大学の課題】
 絵を見て情景描写。創作要素可。

 理想の暮らしの中で生きることはなによりの幸せだろう。現実生活はつらいとしても、この中に入れば自分が理想とした、そして思い通りにできる世界で生きることが出来る。
彼らの要望通り、山の中のおしゃれな林檎農家というセットを提供した。セットの中では空はどこまでも青く、雲は真っ白で、透き通った空気が彼らを包む。雨は降らないが、水の心配はいらない。汚れを

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短編『消えた足跡』

【お題メーカーさんのお題】
 タイトル:『消えた足跡』
 僕らには普通のことだった。左足から家の外に出てはいけないし、山を歩くときは左耳を塞がなければならない。小さな集落だから学校は一つしかないけれど、クラスは一学年二クラス。でも、一組に生徒はいない。二組が村の子供たちだ。左利きの子はすべからく右利きへと矯正すべし。
 そんなルールをめんどくさいなんて思うことはなかった。当たり前で、ご飯を食べるよ

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短編『電車にて』

短編『電車にて』

【大学の事前学習の課題】
 原稿用紙10枚程度(本来は20枚。短編二作という選択)
 駄文になったので、提出せず。

 嫌な臭いがした、気がした。
そう思った瞬間に感じなくなった。今の臭いはいったい何だったのだろう。
人は向かいの席の両端にいるだけだ。ああ、そういえば、いつもの楽器を背負った女子高生はどうしたのだろう。いつもに増して少ない乗客と嫌な臭いは何か関係があるのだろうか。酔っ払いがいる

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SS『なおす人』

SS『なおす人』

【大学の課題】
 絵を見て描写。(著作者さんがわからないので勝手な使用申し訳ないです)

 僕らの仕事は人間の子供の遊び相手と言う仕事から逃げ出してきたおもちゃたちの修理、保護である。世界中の子供から逃げ出してきたおもちゃたちは彷徨ううちにこの森のYellowPeopleのもとにやってくる。その量は、年々増えてゆき、我々も二十四時間業務になっていった。
 おもちゃ一つ一つを丁寧に縫ったり、綿を詰め

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