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小説

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#オリジナル小説

SS『空を飛べ』

SS『空を飛べ』

君は何も分かってない。

望は最後にそう言った。チクチクとした心をそっと怒りで包んで、泣きそうな自分を隠した彼女は、いつものお店でコーヒーを一杯買った。それはいつもより苦く感じたらしく、零して白いブラウスが汚れ舌打ちをしていた。

同時刻、碧は温泉に入っていた。日頃はシャワーで済ますから、熱いものに包まれること自体が新鮮であった。顔が赤くなり、緩く、何も考えていないようだった。サウナに入って、どこ

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短編『離れがたい』【1週間限定無料公開中】

短編『離れがたい』【1週間限定無料公開中】

【おにロリ(お兄ちゃんとロリータ)アンソロジーに寄稿した作品】

 愛情なんて知らない。僕の愛情なんて、他者からしたら気持ちの悪いもので、犯罪として扱われる。別に普通にその子のことが好きなだけなのに、世間的に居場所がないから僕の愛情は消し去ったほうがいいらしい。

 幼い女の子が好きだ。

 小学生以下の女の子。ランドセル姿だって素敵だと思う。でも、それよりももっと幼い子になんとも言えない感情が湧

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SS『朝焼けと目が合う』

SS『朝焼けと目が合う』

 ふと目が覚めた。頭だけではなく、体までも覚醒していて、いつもの憂鬱な目覚めとは何かが違っていた。体にかけていたはずのタオルケットはお腹だけを守ってくれている。夏の焦燥が私を襲うけど、まだ寝ていても許される時間のはずだ。枕もとのスマートフォンをつけて、通知を確認する。そしてそれらを無視してロックをかけた。その時思い出す、私は時間を確認したかったのだと。だからもう一度あけて五時前であることを見つめた

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小説『もう醒めない』

小説『もう醒めない』

 視界が赤かった。それは信号の止まれであり、渋滞中の車のテールランプであった。夜の街には赤色が唯一の光のように思えた。
私は屋上にいた。闇の中にいたせいで、ここがどこか分かっていなかった。でも、ここはビル街であり、気付いていなかっただけで明かりはたくさんあった。都会の夜は明るいのだと思った。
室外機の上に座っていると、隣からカップルと思しき二人組の歓声が聞こえた。広い屋上には五組の男女

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