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「ゴヤ」戦争版画展 美術館遍路記③

 1日に3カ所美術館を巡った話。こちらはラストの国立西洋美術館、「真理はよみがえるだろうか ゴヤ〈戦争の惨禍〉全場面」の記事だ。東京国立近代美術館と東京都美術館の記事を先に見ていただけるとうれしい。


1カ所目 東京国立近代美術館


2カ所目 東京都美術館


ゴヤについて

 さて、正直なところゴヤについてはあまり知らないため、手許にある西洋美術史の書籍を頼りにしながら整理していこうと思う。
 フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(1780-1828)は、スペイン美術における18から19世紀の転換期を代表する画家。1799年には首席宮廷画家の地位を獲得した。しかしその芸術の本質は宮廷画家としてのキャリアではなく、病気で全聾になったことと、ナポレオン軍による祖国の蹂躙を体験したことにある。

 ここで代表作と思われる作品を5点紹介しておこう。個人的には《裸のマハ》と《着衣のマハ》、そして《我が子を食らうサトゥルヌス》をはじめとした〈黒い絵〉シリーズの印象が強い。

《裸のマハ》(1797-1800頃)
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《着衣のマハ》(1800-1805頃)
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《カルロス4世の家族》(1800-1801)
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《1808年5月3日》(1814)
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《我が子を食らうサトゥルヌス》(1819-1823)
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 〈戦争の惨禍〉は戦争や侵略の憎悪から生まれたという。今回の企画展は常設展示室内にある「版画素描展示室」で開かれていた。公式サイトの文を引用しよう。

本連作はゴヤの存命中には公開されず、1863年になってようやく、80点からなる初版が出版されました。国立西洋美術館は1993年度にその初版を収蔵、以降多くの場面を様々な機会に展示してきました。また2017年度には、番号が振られながら初版には含まれなかった2点の作品も収蔵しています。しかし当館では、これらのうち半数近い37点をこれまでに展示したことがありません。そこで本展では、連作全点と連作外の2点を合わせた計82点を披露、版画集の全像をご紹介します。

真理はよみがえるだろうか
ゴヤ〈戦争の惨禍〉全場面
公式サイトより引用

なんと、国立西洋美術館所蔵の〈戦争の惨禍〉の全貌が明らかにされるのは初めてのことだそう。これは行くしかない!

国立西洋美術館 常設展

 この日は会期終了間近。ここまで昼食を摂らずに美術館を渡り歩いてきていたが、もはや空腹のピークは過ぎているように感じた。(真似してはいけません)
 国立西洋美術館に到着したら、いつも通りブルーデルの《弓をひくヘラクレス》を撮る。

エミール=アントワーヌ・ブールデル
《弓をひくヘラクレス》(1909、原型)

 なんだかんだ西美に来たのは「キュビスム展─美の革命」の会期最終日以来、実に3ヶ月半ぶりである。

──常設展入場──

真理はよみがえるだろうか ゴヤ〈戦争の惨禍〉全場面


●版画展に

来た!

 一応すべて記録はしたのだが、何といっても82葉もあるため、特に印象に残ったものをほんの数点だけ掲載したい。解説は展覧会のキャプションにある程度依拠している。

●非常に陰鬱としている
 「1番」の版画。暗がりのなか、痩せ細った男が天をにらんでいる。とてもじゃないが「良いこと」が起きる予兆ではなさそうだ。

《1番 来るべきものへの悲しき予感》
(1814-15頃、1863年出版)

●爆撃後の様子
 2番から47番までは、戦時下の凄惨な様子が描写されている。
 「30番」。火薬庫の爆発、あるいは大砲による爆撃の被害に基づくものだとか。爆撃による犠牲者を表した史上初めての作品とも考えられるらしい。

《30番 戦争の惨害》
(1810-14頃、1863年出版)

●心痛い……
 48番から64番までは、1811-12年の冬にマドリードを襲った飢餓の場面。
 「50番」。飢餓の犠牲になった母を、幼児が泣きじゃくりながら追いかける。画面には銅版の腐食による粒子が見える。

《50番 可哀そうなお母さん!》
(1814-15頃、1863年出版)

●風刺的だ
 65番から最後の80番までは「強調されたカプリチョス」と称される、寓意的な政治、あるいは社会風刺を描いた作品群。
 僧侶の男性がいまにもちぎれそうな綱の上を渡っている。教会批判の意が込められているそうだ。

《50番 綱が切れるぞ》
(1814-15頃、1863年出版)

●真理はよみがえるだろうか
 「79番」で光を放つ真理は横たわり、「80番」ではより輝きを増している。後者はゴヤの希望を表現しているようにも思えるが、彼の版画に共通する風刺性を鑑みるとこれも政治への批判と捉えるべきだという。

《79番 真理は死んだ》
(1814-15頃、1863年出版)
《80番 彼女は蘇るだろうか?》
(1814-15頃、1863年出版)

常設展

 ここではゴヤの版画展以外で気になった作品を数点紹介する。

●マイヨールの絵画!?
  彫刻家として名が知られているアリスティード・マイヨール。こちらは画家として活動していたときの作品だそう。草原の描写は静謐で優しい。すぐ近くに彫刻も展示されていた。

アリスティード・マイヨール《花の冠》(1889)
マイヨール《ヴィーナスのトルソ》(1925)

●アルベール・グレーズ!
 国立西洋美術館での「キュビスム展─美の革命」で観ることができた作品。意外にも早く再会を果たす。1912年に開かれた展覧会、「サロン・ド・ラ・セクションドール(黄金分割展)」に出品された大作である。
 日常的な主題もキュビスムの図式を通過させることで、こんなにも新鮮な美を享受できる逸品になる。なにより大きくて迫力がある点も最高だ。

アルベール・グレーズ《収穫物の脱穀》(1912)

●ピカソ!
 初展示作品だって! 約半年前の私はピカソの画が苦手だったのだが、いまはおもしろい芸術として観ている。これもなかなか不可思議な作品だ。上手いとか下手だとか、写実的か否かとかそんな次元では語れない、彼が描きだす人物像特有の生命力をこの画からも感じる。

パブロ・ピカソ《女性の胸像》(1942)

●ジャン・デュビュッフェ!
 この芸術家に関してはまだまったく勉強できていないが、あまり作品を鑑賞する機会がなかったので観られてうれしい。なんというか、死と生を同時に感じる。

ジャン・デュビュッフェ《美しい尾の牝牛》(1954)

──常設展おわり──

すっかり夜になってしまった

おわりに

 ここに長い長い1日が終わりを告げた。みっつの美術館を巡ったって自分でもすごいと思うわ……。西洋美術館は少々早足での観覧となってしまった点は悔やまれるが、ゴヤの希少な版画を観ることができとてもよかった。これから知識をつけていこう。
 一方その他の展示については、キュビスム展で通っていた3ヶ月半前より名前がわかる芸術家が増え、成長を感じられてうれしかった。以前より格段に鑑賞を楽しめたという実感がある。
 天下一品のラーメン(昼夜兼)とともにお別れしよう。ここまでご覧いただき誠にありがとうございました。

こってりMAX大盛り
なんだかんだ食べれば腹が減ってくる


関連リンク


参考文献(刊行年順)

●『増補新装[カラー版]西洋美術史』高階秀爾監修、美術出版社、2002年

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