日本に広がるエコビレッジの特徴とは?
こんにちは。新生活の忙しさを言い訳に、前回の更新からかなり時間が空いてしまいました…
今回は、日本のエコビレッジに着目して、特にこの十数年で新たなエコビレッジが広がってきた背景と、その特徴を概観してみたいと思います。
日本でエコビレッジが広がってきた背景
経済停滞と地方の過疎化が止まらない日本社会
まずは、経済という大きな視点の話から考えてみます。
バブル崩壊以降の「失われた30年」とも言われる日本社会の停滞ぶりは、改めて言及するまでもないでしょう。
いい会社に入れば、給料は右肩上がりで人生安泰!なんて時代は遥か彼方。朝から晩まで働き詰めでも、漠然とした将来への不安は常に消えないし、いつ何が起こるかわからない。
「生きづらさ」を感じる人が増える中で、潜在的にオルタナティブな生き方へのニーズが高まっていたと言えるのではないでしょうか。
一方で、地方では過疎化が止まりません。
エコビレッジのあるような田舎はどこも、集落の高齢化、農作業の担い手の減少、耕作放棄地や空き家の増加、、といった問題のまっただ中にあります。
土地や建物といったフィールドはいくらでもあるので、エコビレッジがはじまり地域に受け入れられていくにつれ、「ここの空き家も使っていいよ」「あそこの田んぼもやってほしい」というように、活動がどんどん広がっていきやすい状況になっています。
引き金となった3.11東日本大震災
そんな中で、2011年、東日本大震災が起きました。
多くのエコビレッジの設立・拡大のきっかけとして、3.11の経験が語られており、エコビレッジ運動が広がる大きな引き金となったと言えます。
3.11は、資本主義の巨大なシステムに依存したライフスタイルの脆弱性をあらわにしました。
スーパーの棚から商品が消え、生活が成り立たなくなったことは記憶に新しいでしょう。
インフラが機能しなくなる非常事態では、お金を持っていても、生きていくのに必要なものが買えないことを、多くの人が身をもって体験しました。
普段消費している食べ物は、エネルギーは、どこからどのような経路を通って手元に届いているのか。
そこから、暮らしに必要なものを自らの手で生み出したい、もしくは自給ができなくても、生産者の顔が見えるような地元や近隣で生産されたもの、エシカルで環境負荷が低く安全なものを選択し、地域内で循環する小さなスケールの暮らしをしたいと考えた人たちが、エコビレッジのような新しいライフスタイルを求めるようになりました。
さらに、福島第一原発の事故は、エネルギー問題へと目を向けさせました。放射性物質による環境汚染、また原発の停止による火力発電への依存度の高まりを問題だと感じた人の間で、環境負荷の高いエネルギーを利用せず、再生可能エネルギーや薪などを利用したオフグリッドな暮らしへの志向が高まったのです。
日本のエコビレッジの特徴
こうした背景をもとに、近年増えてきているエコビレッジのいくつかの事例から、共通する5つの特徴を挙げてみます。
①「社会を変える」という大きなビジョンを追求する
ビジョンを持っていることは、エコビレッジの根本的な特徴といっても良いでしょう。以前の記事で、シェアハウスとの違いとして説明した点でもあります。
そしてそのビジョンは、自分たちの暮らしという狭い範囲を超えて、「社会に働きかけて変革を起こしたい」「持続可能な新たな社会モデルを作っていきたい」という社会全体を見据えた大きなゴールを目指しているエコビレッジが多いです。
たとえば、北海道にある「余市エコビレッジ」では、持続可能な暮らしの学びの場として、住人にとどまらず多くの人にエコビレッジの門戸を広げています。訪れた人が暮らしの体験を通して地球環境や社会の問題について学び、それぞれの日常の中に持ち帰ることで、環境や社会の問題を解決するためのアクションが社会全体に広がっていくことを目指しています。
また、長野にある「キブツ八ヶ岳」では、第二の人生を迎えたシニア世代を中心に生活を共にするコミュニティである「エンディング・ヴィレッジ」を今まさに構想しているところです。人生100年時代、仕事や子育てから解放され次のステージに進んだシニアの方々が、孤独にならず人とのつながりや生きがいを持って過ごせるような理想郷のひな型を作るべく、「未来社会の実験場」として準備を進めています。
このように、100%の自給自足で生活を完結させ、「自分たちだけが理想的な暮らしができればそれで良し」とはせず、積極的に外部や社会へと開いていくのが最近のエコビレッジの特徴で、1960年代に活動していたコミューンが閉鎖的だったのとは異なる点です。
②自給自足と資本主義経済のバランスを取る
このように、完全な自給自足や資本主義社会からの隔絶などは全く目指しておらず、一部は自給自足し、一部はお金を使いながら上手く経済のバランスを取っているのが2つ目の特徴です。
たとえば、日々の食事を例にとると、野菜・卵・米などは自分たちで作り、お肉はたまに近所の猟師さんがとった鹿肉を分けてもらい、その他自力での調達が難しい調味料やお菓子などはときどきスーパーに買いに行く。そんな暮らし方をしているエコビレッジが多いです。
また、田んぼや畑での農作業、また収穫した食料の加工・保存など、自給のための作業の多くはボランティアで担われているなど、お金を介さない「ギフトエコノミー」が働いている場面も多いです。
③教育・ツーリズム活動に取り組む
では、生活に必要なお金はどのようにして得ているのでしょうか。
多くのエコビレッジでは、日々実践している自給的暮らしを題材とした教育・ツーリズム活動を通して、①の「社会を変える」というビジョンの実現を目指すとともに、 ②の生活に必要な資金を獲得しています。
教育については、農的暮らし体験や自給自足のノウハウを教えるワークショップやセミナーなどの教育プログラムを自分たちで企画して行うこともあれば、学校や企業の研修を受け入れる場合もあります。
大学ではゼミの学びや合宿などの場として、以前からエコビレッジのフィールドが活用されてきましたが、最近では、中学校や高校で、修学旅行や探求学習の一環として”SDGs研修”が行われるようになり、エコビレッジが受け入れ先となって体験型の学習を提供することが増えてきています。
また、複数人での共同作業を伴うエコビレッジの暮らしは、企業のチームビルディング研修などの場としても需要が高まっています。
教育に限らず、エコビレッジの見学ツアーや宿泊などのグリーンツーリズムも多く行われています。
④関わり方の多様性と関係人口の多さ
このようなツーリズム活動を行うことで、イベント・教育プログラムへの参加者や、宿泊ゲストなどの関係人口がどんどん増えるのが4つ目の特徴です。
エコビレッジの活動を通して、都会に住む人にその地域との関係性が生まれ、現地を訪れたり再訪したりする、関係人口となっていくのです。
また、手間のかかる農的暮らしには多くの人手が必要ですが、住人だけではそこをまかないきれず、短期・中期の住み込みボランティアスタッフを募集している場合がほとんどです。
そもそも、エコビレッジの敷地内や地域に定住する住人だけではなく、離れた場所に暮らしながらオンラインなどで活動に関わるゲストメンバーなど、複数のメンバーシップを設ける例が増えてきています。
そして、インスタなどSNSでの発信もさかんに行い、最近ではクラウドファンディングを用いてプロジェクトに必要な資金を集める場合も多く、インターネットも活用して様々な人達を巻き込んで活動しているエコビレッジはうまくいっている印象です。
住人、ゲストメンバー、ボランティア、地域住民、クラファン支援者、SNSやメルマガのフォロワー、、関係性が濃い人から薄い人まで、コミュニティへの関わり方は多様です。
⑤地域に根差したコミュニティ形成と地域活性化への貢献
関わり方のひとつに地域住民を挙げましたが、はじめからすんなりと地域の人々にエコビレッジが受け入れられるわけではありません。
設立当初のよくあるパターンとして、高齢化が進む集落に、地縁のない若者たちが突然移住してくるため、「宗教ではないか」「怪しい集団ではないか」と警戒されることが多いです。
しかし、その地域に根を張り、ご近所さんたちと良い関係性を築くことはエコビレッジの発展にとってとても重要です。
まずは、日々の挨拶はもちろん、小さな頼みごと・頼まれごとを重ねて丁寧なコミュニケーションを取り、地道に信頼関係を築くこと。
そして、草刈りなどの地域の仕事に若者を派遣する、自治会・民生委員などの役割を引き受けるなど、地域の発展に積極的に関わる姿勢を見せること。
こうして長い時間をかけて徐々に理解と信頼を獲得し、当初のハードルを乗り越えて地域に受け入れられるようになったエコビレッジは、運営も安定し、地域コミュニティのハブとして成長していきます。
④で見た通り関係人口も多いため、エコビレッジが活動を広げることで訪れる人も増え、地域の活性化にもつながります。
おわりに
かなりボリュームのある一本になりましたが、日本のエコビレッジを少しマクロな視点から見て言えることを、詰め込んでみました。
卒論の前半部分の結論にあたりますが、いかがでしたか。
次回は卒論の後半部分、エコビレッジを持続的に運営するには?という内容を書いていきたいと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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