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書評

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津村記久子(2019)『二度寝とは、遠くにありて想うもの』講談社文庫



KODANSHA BUNKO CREATOR FAIRの期間限定表紙の果たしている役割も大きいことを、忘れないように初めに記しておきたい。画像が無くて申し訳ない。ありがとう橋下美好さん。また、本文に描かれている挿絵も絶妙である。

日常を、丁寧に心を込めてしつこいほど一本一本ほぐしていくような、そんな職人技を読んで堪能できる。私はこんなに記憶力よく細かいことを感じながら日々を生きてはいない。自

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トルストイ著=木村浩訳(2012)『アンナ・カレーニナ(下)』新潮文庫



人は感情で生きているのだということが、いやでも心の底からわかってしまう。人生はいったい何のためにあり、晴れぬ苦しみに救いを差し伸べるは果たして正しい結末だろうか。

人間性をここまで緻密に、特に感情の機微に至るまでを描き切った作品は確かに傑作であろう。しかしその主題ゆえに、描かれたものは我々の日常に絶えず付きまとい、かつこれからも離れることのない平凡な悩みである。いつか累世の苦悩から人間が解き

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竹宮ゆゆこ(2018)『あなたはここで、息ができるの?』新潮社



表紙がいい、タイトルがいい。まずそれ。圧倒的な光をその向こうに感じる。そして内容は、ちっぽけな人間のよくある悩みについて、まるで世界が壊れゆくかのようなタッチで描く。

今この時に誰かの世界のすべてのような人生を揺るがす出来事が起きたとして、きっと隣にいる僕らには穏やかに時がまた紡がれていくだけ。日常は絶対多数の支持を得て、永遠に続く。頑張れってこと。

蒼井ブルー(2018)『もう会えないとわかってから』河出書房新社



こんなにも親しかったのにこんなことになるのだから、もう何が起きてもおかしくないというような気持ちでいないとならないのかもしれない。愛しいという感情に、今を守ってくれる力でもあればいいのに。

わかるよ、想いはいつも一方的で、それは相手にとっても同じことで。人の心は見えない。見えたところできっとなんちゃらだって、誰か言っていた。会えないって言葉の恐ろしさ、世界がひとつなくなるなんて。

神澤志万(2017)『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』徳間書店



単純に面白い。仕事とは、ある人の人生の一部である。自分の知らない仕事の世界を覗くと言うことは、一つしかないはずの人生を二つも三つも経験できるということで、小説を読むのと同じ良さがあると思う。

この業界に関する本はとても少なく、ご縁があって辿り着いたのだが、マイナーな職業というのは他にも数多くあるのだろう。人それぞれの生き方に興味を持っていきたい。