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書評

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2020年5月の記事一覧

中田永一(2013)『くちびるに歌を』小学館文庫



長崎県五島列島の中学合唱部を舞台にした青春小説。大会に向けた日々という定番のシナリオでありつつも、発達障害やリベンジポルノといった現代の課題を織り交ぜた課題図書にしたい一冊。

傍論になるが、「くちびる」という体の部位について。映画『さよならくちびる』とも通ずるが、歌を題材にした作品で印象的に使われるくちびるという言葉にどこか聖なる感覚を抱いてしまう。すべての音がそこから始まり、拡がっていく。

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仁藤夢乃(2014)『女子高生の裏社会:「関係性の貧困」に生きる少女たち』光文社



2013年に警察の補導対象となり、一時世間の話題をさらったJK産業。その内情を当事者である女子高生たちのインタビューから構成した一冊。その子なりの悩みに向き合ってくれる大人のいない青少年たちの状況を「関係性の貧困」と呼び、日本では風俗関連産業が表社会よりもむしろ居場所を提供する仮面的な社会福祉を担ってしまっている現実を指弾する。

表のスカウト、やってみませんか?未だに生活困窮者へのアプローチ

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若林恵編(2019)『次世代ガバメント:小さくて大きい政府の作り方』黒鳥社



行政府のデジタルトランスフォーメーションを説く一冊。配給制からオーダーメイド制への変革を求める。ほかに印象深いのは、計画の実現にはゴールとなる理想像をはっきりと示すことで国民の理解を得る必要があるとするところ。

本書を読んでも未だぼんやりしているのは、グローバル化の結果によって多様性がもたらされ市民の行政需要も多様化しているという前提について、分かるんだけどまだ誰も証明していない気がしてしま

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凪良ゆう(2019)『流浪の月』東京創元社



2020年、本屋大賞受賞作。間違いのない傑作でした。社会というものを構成する周囲の人間たちの、どうしようにも拭えない「偏見」を描きます。しかしここの偏見は、決して汚いものではなく、正しく清らかなものであることがどうにももどかしく、世界のありのままの姿を私たちは見させられます。

いま知らず知らずのうちにあなたが思い考えることは、果たして本当に目の前の誰かを救っていますか。「せっかくの善意」は、

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