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#226【劇評・絶賛&くらたの本棚】七色いんこ(2.5次元ミュージカル&原作漫画)ネタバレあり

今日もお読みくださってありがとうございます!

NHKオンデマンドで、『虎に翼』よりも『鉄オタ選手権』ばかり見てしまっているくらたです。
だってトラつばやVRおじさんや篤姫は集中して観ないと、1秒1秒がもったいなくて「ながら見」ができない。
『ブラタモリ』は今はまったく配信してないみたいで、残念。


2.5次元ミュージカル『七色いんこ』

さて先日、品川ステラボールへ2.5次元ミュージカル『七色いんこ』を観に行きました。
手塚治虫の名作漫画『七色いんこ』をミュージカル化。
いんこ役には元タカラジェンヌ七海ひろきさん、千里万里子刑事役には同じく元タカラジェンヌの有沙瞳さん。
(主演の七海ひろきさんが元タカラジェンヌで女性だって行くまで知らなかった……今日日の若い男性は中世的でおきれいだなあって思ってた)

品川ステラボールは初めて行きましたが、かの水族館の隣にこんなホールがあったとは。
会場がほどよい大きさで、舞台がとっても近い。
後ろのほうだったけれどしっかり段差があって見やすい席でした。
撮影OKのスペシャルカーテンコールのある回に行ったので、タイトル画像はそのときのものです。

原作漫画『七色いんこ』が好きだった

『七色いんこ』は手塚治虫の名作漫画です。
父の本棚に置いてあって高学年くらいから愛読してました。
父の本棚に少しだけあった漫画は、手塚治虫に白戸三平と、わたしが普段読んでいた少女漫画とは全く異なっていたけれど、一度読んでしまうとやめられない生命力の強さがありました。

中でも『七色いんこ』はラブコメ要素もあって親しみやすく、読んだ最初からとても好きでした。
代役専門の役者でドロボウの七色いんこと、彼を追いかける元スケバンの女刑事千里万里子。
一章一章が名作戯曲をテーマにしていて、その勉強にもなったりします。

ただ、『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』などと異なり手塚治虫特集でも話題に上ることがあまりない作品なので、「『七色いんこ』をミュージカルに??!」という驚きがありました。
(でも実は初演は2018年なのだそうです、知らなかった!)

ベトナム戦争への反戦作品

いんこと父親の相克は何となく覚えていましたが、観てみてびっくり、ベトナム戦争への反戦の意思が込められた作品でした。
あれ、そんなテーマがあったら絶対覚えてると思うのに、あれだけ好きで何度も読んだのに、全く覚えていない。びっくり。

戦争が多くの人間の人生を狂わせること。

最前線の人間は命を失ったり奪ったりしているのに、戦争を操作する人間は後ろでふんぞり返って座って金儲けをしていること。

暴力の恐ろしさ、個々の生身の人間のもろさ。

戦争や暴力が生み出す憎しみや悲しみや後悔とその連鎖。

原作の力はもとより、それをこの2024年に人間の身体をもって再現した舞台がとても素晴らしかった。

前半、お芝居がかった殺陣やフェンシングシーンがとてもかっこよかったのですが、後半に対置されたトミーや陽介への暴力シーンはすごくリアルで怖かった。そんなに殴ったり蹴ったりしたら死んでしまう、と思うくらいリアルでした。何があっても絶対に暴力はいけない、と思わせるに十分でした。

いんこ役の七海さんがパンフレットの対談で話しておられましたが、まさにこれは「今やるべき作品」。

パフォーマンスも素晴らしかった!

歌もダンスも素晴らしく、演出も作品にぴったりの洒脱な感じで良かったです(単発企画はたまにとんでもないことがあるので……『未来少年コナン』とか←しつこい)!

七海ひろきさんのいんこはめちゃくちゃ王子様的で、確かに原作でもいんこって良家のおぼっちゃまなので、たいへんぴったりでありました。
一幕のシェイクスピアのサーベルの扱いも決まってました。
でも本当の男性陣のほうが剣先がビタっと止まっていたので、長い物を扱うのは力がいるのだなあと思いました。

有沙瞳さんの万里子は元気で粗野で殺陣もかっこよかったです。
鳥アレルギー(鳥を見ると二頭身に縮んでしまう)をどう表現するのかと思っていたら、足を延ばして床にベタ座りして「かゆいかゆい~~!」とやっていて、原作のちび万里子感が出ていてかわいかったです。

トミー役の藤田玲さんのパフォーマンスも英語もよかったです。師匠の貫禄がありました。

陽介役の土屋直武さんも、大変お若くていらっしゃるのに、陽介はもちろんですが、AI役のロボットがとてもよかった。
動きの説得力よ。

珍しいロングアドリブ

くらたが観た回は、途中、「三連休なんて大嫌いだ!」というおじいさん役のアドリブから、アドリブ祭りが始まって面白かった!次のシーンが始まっているのにおじいさんが「三連休が~…」と言い続けてメインの台詞が聞こえなくて、「やっぱり無理だな!」とやりなおしになってました。

あそこまでのロングアドリブは初めて見る……。
鍬潟隆介役の郷本直也さんがとんでもなくはっちゃけてました。
ああなると音響さん照明さんも大変である。

くらたが舞台の上で一番ピンチに陥ったのは、大学2年生の時に参加した芝居で、公演中にブレーカーが落ちて照明から音響から全部消えたときでした。そのときのことを思い出しました。

衣装と舞台美術

衣装はどのキャラクターもらしさが出ていて良かったのですが、特に万里子がとってもかわいくて好みでした。
ジャケットはウエストで切り替えになっていて裾が広がってフレアになっていて、キラッキラのラペルピンもとても素敵だった!
カラーリングも、カーキのジャケット・パンツに赤紫色のシャツ・ネイビーのキャップと胸元のリボンがベストマッチ。
カーキと赤紫って、ネイビーの引き締めがあるとこんなにも合うんだ、びっくり……(←色彩検定1級なのに……)。
万里子らしさはそのままに、ミュージカルらしい華やかさがありました。舞台衣装ってこうでなくっちゃ!(未来少年コナンみたいな例もあって……←しつこい)

いんこの少年時代に、鍬形役の郷本さんがいかつい体格で女の子の格好して赤いランドセルしょってるのは笑っちゃいました。

舞台美術は、額縁のような可動式の枠の舞台美術が、枠を並べて場面を切り替えたり、枠を重ねて奥行きを出したり、スタイリッシュで機能的で、面白かったです。

家に帰って『七色いんこ』を確認したら

あまりにもベトナム戦争の話に覚えがなかったので、家に帰ってから父の本棚の『七色いんこ』を確認したところ、全7巻中6巻までしかない!
覚えがないはずです。

父のコレクションは知人の古書店から買っていたので在庫切れで全巻そろっていない作品も多くありました。
思い出して見れば、わたしは『七色いんこ』の結末を知らなかったのであった。

改めて借りた6巻までを少しずつ読んで、今日ついにキンドルで7巻を購入して読み終えました。
戯曲の数だけいくらでも続けて行ける構造を取っていながら、最終回はこういうふうに終わらせるように1話から仕組んであったのか……。なんという物語だ!

また、ベトナム戦争への反意ももちろんですが、いじめに遭う子どもの心の描写もすばらしいと思いました。
いじめられ、孤独ないんこがひとり、より強いガキ大将に扮装して鏡の前で「陽介(いんこの本名)はいい奴だ。彼をいじめるな」と言ってみせる場面は、のちに辻村深月『かがみの孤城』のプロローグで描かれた主人公の儚い希望そのものでした。

今このときにこの戯曲を舞台化すること

舞台はおおむね原作のとおりでしたが、いんこの師・トミーが殺される場面でトミーもいんこも散々殴る蹴るされるのは原作にはなく(木陰ですぐにズドンと殺されてしまう)、舞台版の演出でした。
でもそれ、メッセージ性があって良かったと思う。

暴力はいけない。
戦争はいけない。

『七色いんこ』では、トミーが反戦のメッセージを、いんこが父親が関わる政財界の悪を暴くメッセージを、舞台で表現して戦います。
まさに今、舞台化して表現されるべき作品。
このタイミングでこの舞台の実現にかかわった方々に、深い敬意を感じずにはおれない観劇体験でした。

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