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青山美智子『木曜日にはココアを』、谷瑞恵『神さまのいうとおり』を読んでみた

前記事↓で、中学入試の国語の問題文に使われた本を読んでいるという話を書きましたが、引き続き今日もそんな話です。

1.青山美智子『木曜日にはココアを』(宝島社、2017年)

2018年の開成で出題されたことは知っていましたが、今年は立教新座でも出題されたと知り、手に取ってみました。

わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている――。
川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。
わたしたちが起こしたなにげない出来事が繋がっていき、最後はひとりの命を救う。
小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる12編の連作短編集。
読み終わった後、あなたの心も救われるやさしい物語です。
インスタフォロワー数200万人のミニチュア写真家・田中達也氏がカバーを手がけています。

12編の連作短編ということで、1つ1つは独立したお話で主人公もそれぞれ違いますが、それぞれのお話が数珠つなぎというのか、リレーで襷を渡すかのように繋がっています。そして最後に元に戻ってくるような。

前半は東京のカフェに端を発するちょっとお洒落でほっこりする短編集、という感じですが、後半で舞台がシドニーに移ります。登場人物もオーストラリアの人たちが多くなります。そこから先は、私がシドニーに行ったことがなくあまり身近に感じられない…ということもあるかもしれませんが、やや平板で退屈になってきました(すみません)。読みやすいし心温まる、というレビューが多いのは頷けるのですが、若干浅いな、と思うところも…。

開成も立教新座も、出題箇所は前半です。やっぱり前半のお話の方が物語として出来が良いからではないかと思ってしまいます(笑)。開成は2編目の「きまじめな卵焼き」、立教新座は3編目の「のびゆくわれら」。

まず立教新座の方ですが、幼稚園が舞台です。主人公は幼稚園教諭になって1年半の女性、うっかりネイルを落とすのを忘れて出勤したらクラスの女の子が食いついてくれたのでその後も落とさずに出勤していたらベテラン上司の先生に注意されて…というような話。登場人物がほぼ全て女性、ネイルというモチーフ、ちょっと意地悪(?)な女上司にキツいことを言われてシュンとする(「プラダを着た悪魔」や「エミリー、パリへ行く」みたいですねw)…男子校で、あえてのチョイスなんだろうなと思います。前記事でも書いたように、上位の男子校ではあえて「自分とは違う他者の心情が読み取れるか」ということで女性ワールドの問題文を出してきたりすることがあるので。

そして開成の方は、家事が大の苦手のバリキャリ女性が主人公で、絵を描いている専業主夫の夫と幼稚園児の息子がいる…というお話です。極めて現代的ですね。息子のお弁当作りは一切夫に任せていたのに、夫が京都の展覧会に絵を出すことになり、京都へ行くのでお弁当が作れなくなる、大の苦手な料理と格闘しながら自分の存在意義について考えたり、夫に対して複雑な感情を持ったり…というような展開でした。文章は極めて平易ですが、これまた小6男子が心情を読み取るのは難しいのではないでしょうか。専業主夫を持つバリキャリ女性の気持ちに思いを巡らせたことがある小6男子は、たとえ開成を受験するような優秀な子たちでもあまりいないと思います(苦笑)。

2.谷瑞恵『神さまのいうとおり』(幻冬舎、2021年)

こちらは今年たくさんの学校で出題されたようです。手元の資料によると、ラ・サール、栄東、城北、三輪田学園で出題されたとのこと。

バラバラな家族を救ってくれたのは、
曾祖母の“暮らしの知恵"だった。言い伝え、風習、おまじない……。
幸せに生きるための秘訣は、昔からずっと側にある。会社を辞めて主夫になった父親。
そんな父親が恥ずかしい思春期の娘。
何も相談してくれない夫との関係に悩む母親。
一家は曽祖母の住む田舎に、引っ越すことになり……。

率直に言ってしまうと、私は「言い伝え」「風習」「おまじない」といった非科学的な伝承みたいなものをほぼ一切信じていない、実践することもほとんどない人間なので(子供がものすごく小さい頃は「痛いの痛いの飛んでけ~」ぐらいのことはしてましたけど)、正直読み続けるのがキツいなと思ったりしながら、なんとか最後まで読みました。都会の中学受験生にもその手のタイプの子が多くて、だからこその出題かもしれないですね。核家族で育ち、「ひいおばあちゃんが教えてくれた言い伝え、暮らしの知恵」などというものとは無縁な子が多いのではないでしょうか。こういう世界観が嫌いでなければ面白く読める作品だとは思います。

そして、この作品も前述の開成の問題と同様で「主夫」が登場します。『木曜日にはココアを』の方は東京の先進的な女性が主人公ということで、夫が働いていないことを恥じている様子は全くないのですが(むしろ家のことを任せきりにできてありがたいと思っているようです)、こちらはかなりの地方、農村部が舞台ということもあってか、思春期の娘は父親のことを恥ずかしく思い友達に隠したりしていますし、県庁に勤める母親も夫に対して相当に複雑な感情を抱いています。「そんなに恥ずかしいことかな?」と思いながら読みましたが、地方ではきっと周囲からの偏見が想像以上にまだまだ強いのでしょうね。家庭によっていろんなパターンがあるなと思いますが、ともかく「お父さんが主夫」という家庭環境の物語が近年出てきて、それが中学入試(しかも主に男子校)に出題されるのだな…ということに考えさせられます。そういえばNHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」もお母さんが働いていてお父さんは主夫でしたね(笑)。

おそらく中学受験を目指す家庭でお父さんが主夫というお宅はそう多くないでしょう。前記事で取り上げた貧困もそうですが、中学受験生の脳内にあるステレオタイプの家庭像とは違った環境の物語を出題し、自分の周りとは異質な世界で生きる人物たちの心情が読み取れるかを出題する、という傾向が1つ確実にあるようですね。社会の多様化が進む中、子どもも視野を広く持つことが求められるんだなと感じています。私もいろんな出典作品を読んで動向を注視していきたいと思います。

良書との出会いも吾子の受験とはどれだけ「狂気の母」なの吾も



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