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平野啓一郎『本心』、森沢明夫『おいしくて泣くとき』を読んでみた

子供の頃から本を読むのが大好きで、小学生時代は毎年夏休みに本を50冊読んで、読んだ本のタイトルと簡単な感想を書いたノートを自由研究として提出していた私ですが、近年は電車に乗っても本よりもスマホばかり見てしまったり、そしてステイホームで仕事もリモートが増え、電車の中や外出先での喫茶店で読書する…というシチュエーションもご無沙汰になり、めっきり本を読まなくなっていました。

再び本に触れる機会は思わぬところからやってきました。我が子の中学受験に関わる中で、塾の国語のテキストやいろいろな中学の国語の入試問題で問題文に使われた作品を読んでみよう…という気持ちになったわけです。

本来なら受験する本人が読むべきなんでしょうが、算数など他の科目の勉強で忙しくなかなか読書をしている時間がなく、また我が子の場合は図鑑や事典、科学マンガや歴史マンガを読むのは好きなのですが小説を読むことが苦手なようで、そういった本を読むことが楽しい息抜きにならないので、無理強いはせず、私が近年の入試のトレンド(好んで取り上げられるトピック)や難易度を把握するだけでもいいや…という思いで読んでいます。

…というのは名目で、実のところ「我が子が受験生でなかったら存在も知らないままだったであろう本を手に取って読んでみることが楽しい」という気持ちですね。

入試での国語の出典たどりつつ読書の趣味が久々復活

今年の入試で使われた作品をいくつか読んでみていますが、その中で今回取り上げてみるのは、

1.平野啓一郎『本心』(文芸春秋、2021年)

今年の渋谷幕張の入試で出題された作品です。

『マチネの終わりに』『ある男』と、ヒットを連発する平野啓一郎の最新作。
舞台は、「自由死」が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。
母の友人だった女性、かつて交際関係にあった老作家…。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。
さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る――。
ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。
読書の醍醐味を味わわせてくれる本格派小説です。

平野さんの小説は『日蝕』『葬送』など読んだことがあり、かなり好きだったので期待していましたが、果たして非常に面白かったです。ただ「面白かった」ではなく、「すごく良かった」「この作品好き」と思いました。私の好みに合う作家さんなんでしょうかね。他の作品も読まなくてはという気になりました。

私はファンタジー的な設定がとても苦手なのですが、この作品で非常に重要なモチーフとして用いられている「リアルアバター」とか「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」といったアイテムには全く抵抗を感じず、読みにくさは覚えませんでした。重要なのはそれよりも、上で引用した紹介文にもある「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」について考えることだなぁと…。

貧困、学歴、外国人、精子提供、障害、安楽死、SNS上でのバズりといった極めて21世紀的なテーマが多数ちりばめられた中で、通底しているのは「母親の本心を探る」というテーマで、これがタイトルにもなっているわけです。

上述の社会問題はどれも入試で好まれそうではありますが、それにしてもこの作品が小学6年生が解く入試問題に使われるんですね…驚くしかありません。渋谷幕張は例年、難度の高い純文学を出題するイメージがあります。精神年齢の高いお子さんが求められているのでしょうか。

2.森沢明夫『おいしくて泣くとき』(角川春樹事務所、2020年)

今年の開成の入試で出題された作品です。

貧困家庭の子どもたちに無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。
その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。
7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれ……。
遠い海辺の町へと逃亡した二人の中学生の恋心と葛藤。無力な子どもたちをとりまく大人たちの深い想い。
“子ども食堂”を舞台に、今年いちばん温かくて幸せな奇跡が起こる!
決して色褪せることのない人生の「美味しい奇跡」を描いた希望の物語。

こちらは非常に読みやすいです。小学6年生にこれを読ませるのは難しいなぁ…というような感想は持ちませんでした。2つの物語が同時進行で進むような構成で、これは最終的にどのようにリンクするのだろうかという一心で先へ先へと読み進めてしまいました(入試ではその中の一場面が出るだけなので、このような構成になっている作品であることは重要ではありませんが)。薄々こんな風に繋がるのかな…という想像をしながら読んでいたら、全く予想を裏切られ「そう来たか」と。確かに言われてみれば…(おっと、これ以上言うとネタバレになってしまいますね😅)。ラストは涙が出てしまい、非常に爽やかな読後感が残りました。中学生の淡い「友情以上、恋愛未満」的な関係が初々しく、この年になって逆にキュンときてしまうような…(笑)。

「子ども食堂」のモチーフは社会でも取り上げられそうですし、今後もこうして国語の題材として使われる可能性がありそうですね。中学受験をしようとしている小学生にとっては、決して身近なトピックではないと思います。一般的傾向として、裕福な家庭のお子さんが中受に臨んでいるケースが多いでしょう。お母さんがぬかりなく塾のお弁当を用意してくれて、塾から帰宅してもすぐ食べられるように夕食が準備されていて…というご家庭のお子さんがほとんどで、子ども食堂を利用しなければ日々の食事にありつけないような環境の子どもがいることに思いが至らないお子さんも少なくないのではないでしょうか。

中受の国語では「自分とは異質な他者の置かれている環境や気持ちがどれだけ読み取れるか」が問われる傾向があると聞きます。男子校で女子同士の友情や微妙な反目しあう関係などが問われたり、戦争中の物語が出たり。そういう意味で「貧困」をテーマにした物語が、渋幕や開成といった日本を代表する難関校で出題されているのもなるほどと思えます。家庭の中でも話題にしたり、こういったトピックを取り上げたドキュメンタリー番組を見るなど、少しでも工夫していきたいところではありますが…他の科目の勉強の合間にどれほどそれができるか、ですね(汗)。


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