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恥ずかしいだけのガチポエム

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素敵な写真とセンチなポエム。現実の厳しさに疲れた心を癒やされたいあなたに贈る、こつこつと積み上げていく世界。 心のどこかがほんのりとあたたかくなれば幸いです。 がんばって、だいた… もっと読む
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#創作

顔の味

顔の味

味のある看板は文字通りの顔だ。味のある顔はいい顔だから。
ぼくが持論を述べると彼女は表情を曇らせた。
彼女がいうには、自分は味のある顔だなんて言われたくないんだそうだ。
悪い意味じゃないのはわかるけど、若々しい感じがしない、と。
いやはや、よけいなことをいってしまったかな。

どこまでも深く

どこまでも深く

人間は宇宙を目指すし、地底も掘る。
工事現場をのぞきこむと、どこまでも深く潜れる気がする。
「穴を掘りつづけて、地球の裏側にいけるかしら」
彼女がいう。
ぼくは、こどものころに庭を掘った。地球の裏側を目指して。
「いけた?」
「親に止められた」
「止められなかったらいけた?」
もちろん、とぼくが答えると彼女はふふふと笑った。

ギャップを楽しむ

ギャップを楽しむ

たまに大久保あたりをぶらぶらするとカルチャーギャップだったりジェネレーションギャップがあっておもしろい。
「何にだってギャップはあるよ」と彼女。醒めた言い方をするけれど、退屈してるわけじゃない。むしろ、この状況を楽しんでいるんだ。
楽しかったら楽しいと言えばいいのに、と言いかけて、気がついた。
これはこれで彼女とぼくのギャップなんだ。
だったら、これを楽しむのが正しいのかな。

雨の日よりも好きなのは

雨の日よりも好きなのは

雨の日も好きだけど青空も好きだ。
ぼくがそう言うと、あの子が笑った。
順番が逆じゃないの?
これで、いいんだよ。
ぼくは,雨の方が好きだから。
面白いね、きみ。
同級生のおんなのこに、きみ、と言われた瞬間に恋をした。

すてきなさんぽ

すてきなさんぽ

昔つきあっていた女の子と、高速道路の高架下を散歩した。ずっと歩いていくとどこにつくだろうって。
彼女はすぐにあきてしまったけれど、ぼくはわくわくしていた。
どこにもつかなくていい。好きな子と一緒に好きな場所を歩いている。
そんなことを思い出すのは、決まって今の彼女と一緒に散歩してる時で、ぼくらは高速道路の高架下がお気に入りだ。かわってないなと、ぼくは思わず苦笑い。だけど、一緒に歩いてくれる彼女も楽

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春の訪れ

春の訪れ

ようやく春が訪れた。
なにがあるわけではないけれど、ウキウキした気分になる。
それは彼女にも伝わるようで「なんだかうれしそうね」なんて言われてしまう。
説明できないけれど、なんとなく足取りが軽くて、散歩にいってもいつもよりたくさん歩いたりする。
そんな日々、きっとなにかを生み出すだろう。

未来を選べ

未来を選べ

後悔している、という言い方は好きではない。自分が生きてきたことがむだになってしまう気がして。
なにがあっても、そこから自分は成長していく。
とはいえ、たまにはこう思う時もある。
大学時代にもっとがんばればよかったな、なんて。
でも、そんなこと考えても仕方ないのだ。時間は戻せない。好きな映画の好きなセリフを思い出す。
未来を選べ。

ずっと待ってた

ずっと待ってた

彼女とは高架下で待ち合わせることが多かった。
ふたりの家のちょうど真ん中。
待ち合わせ場所には、いつもぼくが先についた。彼女はぎりぎりにくることが多かった。遅刻はしなかった。
ぼくは高架下でじっと待っていた。
ある日、ぼくらは喧嘩をした。
翌日、高架下で待っていたけれど、彼女は現れなかった。ぼくは頭上を電車が10回駆け抜けて、ようやくあきらめた。それから1週間。ぼくは毎日電車の音を聞いていた。

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新宿駅の切り株

新宿駅の切り株

これはぼくと彼女のつまらない冗談で、ほかの人には面白くもなんともないだろう。
実際、この冗談を愛用しているぼくらだって、おもしろいとは思っていない。
むしろ、面白くもなくて、他人に言いたくもないのがいい。
ふたりだけの合言葉なのだ。

昭和なんで

昭和なんで

ぼくらは昭和生まれだ。
年号でいうと、3世代生きている。その事実に驚く。
「思ったより、ぼくはしぶといな」
ぼくがいうと、彼女も笑う。
「わたしもだよ」
お互いに歳を重ねてきた。人生は奇妙で、楽しい。

好きな建物

好きな建物

ある種の建物にはとても魅力があり、ぼくらは思わず足をとめてしまう。彼女とぼくは建物が好きという点では意見の一致を見るんだけど、実際に好きな建物の趣味は一致しない。困ったことに、もしくは幸い、ぼくらは特定のジャンルに偏ってはいなくて、古いビルが気に入ったり、洗練された新しい美術館が気に入ったりする。
意見は合わないけれど、おたがい、相手が好きなものは尊重できるから、いいのかな。

子どものように

子どものように

市場というと築地市場という世代だから、青物市場とか聞くと軽く驚く。
「市場に失礼じゃないの」と彼女はいうが、そんな自分も京都西市場なんかも知らないんだから、いいかげんなものだ。
「この世界は知らないことばかりだ」
ぼくは実感する。
「知ってることばかりじゃつまらないよ」と彼女が言う。
そう。ぼくらはいつまで経っても無知のままで、新しいものを見つけては子どものように目を輝かせるのだ。

パクりマクり

パクりマクり

堂々とパクるね、と彼女が笑った。
「よほど好きなんだね」とぼく。
「店主の名前が達也なのかも」と彼女。
著作権がらみのルールについてはよくわからないけれど、ぼくらは楽しんだ。
「楽しい看板はいい看板」とぼくが言うと、「それはそれでパクりだから」と彼女は笑った。

なぞなぞなぞ

なぞなぞなぞ

謎の家を見つけた。
ぼくが報告すると、「古いだけじゃないの」と言った。
「謎って響きだけで十分美しいんだ」とぼくは言った。昔、ある映画監督がインタビューで言っていた。
「響きは美しいけど、あの家が謎かどうかは、疑問の余地ありだな」と彼女は言った。
それはぼくも認めざるをえない。