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ずっと待ってた

彼女とは高架下で待ち合わせることが多かった。
ふたりの家のちょうど真ん中。
待ち合わせ場所には、いつもぼくが先についた。彼女はぎりぎりにくることが多かった。遅刻はしなかった。
ぼくは高架下でじっと待っていた。
ある日、ぼくらは喧嘩をした。
翌日、高架下で待っていたけれど、彼女は現れなかった。ぼくは頭上を電車が10回駆け抜けて、ようやくあきらめた。それから1週間。ぼくは毎日電車の音を聞いていた。
結局彼女は現れなくて、ついにぼくは諦めた。
若い頃の苦い思い出。
おとなになったぼくは町を出た。都会で忙しく働いているうちに、実家に帰ることも少なくなっていった。
ある日ふと、高架下のことを思い出した。行かなくちゃ。どうしてそう感じたのかわからない。
とにかく、いてもたってもいられなくて、高架下にいった。実家に顔も出さずに。
高架下に立つと、ちょうど電車が頭上を駆け抜けた。目を閉じて、耳を澄ます。この騒音が懐かしい。電車が走り去って、目を開けた。そこには彼女がいた。
「待った?」
彼女が聞いた。ぼくは微笑んだ。
「だいぶね」

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