秘境の村で"よそ者"ができることは?| 長野県天龍村「向方のかけ踊り」見学レポート
信州の山深い奥地にある「秘境」と称される村には、一度途絶えたのちに復活を遂げた、不死鳥のようなお祭りがひっそりと伝わっているらしい。
そんな噂を耳にして、2024年8月14日に長野県天龍村で行われた「向方(むかがた)のかけ踊り」を見学してきました!
そこで目にしたのは、強い想いを胸に、数百年続く伝統を未来へつなぐ"よそ者"たちの姿でした。
天龍村とは
天龍村は、長野県の最南端にある山あいの村。
人口1,100名、高齢化率はなんと全国ワーストNo.2(2018年時点)!
東京からは車で5時間ほど。どこから行くにも遠い、長野県民にすら「秘境」と呼ばれる地です。
復活した「向方のかけ踊り」
向方のかけ踊りは、お盆の時期に行われるお祭りで、国の無形民俗文化財に指定されています。
ですが、担い手不足により2006年を最後に途絶えていました。
復活のきっかけとなったのは、長野県主催の関係人口創出事業「信州つなぐラボ」。
首都圏に住む人たちが天龍村と関わり、冬のお祭りに取り組むなかで、「夏のお祭り、復活させちゃう?」という話になり、紆余曲折を経て15年間途絶えていたかけ踊りが復活したのです!
◎かけ踊りの復活について、くわしくはこちら↓
よそ者が、伝統行事の復活に関わる・・・
なんてすごいことなんでしょう。
田舎は排他的なところも多いですが、天龍村のおじいちゃんたちは、地域外の人を快く受け入れてくださる。むしろ村の外の人と話すのが楽しいと。
ウェルカムな雰囲気がステキです。
かけ踊りの流れ
まずは腹ごしらえ
8月14日、かけ踊り当日。
わたしは友人と天龍村出身の長野県庁の職員さんと一緒に、かけ踊りを見学させていただきました。
18時頃、かけ踊りの主催者である地域おこし協力隊の方と合流。
「せっかくなので」と、かけ踊りに参加される方と一緒に、村の方のご自宅でごはんをいただくことに。
これがおいしいのなんの。村名物のていざなす、信州サーモン、魚の塩焼き・・・などなど、こんな豪華すぎるお食事をただでご馳走になっていいんですか!?
おうちの方は「遠慮せず食え~」って言ってくださる。やさしい。胃がもう1個ほしかった。
お寺で念仏
19時15分頃、踊り手さんと村の人たちが集まり、かけ踊りを行うお寺で念仏をあげます。
こういうの、ふつうは堅苦しい雰囲気になるじゃないですか。
和尚さんがお経を唱えていると、ひとりが「これいつまでやるの?」と一言。思わず笑いがこぼれる一同。
結局、村の方が「もういいよ~」と和尚さんに伝え、念仏は終了。
ゆるすぎる空気感・・・。
伝統のお祭りといっても、何もかもきっちり決まっているわけではなく、こんな感じで基本ゆるいそう。都会にはないこのゆるさ、好き。
ちょっと飲みます
念仏のあとは、いざかけ踊り・・・ではなく、みんなでテーブルを囲んでちょっと飲む。
村のおじいちゃんたちは飲むのがお好きなようす。念仏の前にも飲んでたの、知ってるよ。
高齢化率全国ワースト2位ってほんと?みなさん、元気をわけてほしいくらいエネルギッシュ!
かけ踊り開始
20時20分頃、いよいよかけ踊りが始まる。
本来はお寺の前でやるそうですが、当日はあいにくの雨。近くの学校の体育館で行うことに。
かけ踊りに参加されるのは、村の方と地域外から集まった人たち。若者から年配の方まで、幅広い年齢層です。
人数は、笛を吹く方を含めて15,6人ほど。
踊り手にはそれぞれ役が決まっていて
写真の右から大燈篭、一番柳、一番太鼓、二番太鼓、一番やっこ、かね・・・の順。
「やっこ」は紅白の飾りのついた傘を持つ人、「柳」は扇子と長いカラフルな飾りを持つ人のこと。
まずは一列に並び、山門(に見立てた椅子)の間をくぐる。
時計回りに移動して輪になったあと、「そぉりゃー!」という掛け声とともに太鼓などを鳴らしながら反時計回りに進んでいきます。
3週ほどしたあと、「せーー!」という掛け声を合図に、「庭ほめ踊り」にうつります。
庭ほめ踊りは、歌のワンフレーズを2回繰り返したあと「そぉりゃー!」という掛け声に合わせて真ん中に集まり、笛や太鼓を鳴らす・・・ということを繰り返します。
歌のときは、見学している村の方も一緒に歌ってらっしゃいました。
きっと昔から親しんだ歌なんですね。
踊り手と見ている人たちが一緒にかけ踊りを作り上げているような一体感があります。
このあとも「かばらい踊り」「ひけ踊り」が続きます。こちらも庭ほめ踊りと同じで、それぞれ歌があります。
ひけ踊りが終わったところで、雨が上がりました!
なので、最後は外に出て踊ることに。
お寺に集まり、山門(写真右)から道路に出ます。
最後に踊るこの道路は、この向方地区の住民の方にとってとても大切な道なのだそう。
この道を行くと浄土につながる…といった言い伝えがあるとか。
かけ踊り終了
22時前、1時間半にも及んだかけ踊りが終了。
おつかれさまでした!!
このあとは開始前と同じように、みんなでお寺で飲むそう。
踊り手さんたちは2時頃まで焼肉してたらしい。みなさんほんと元気だ・・・。
見学を終えて-想いがつなぐもの
見学していて不思議だったのは、同じ動き、同じ掛け声の繰り返しが多いのに、全く飽きずに見ていられること。
それどころか、どんどん惹きつけられました。
そのいちばんの理由は、踊り手さんたちの想いが伝わってくるからかなと思いました。
声がだんだん枯れて出なくなってきたり、大きな動きに合わせて飾りが取れてきたり。
1時間半もの間、太鼓や傘を一度も下ろさずに持ち続けるのも大変です(わたしは元和太鼓部なので、辛さが想像できる…。軽めの太鼓でも、10分も持てば腕や肩にかなり負担がかかる。まして1時間半なんて、相当な気合いと根性…)。
にもかかわらず、掛け声や動きは最初の頃と全く変わらない。むしろ気迫が増して、大きくなっているようにも思える。
笛もずっと吹き続けるのは疲れるのに、変わらず綺麗な音を響かせている。
その様子から目が離せませんでした。
かけ踊りに対する皆さんの強い想いが伝わってきます。
ただ、かけ踊りに参加された方に伺ったところ、「伝統をつないでいかなければ」という意識だけではなく、単に「楽しいからやる」という気持ちもあるそう。
この村や村の方々が好きだから、一緒にお祭りを作り上げることが楽しいから、と。
あくまで楽しみながら伝統をつないでいく、という想いが素敵だなと思いました。
そういった想いに共感して、地域外からたくさんの人が集まるのかもしれません。
今回、地域外から来た人は、見学者も含めて15人ほど。
今年は復活して3回目のかけ踊りですが、こんなに人が集まったのは初めてと村の方がびっくりされていました。
信州のはずれにある、山々に取り囲まれた村。
その村に伝わる、"よそ者"の力によって復活を遂げたお祭り。
なんか、、おもしろそう!!!
そんなわくわくする想いによって、たくさんの人がこの秘境の地に呼び寄せられたのだと思います。
村の人からよその人へ、そしてまた村の人へ。
過去から今へ、そして未来へ。
想いはめぐり、これからもつながれていくのではないでしょうか。
まとめ
今回は、長野県天龍村の「向方のかけ踊り」についてレポートさせていただきました。
天龍村には夏だけでなく、冬のお祭り(霜月神楽)もあります。国の重要無形文化財に指定されている、こちらも歴史あるお祭りです。
天龍村気になる!行ってみたい!と思われた方は、ぜひ一度足を運んでみてくださいね。
※村はほぼ山で、長野県民にも「あそこはガチ秘境」と言われる場所です。初めて行くと確実に迷ってしまうので、ご興味ある方は天龍村役場に問い合わせるか、この記事の一番下にある「クリエイターへのお問い合わせ」から私にご連絡ください!
🌻あとがき -夏の思い出
そもそも、わたしがどうやって天龍村と関わりを持ったのか?と言いますと、
2023年に長野県の関係人口創出事業「信州ふるさとアンバサダープログラム」にて、天龍村と関わっている方にインタビューさせていただいたことがきっかけです。
その際に書いたのがこの記事↓
実ははじめて書いたnote!
インタビューのなかで「噛めば噛むほど味が出る、スルメみたいな村」とお聞きし、それどんな村・・・??と思いつつ惹きつけられ、気づけば村に降り立っておりました。
360度見渡す限りに広がる自然以外、なんにもないド田舎、というか山。
だからいいんだよ〜!って思う人には、きっと刺さる。
ドクターヘリが止まるヘリポートのわきで、蝉の声と川のせせらぎを聞きながら、スーパーで買った溶けかけのアイス食べたのがいちばん楽しかった!
どんな状況?って感じですよね。その場にいた女子3人、みんなそう思ってた笑
でも、せかせかした都会に生きてると、こういうゆったりした時間こそがぜいたくだと感じるのです。
また遊びにいきまーす!