メランコル「となりの変態紳士」レビュー
画風から ただの少女マンガ っぽいものを想像すると味噌汁吹きそうになります。
どうも男性の欲望って自分が気持ちよくなるという所は案外重要ではなくて
(ほら男性は性衝動だけは強烈なのに、実際の○精の快感ってかなりたいしたことない、とか自分でするのと大差ない、とか、よく言われるじゃないですか)
「女性という他者を己の力でとことんい○らんに乱れさせ悦ばせ感じさせたい」みたいな強烈な欲望があるように思う。
で、この変態さんはそれをいやらしい欲のままに、追い求め、追い求め、追い求め続けているうちに、うっかり間違えて「女のニーズをとことん見極めて本当の意味での悦びをもたらそうとした結果、リアルではエロから離れてただひたすらに対象に奉仕し幸せにする事にしました、だって、相手、小○なんで。○児は私のような小児性○者から○欲をぶつけられても120%迷惑なだけだろうしそもそも小○にはたいした○欲ないでしょうし」みたいな
「ファッ?!?!」
な訳の分からない究極に行き着く果ての変態○欲の終着駅まで行き着いちゃって性とは関係ない無償の愛と奉仕をするだけみたいになってしまってその
瞬間、
変態さんの変態性○が神の愛に昇華してしまった。
そして今まで、一方的に虐げられ、ただ世を恨み拗ねるしかなかった無力な少女は、そうやって薄汚い変態さんが自分を崇めてその結果神に変化した醜くも尊い瞬間をまざまざと見た時、気づくのである。
己はただ虐げられるだけのただのゴミムシではないらしいという事を。
もちろん、少女は、ただ変態さんにトンチンカンな性の対象にされた挙句、その結果、数回意味不明に崇拝されただけである。
しかも変態紳士はおおよそ無力でもある。
殴られる少女をたった一度だけ止めた事はあっても、その結果、変態な前科がついてしまい、さらには絶望的に貧しく、無駄に端正な顔でありながら絶望的に変な形のハゲという絶望的な容姿でもあり(せめてツルツルに剃…ろうと思いつきもしない所が実に変態である)、
つまりたとえば虐待される少女を本格的にクズ母から引き離して引き取って育ててやる力もなければ、成長した少女を娶って幸せにする力なども一切ない。そもそも小児○愛者だから成長した少女にもキョーミがなさそう。少女の方もこんな不審者にそこまで縋りたいとも人生預けたいともきっと思ってないのだ。
だが。
だが。
だが少女は目覚めたのである。
この変態○欲との出会いをきっかけに、
自分で自分を慈しみ崇拝するということ
を掴みはじめたのである。
だからこれは少女が知らない変態にただ庇護されたよメデタシメデタシみたいなチャチな物語ではなく、自分は無力なだけのゴミムシだと思い込んでる少女が、実際に最下層で無力かつ変態でありながらそのくせ魂だけは無駄に自由な変態紳士からの、無駄に昇華された変態○欲をふんだんに浴びたことをきっかけに、
少女が
“どんなに虐げられようとも覚悟さえあれば人は魂だけなら自由になれるのだ”と悟り、
“どんなに虐げられようとも覚悟さえあれば人は魂だけなら高貴になれるのだ”と悟り、
“どう考えても無力なゴミムシの筈だと思っていた自分という存在でもそんな自分を価値ある存在として崇め奉るマニアックな人もいるらしい”、と悟り、
その瞬間、
「己で己を尊敬し己の力で立ち上がる事」を突然掴みはじめた、という物語なのである。
母親というのは幼少期の子にとっては究極に絶対者に近い存在である。
その絶対者に、生まれた時から存在そのものを徹底的に否定され続ける事で少女は長年の間、生きる力を失っていた。
しかもその絶対者は「私の暴力は悪意でも無関心からの暴力でもなく、お前を愛しているから殴ってゴミムシ同然の哀れなお前を少しでもマトモに矯正しようとする愛の鉄槌であり善意のほどこしなのである」というウソを言い張りながら、実際は弱者であり逃げる場所がない「子」という都合の良い存在にわざと八つ当たりしわざと辱めわざと軽蔑する事で自分が偉くなった気になるというぞっとするタイプのストレス発散をしているドクズなのだが、これはいじめではなく愛であり善意のほどこしであるという嘘は、長い長い間少女の力ではどうしても見破り解き明かせない嘘だったのだ。
なにしろ少女は完全無力な新生児の頃からひたすらにそのたったひとりのクズ母に全てを預けひたすら愛を乞うしか生きる道が無かったのだから。
だから、クズ母が稀に少女を「ふだん叩きつけて壊して遊ぶ事にしているおもちゃをふときまぐれに可愛がるように」気分に任せてたまに可愛がる瞬間、少女はそれに全身全霊で縋りつくしかなかったのだ。
実際にもっともっと幼児の頃、そうやって、全身全霊でそのクズ母に縋りついて、命懸けで母を愛し、命懸けで母を信じ、命懸けで母にひれ伏し、命懸けで母に媚を売ったからこそ、いま少女はかろうじて虐待死せずになんとか生き残っているのである。
その少女自身が覚えていないほどに遠い遠い幼児期の
究極の根源的恐怖
が少女を鎖のように縛り付けていたのだ。
ところが少女は、突然、実は自分を縛っていた鎖はそもそもがペテンであり今となっては既に脆く近いうちに簡単に壊せる事に突然気づきはじめたのである。
大いなるイミフ親切と化した通りすがりの変 態 性 欲を浴びることをまさかのきっかけとして。
美しく言い直すと
唐突に、ほとんど産まれてはじめて、愛と敬意を他者から受けたことをきっかけに。
だからこれは、はじめの○歩で、いじめられっ子の一歩君が、「ボクシングジムに入りたい、プロボクサーになりたい」と鷹村に申し込んで「葉っぱを(両手で)10枚掴めたらな」と完全拒否されたのに朴訥過ぎて鷹村に拒否されてる事に気づかずに、一歩君、徹夜して木からぱらぱら落ちる葉っぱを片手で10枚掴めちゃった鷹村にもそんな事できないのにおいおいおいどーゆー事だと鷹村を震撼させたあのシーンと同じアレなのである。
だから
このへんなハゲの変態紳士とは
聖書に喩えれば、「神の愛とは何であるのかという真理を地上の子に「伝えし者」それはつまり「天使」。
だから彼の変態せい欲は天使の僥倖。
はじめの一歩に喩えれば、変態紳士とは、一歩に「お前はボクサーになれる。お前は強くなれる。さぁこの道を進め」とはじめて一歩君に伝えし者、それはつまり「鷹村」…じゃないな…鷹村はそんな事さらさら言って無いしな…「会長」でもないし…
あーそうだそうだ、変態紳士とは、一歩が掴んだ「葉っぱ」なのである。
そして、覚醒した今日も、やはり、少女は虐待され、誰にも助けてもらえない。
変態紳士を含め、少女の周りにはマトモな庇護者などひとりもいない。
神の愛とは、へんたい性欲とは、具体的には何の助けにもならないただのしるし。
土の上に棒切れで書かれた短い神の箴言。
風が吹けば一瞬で消える、半ばかすれた読み取りにくい文字。
ひとかけらも具体的な庇護にはなり得ない完璧な空虚。
神の愛にすがってもただ宙を空振りするのみ。
だってそれは神の愛だから。
単に、「おまえは何者なのか」という事を、もっといえば「おまえは実は弱いだけの存在ではない」という「気づき」の「きっかけ」となるだけ。
それはただの10枚の葉っぱ。
ただの一瞬の啓示。
それだけ。
だが、とにかく、今日、少女は、自分の力で立ち上がることを掴みはじめたのである。
たとえこの日は、まだまだ打ち負かされようとも。
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