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Aldebaran・Daughter

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ファンタジー小説『Aldebaran・daughter(アルデバラン・ドーター』
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ファンタジー小説『Aldebaran・Daughter』【執心篇9】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)中盤

ファンタジー小説『Aldebaran・Daughter』【執心篇9】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)中盤

 バルーガを先頭に据えて一列に並び、幅が二人分くらいの細い通路のなかを進む。最後尾に居るエリカは前に居るオリキスにぶつからないよう、間隔に注意して歩く速度を調節。
 だが。それ以上に、気になるのは。

  ドン!……

     ……ドン!………、

   ドン!……

 ……ドン!………、

 出入り口に辿り着くまでの歩数は、目で見た感覚では二十歩。近付けば近付くほど、巨大な重石を落下させるよう

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Aldebaran・Daughter【執心篇8】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)前半

Aldebaran・Daughter【執心篇8】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)前半

***

 作戦会議を開いた日から、五日が経過した。水の蟹に勝てば、潮の胃袋へ入るのは今日で最後。来る用事ができても素材集めくらいだ。

 三人は火の妖精を倒した際に見つけた蟹の紋の上に立ち、瞬時に別の小部屋へ移動する。広さと天井の高さに変化はないが、艶のある壁を一目見て、先ほどより硬質だとわかった。

「ねぇ、」

 エリカは、部屋の隅に置いてある木箱を発見。右手で指差しながら口を開く。

「あ

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Aldebaran・Daughter【執心篇7】窮屈な言葉がたなびく

Aldebaran・Daughter【執心篇7】窮屈な言葉がたなびく

 火の妖精と戦った日の翌朝、エリカは上半身が筋肉痛になっていた。弓を使った攻撃に力を入れすぎたことが原因だった。

 疲れ果てているのではないか様子を見に来た二人の騎士は彼女から話を聞き、拳を作るのも難しいとわかって、水の蟹と戦う日を延期。まともに動けるようになるまで最低五日はかかると予想した。
 しかし、安静に過ごしながらオリキスの作った薬膳スープを飲み、ヒノエ新聞に迷惑をかけないようにとバルー

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Aldebaran・Daughter【執心篇6】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 後半)

Aldebaran・Daughter【執心篇6】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 後半)

 床に落ちてる壊れていない矢を拾えば攻撃を再開できるが、実行するには火の妖精と距離を詰めなければならない。

「オレが行く」

「ごめん、お願い」

「上出来だ。気にするな」

 判断に迷って困惑しているエリカにバルーガは声をかけ、一人で向かう。

「!?」

 気絶が解けた火の妖精は、閉じていた瞼をぱちっと開けた。現れたのは金色の目に、凸凹した縦線の黒い瞳。
 バルーガは即座に危険を察知し、近付

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Aldebaran・Daughter【執心篇5】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 前半)

Aldebaran・Daughter【執心篇5】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 前半)

 三人は合流して潮の胃袋へ入り、梯子を下りて地面に足を着ける。
 バルーガは左斜め後ろに立つエリカのほうへ顔を向けると、革製のガントレットを嵌めた右手の親指で自分の顔を差した。

「今日はオレたちも戦う。広間へ着くまでのあいだ、おまえは退がって力を温存しろ」

「何もしなくていいってこと?」

「そうだな。一度に四体以上を倒さなきゃいけなくなったら加勢してくれ」

 エリカは目を丸くし、バルーガの

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Aldebaran・Daughter【執心篇4】砕かれて咲く

Aldebaran・Daughter【執心篇4】砕かれて咲く

     『彼らに救いを求めれば、
      シュノーブも
      助かるのではありませんか?』

 オリキスとその弟サラは、織人たちの支配から解放してくれる英雄が近隣の国に現れたという噂話を城内で耳にし、ヴレイブリオンに提案したことがある。

「正義と優しさは相性が悪い」

 森を抜けて段々畑が見える草原へ出るとオリキスは立ち止まり、陽の光を受けながら、七年前に父親から返された言葉をそのま

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Aldebaran・Daughter【執心篇3】燻る悔恨、手折ることなく

Aldebaran・Daughter【執心篇3】燻る悔恨、手折ることなく

 空は暗く、吹雪で視界が悪い。
 三人はそれでも必死に前へ、前へと足を進めた。

「おい、兄貴!居たぞ!」
 青年の左側を歩いていた弟が前方を見て指差し、喜び、叫んだ。雪が薄く積もった石畳の上に、まだ息のある国王がうつ伏せの状態で、倒れている。
 治癒魔法を使えば、一命を取り留めることができるはず。三人は顔を見合わせて頷き、いままで以上に急ごうと足を進めた。

「君たち、良い所へ来たね」

「!?

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Aldebaran・Daughter【閑話】夜に陽を捜す

Aldebaran・Daughter【閑話】夜に陽を捜す

【注意書き】
ちょっぴり甘め、ちょっぴり性的な視点を含んでます。苦手な方はUターンしてくださいませ。
本編の裏話ですので、読まなくても支障はありません。

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 某日の夕方、オリキスは村長の家に招かれ、手渡された民族衣装に着替えた。軽装という面では、此処での普段着と同じ。
 違いがあるとすれば二点。
 白い生地に、鳥と植物の華美な刺繍が施されている所。
 明

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Aldebaran・Daughter【14】遮音は千切れる前に(前半)&【15】キャラ紹介①

Aldebaran・Daughter【14】遮音は千切れる前に(前半)&【15】キャラ紹介①

 雨が降りそうで降らないどんよりした曇り空の下、バルーガは来る日の試練に備え、朝から自宅の裏庭で剣を研いでいた。

(翼竜ってなんだ?)

 カコドリ遺跡では無し首族が。昨晩は、ミヤことシルリアが口にした。
 無関係と思っていた点と点を結ぶ謎の共通点、翼竜。
 バルーガは、かたい表情で仮説を立てる。

一、
 ヒノエ新聞の事務局長を務めるアーディンは何者かで、エリカを外に出したくない理由と関係があ

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Aldebaran・Daughter【13】焦燥と愛に終止符を

Aldebaran・Daughter【13】焦燥と愛に終止符を

 ミヤは、アーディンとは恋人関係になれなかった。
 彼は「上司と助手が関係を持つのはご法度だよ」と言ってはぐらかし、島民や移住者に告白されても首を横に振り続けている。一生独身でいたい男なのかしらと、ミヤは思った。

 翼竜の友人であり共犯者、暗躍する世界の味方。バーカーウェンでアーディンの名を騙っている男の本名は、サイモン・ピエルティア。魔法軍事国家アイネスの研究者で、織人事件が起きるよりずっと前

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Aldebaran・Daughter【12】繭を破る蝶の反抗

Aldebaran・Daughter【12】繭を破る蝶の反抗

「時間、空いてるかしら?」

 二日後の朝、集落の店に薬を卸したオリキスはその場でミヤに話しかけられ、ヒノエ新聞の事務局を訪れた。何の用事か、彼女は口にしない。
 玄関のドアを開くと合図のように、奥から酷い剣幕のアーディンが出て来る。大股歩きでずかずかと。

「オリキスくん。正直言って、君と会って話すのはツラいよ。けど、これだけは言っておきたい。島の人たちに、君と!エリカが!関係を持ってるなんて噂

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Aldebaran・Daughter【11】泡沫の調べは甘く捩れる

Aldebaran・Daughter【11】泡沫の調べは甘く捩れる

 翌朝、オリキスは移住する予定の家を訪れた。バルーガも連れて。
 二人はしゃがみ込み、敷地内に生えた雑草を素手で抜きながら作戦会議を行う。

「オレとあんたの二人で片付けちまうか?あのまま無し首族を放置しておくのは気色が悪い」

 バルーガは手早さ重視で、力任せに草を引っこ抜くか、地面より上の位置で無遠慮に千切るかのどちらか。適当だ。
 オリキスは無駄に体力を使いたくないのもあって、急がず、のんび

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Aldebaran・Daughter【10】暗闇の箱を開くとき

Aldebaran・Daughter【10】暗闇の箱を開くとき

 仔牛を無事に捕まえることができた三人は一頭ずつ引き連れて、森林から外れた平野にある牧場へ送り届けた。

「オットリーさぁああん!」

 エリカは右手を上げ、手を振りながら大声で牧場主の名前を呼ぶ。
 すると、細い丸太で作った柵の向こう側から筋肉隆々の男が現れ、地面をどっしどっし踏んで此方へ寄って来た。

「おぉ、モー子たち見つかったか!いやぁ、たぁすかった、助かった!」

 柵越しだが目の前に立

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Aldebaran・Daughter【9】寄り道

Aldebaran・Daughter【9】寄り道

 二人は島の南西にある、カコドリ遺跡を目指すことにした。
 地図を広げると、現在地からそれなりの距離があるように見えるが、島の面積は小さい。夕方に着くことはないのだと、バルーガは説明した。

(ふむ……)

 島民だったバルーガに道案内を任せ、二歩分離れて後ろを歩くオリキス。会話に付き合いながら、借家の近辺には何があるのか知っておきたくて視線を配る。

 魚が元気に泳ぐ池。
 大木の根本に生えた茸

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