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Aldebaran・Daughter【9】寄り道

 二人は島の南西にある、カコドリ遺跡を目指すことにした。
 地図を広げると、現在地からそれなりの距離があるように見えるが、島の面積は小さい。夕方に着くことはないのだと、バルーガは説明した。





(ふむ……)

 島民だったバルーガに道案内を任せ、二歩分離れて後ろを歩くオリキス。会話に付き合いながら、借家の近辺には何があるのか知っておきたくて視線を配る。

 魚が元気に泳ぐ池。
 大木の根本に生えた茸。
 実が生っている草。
 蜜を採取できる花。

(池以外は、人の手で用意されたものだろう。でなければ、都合良く揃いすぎている)

 食糧の調達がラクに行える立地条件に優れた環境は、本土から離れた孤島で暮らす心配を和らげたい、先住民たちの移住者に対するそんな手厚い配慮が伝わってきた。

「あ?」

 三分の一進んだ所で、二人は足を止める。

「魔物か?」

「本土じゃあるまいし、んなわけねーだろ」

 姿は見えない。
 だが、確実に。草むらのなかに潜んでいる。
 強めにガサガサ揺れている部分を遠巻きに見て、どちらが先に進むか、二人は顔を見合わして伺う。

「ひょっとしてオリキス、怖いのか?」

 バルーガは、にやにやする。

「それは妙案だね。怖いことにしておこう。では、確認を頼むよ」

「!」

「怖いのかい?」

「ッ、覚えてろよ……!」

 逆手に取られたバルーガはオリキスを睨んでから前進し、草むらに顔を近付けてみる。


  ガサッ!!


「うぉっ!?」

 とびきり大きな音と共に、それは勢いよく顔を出した。
 バルーガは一瞬ビビったが、白と黒の体を見て安心する。

「ったく。驚かせんじゃねぇよ」

 正体は、赤い首輪を着けた一頭の仔牛。

「はぐれたのか?」

 オリキスの質問に、仔牛は「モー」と鳴いた。
 バルーガは横から覗き込むように首輪を見て、書かれた文字を読む。

「オットリー牧場」

「名前からして呑気そうだ」

「さぁ、どうだかな」

「ほお?」

 すると、後方から息を切らして走ってくる声が聞こえた。

「いたいたっ、牛さんっ」

「ちんちくりん?」

 エリカは走る速度を徐々に落として立ち止まると両膝に手を着き、肩で息をする。

「はぁ、はぁ……。オリキスさんと、バルーン?服装変わると、わからないね」

「エリカ殿、この牛に用が?」

「はい。放牧中に居なくなった仔牛を探してて。牧場へ戻すお手伝いをしているんです」

「じゃあ任せた」と、バルーガは押し付けるようにエリカへ引き渡す。

「一頭で終わりかい?」

バルーガは(余計なことに首突っ込むんじゃねぇぞ)と、訝しげにオリキスの顔を見る。

「いいえ、残り二頭です」

「手伝おう」

「観光するんだろうがっ」

 ほら、言わんこっちゃないと、バルーガはオリキスの腕を肘で小突いた。

「彼女には昨日、世話になった。御礼だ」

「律儀な奴め」

「二人とも有難う」

 エリカが持っていた縄を仔牛の首輪に通して結び、別の場所へ移動。すれ違った島民に見かけなかったか話を聞き、三人は、はぐれないようにほかの仔牛を探す。まだ暑さに慣れていないバルーガは、木陰で休憩しながら手伝う。

 オリキスは、背の高い樹の裏側も見て回るエリカの側へ行き、バルーガに聴こえない声量で話しかけた。

「アーディン殿に、何か言われたかい?」

「『あの男に会うな、喋るな』と、注意されました」

「けれど、君はこうして僕と会話をしている」

 エリカは、にこにこ笑う。

「オリキスさんが悪い人に見えないからです。だって、私のお父さんとお母さんが遺した物を解こうとしてるんでしょう?何が出てくるのか、私も知りたいです」

「協力してくれるのかい?」

「喜んで」

「おまえら、何こそこそ喋ってんだよ」

「あ!いた!」


(続く)

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