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Cの時代

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私たちが日々感じている「何か」を書き起こした連作小説です。
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#小説

Cの時代 〜時の流れに身を任せ〜

Cの時代 〜時の流れに身を任せ〜

――2か月後。
「お疲れ~」
「わあ、久しぶり!」
原宿駅の表参道口改札を出てすぐの柱に立っていた二人の友達が私を見つけるなり駆け寄ってきた。年末の原宿は普段以上に人で溢れていた。彼らはやり残したことを今年中に片付けたいというようにどこか急いていた。その流動する空気の中にいると、自身の時間感覚もまた早まっていくような気がした。
「人が多いね~」
「それねー、外国人とか多くない?」
「なんか、海外っ

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Cの時代  〜一緒に働く〜

Cの時代 〜一緒に働く〜

10月25日(木)15時、神保町。

サトウとの打ち合わせに「大学生の女の子」は現れなかった。

「ごめんなさい、彼女、都合が悪くなっちゃったみたいで、明日の夕方なら空いてるみたいなんですけど、もし、社長の都合がよければ明日の夕方にセッティングし直しますけど?」
「・・・そうだね、そうしてもらおうかな」
正直、スケジュールを調整し直すのは面倒だか、若者の都合に合わせるしかない。

翌日。

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Cの時代 〜出逢い〜

Cの時代 〜出逢い〜

10月最後の金曜日。
アミカさんに呼ばれ、渋谷に来ていた。夕暮れのハチ公前広場は相も変わらず人でごった返している。習い事をしている場所が宇田川町なので、渋谷を使うことは少なくなかったが、こうして人と待ち合わせをするのは久しぶりだ。JR山手線の改札前でぼんやりと突っ立っていると、道行く人々が肩で風を切って移動しているのが分かる。その速さは歩くというより強歩だ。
普段の自分もあんな感じなんだろうな。せ

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Cの時代 〜大学生の女の子〜

Cの時代 〜大学生の女の子〜

2018年10月24日(水)

会社を立ち上げてから約5カ月が過ぎた。
社長の仕事というか目に見えない事務や経理・財務関係の仕事は思ってたより忙しい上にスムーズに進まないことが多かった。書類を作成したり、書き間違い書類を再度提出したり書類審査を待ったりと登記してからの3カ月は役所への届け出や銀行口座の開設など仕事をする前段階の準備に追われることが多かった。

3カ月目に初めて会社の口座に入金が

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Cの時代⑧ 〜同人誌即売会と廃情報回収の依頼〜

Cの時代⑧ 〜同人誌即売会と廃情報回収の依頼〜

「部数確認して」
「本、この辺に置けばいいのかな?」
「誰かー、ポスカ持ってる人!」

慌ただしい声が各所で飛び交っている。
開店前のこの熱気が文化祭の前日のような空気を醸し出していて、
一番好きかもしれない。

本日は同人誌即売会。
二次創作もオリジナルもプロもアマも関係なく、渾身の作品を世に出す日だ。
予定のない私は売り子として販売の手伝いに来ていた。

「椅子、もらってきました。

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Cの時代 〜レールから外れる〜

Cの時代 〜レールから外れる〜

2018年10月17日(水)

労働市場について調べ始めて1週間。その間、サトウとは何度か電話やメールでやりとりをしながら調べる内容やまとめについて話し合っていた。

「・・・そうだね、厚生労働省と内閣府、総務省のデータは使えそうだね。このデータを掛け合わせて言える事ってなんだろうね?・・・まっ、またデータが揃った段階でまとめる方向性については考えよ。はい、じゃあ、引き続きよろしく」

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Cの時代 〜尾行エレベーター〜

Cの時代 〜尾行エレベーター〜

 面接は30分ほどで終わった。
 面接時間が短いと不採用、というのはよく聞く。が、20分ほどしかしてないのに通っている場合もあった。逆もしかり。実際に就職活動をしてみると、企業によってまちまちだった。ネットの情報は安易に鵜呑みにするものじゃない。そう思うからこそ、この時間が短いのか長いのか私には判断できなかった。

エレベーターホールに辿り着く。手持ち無沙汰そうに立っていた女性スタッフが私を見る

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Cの時代 〜働くって何?〜

Cの時代 〜働くって何?〜

広告代理店での打ち合わせを終えビルの外へ出ると同時に、ポケットからiPhone8を取り出しアシスタントのサトウに電話した。

呼び出し音、3回。

「・・・はい、サトウです」
「もしもし、今、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」

サトウは、前の会社に居た頃から僕の仕事の大半を手伝ってくれていて、会社を立ち上げるにあたり、「一緒にやりたい」と言ってくれた社員第一号の28歳の女性だ。

社員になっ

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Cの時代 ~終身雇用と囚人労働で韻踏める~

Cの時代 ~終身雇用と囚人労働で韻踏める~

「それでは、弊社を志望した理由を教えてください」
「はい。私は広告の仕事を通じてお客様に商品の魅力を知ってもらい、より豊かで便利な社会の実現に貢献したいと考えております。その上で御社を志望した理由は――」

エントリーシートとほぼ同内容の文言がすらすらと口から流れていく。
でまかせ、でもないが、自分が本当のところで考えていることとは随分かけ離れている。
顔の整った若い人事は私の言葉に微笑みをた

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Cの時代 〜リクルートスーツ〜

Cの時代 〜リクルートスーツ〜

2018年10月10日(水)

 10月も10日を過ぎているのに20℃を超す蒸し暑さ。秋の気配すら感じないダラダラと続く残暑に少し飽き飽きしていた。夜の肌寒さを過ごすには半袖だと心許無いので、外出する時は、半袖の上にロングの薄手ジャケットを羽織るのがここ2~3年の長い残暑を過ごすスタイルとなりつつあった。
 会社を立ち上げてから5カ月、少しずつではあるが、今までの付き合いから仕事をいただけるように

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Cの時代 ~渋谷という街~

Cの時代 ~渋谷という街~

渋谷は汚い。
というフレーズはよく耳にするもので、周りにも渋谷という街が苦手な人は一定数存在する。中学2年生の時、初めて109に買い物をした私も実際そう思っていた。

渋谷は汚い。
人は多いし、車は多いし、道は狭いし、なんだか異臭がする。
新宿より渋谷に足を運ぶことが多くなっていた今でもあまり感想は変わらない。

けれど。
それは新宿と何が変わらないのだろう。

人が多いのも、車が多いのも、

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Cの時代 〜変化する渋谷、変質する自分〜

Cの時代 〜変化する渋谷、変質する自分〜

はじめに

人々が奴隷化し中間コミュニティが壊滅的に消滅しカビの生えたような劣化したシステムにすがることで安心し小さな虚構的コミュニティを行き来し身体とココロが分裂しかけているフラット化した社会。常識的感情はネットに浮上しない。デジタル化した社会を傍観することで非デジタル化し身体とココロの在り方を確かめながら恐怖的テクノロジーと思考停止することでしか解決方法を見いだせない諸問題を歴史の流れのよう

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