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Cの時代 〜一緒に働く〜

10月25日(木)15時、神保町。

サトウとの打ち合わせに「大学生の女の子」は現れなかった。

「ごめんなさい、彼女、都合が悪くなっちゃったみたいで、明日の夕方なら空いてるみたいなんですけど、もし、社長の都合がよければ明日の夕方にセッティングし直しますけど?」
「・・・そうだね、そうしてもらおうかな」
正直、スケジュールを調整し直すのは面倒だか、若者の都合に合わせるしかない。

翌日。
大学生の女の子に会うため渋谷に向かっていると、サトウから「私用があって行けない」というLINEが入ってきた。10年以上前なら怒ってたかもしれないが、今は全てを受け入れる。「了解です」とLINEで返信。

いきなり、大学生の女の子と二人で会うことになってしまったが、まあいい。
全ては、流れのままに。

サトウと待ち合わせをして行く予定だったから、店を調べてない。
送ってもらったURLで店を調べると渋谷駅南口から代官山方面へと向かう小料理居酒屋だった。

渋谷に着いてから、7~8分ほどで店に到着。待ち合わせ時間に5分ほど過ぎている。
半個室になっている席に通されると、そこには小柄な女の子が座っていた。

「遅れてごめんねぇ」
「あっ、いえ、大丈夫です。初めまして、いつもお世話になっている……」

「初めまして、河原です」
「・・・」

ん?挨拶もそこそこに驚いた表情で何も言わなくなってしまった。
大丈夫か?この子?
「・・・大丈夫?何か変なこと言ったかな?」
「・・・あっ、いえ、大丈夫です」

第一印象は、小柄で元気そうな女の子。そして、少しだけ挙動不審。

「まっ、とりあえず何か頼もうか?お酒飲める?」
「はい、飲めます。なんでも大丈夫です」
「そしたら、生ビールにしようか?あとは、適当に注文するね」
「はい、ありがとうございます」

ビールを飲みながら話をしてると、名前はシノダ。就活中でいろいろと進路について悩んでいることが知れた。やりたいことと就職の間で揺れ動いている。「自分の人生、悩まないわけないよな」と思いながら学生から見えている社会や社会人に対する疑問、夢についてなんとなく聞いていた。

本音はどこだ?この子は、何に悩んで引っかかっているんだろうか?
話を聞いてるうちにふつふつとそんな疑問が沸いてきた。

「ねぇ、シノダさん。あなたにとって一番大事なコトって何?」

少し考えてから、
「・・・嘘をつかないこと」というと、彼女の目から大粒の涙がこぼれ出した。

ひとしきり泣き終えると、
鼻をすすりながら、僕の事を街中で見たことがあり気になって後を付けて行ったことがあること。だから、入ってきた時に驚いて挙動不審になってしまったことを話し始めた。

「普通の社会人じゃない雰囲気にどこか引っかかっていて、この人、何もやっている人なんだろう?とか仕事してるのかな?とかどうやって生きてるのかな?とかすごい気になっちゃって。就活中の私には謎だらけで、だから今日逢えて、アミカさんの会社の社長だったことを知ってに、本当に、びっくりしました」

社会人らしくない雰囲気か。
この子に何か言えることがあるんだろうか?

レールから外れる人生、道なき道を進む大変さは身に染みてわかってる。下手なことは言ってはいけない。自分と同じような人生を歩ませてはいけない。みんな同じ、社会のレールを進むことの方が楽。レールを外れる人生は、それなにの覚悟と努力がいる。余計な事は言ってはいけない。
と頭で反芻しながら、次の瞬間、口に出た言葉は、

「一緒に働かないか?」だった。

あれ?何を言ってるんだろう俺。シノダさんも驚いた顔してる。

「嘘をつきたくない」・・・俺も一緒だ。
ずっと、大事にしていること。
自分の気持ちに嘘をつかない生き方。

少し冷静になって、自分が何でそんなことを言ったのかがわかってきた。
頭より先に心が動いて出た言葉「一緒に働かないか?」。
そうか、この子と働くことになるのか。
直感、腹を決めた。

「えと、立ち上げたばかりの会社なんだけど、改めて、一緒に働かないか?」

全ては、流れのままに。

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