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小説

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#短編集

『あなたはひとりぼっちじゃない』 アダム・ヘイズリット

『あなたはひとりぼっちじゃない』 アダム・ヘイズリット

素晴らしい作家が現れた、と言うに相応しいデビュー短編集である(2002年出版なので、現在は、未翻訳ではあるが他に数冊の書籍が執筆されている)。

タイトルはやわらか路線の自己啓発本のようで、ぱっと見た表紙は、白くまが描かれたほっこり系。しかしそれらが想起させるイメージを裏切るかのように、この本には強烈な悲しさが満ちている。「慰めや勇気を与えてくれる」とは対極にある本だ。
表紙だってよくよく見ると、

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『そこでゆっくりと死んでいきたい気持ちをそそる場所』 松浦寿輝

『そこでゆっくりと死んでいきたい気持ちをそそる場所』 松浦寿輝

インパクト大な題名とおしゃれ怖い装丁のこの一冊。
12の短編を3作品ごとにまとめた4部構成になっているが、その各部には例えば次のようなタイトルがついている。

・黄昏の疲れた光の中では凶事が起こる…
・冷たい深夜の孤独は茴香の馥りがする…

これらを読んで惹かれるものを感じる方ならば、本書を読んできっと満足できるはずだ。
期待通りの不気味、暗澹を心ゆくまで堪能できること請け合いである。
(同時に、

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『月とコーヒー』 吉田篤弘

『月とコーヒー』 吉田篤弘

子供の頃から本を読むのが大好きだった。図書館に行っては、児童書コーナーの本を片っ端から読んでいた。
だから、子供の本の文体、語り口は馴染み深く、愛おしい。

その語り口に触れたくて、児童書にふと手を伸ばすことがたまにある。
ところが、いつも何か少しがっかりするのである。
いいなあと思う。名作に感動もする。ノスタルジックな心地良さも感じる。
だが、なにか違うのだ。私が得たいと思った、あの「子供の読書

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誰もいないホテルで

誰もいないホテルで

『誰もいないホテルで』 ペーター・シュタム

人の不幸は蜜の味と言うが、ここの不幸はどこまでも苦い。心して読まれることをお勧めする。

「誰もいないホテルで」
論文を仕上げるために「ぼく」は山奥のホテルに行くが、そのホテルには電気も水も通っていない。謎の女性が一人いるだけ。
すぐにでも荷物をまとめて立ち去るべき状況にもかかわらずグズグズとホテルに滞在し続ける「ぼく」。
謎の女性の謎は最後まで解けな

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ヒッピー・ハッピー・ハット

ヒッピー・ハッピー・ハット

『ヒッピー・ハッピー・ハット』 ジャン・マーク

はじめて読んだのは小学生の時か中学生の時か。12、3歳の頃だった。
自分と同年代の少女の大胆な行動が理解できず、しかし強烈な、と同時にひどく魅惑的なイメージが強く残り、大人になってからも忘れられずに、探して古本購入した。

3つの物語がおさめられた短編集。ジュニア向けとなっているが、大人にこそ味がわかる作品だ。

3作とも、12歳〜15歳の、大人に

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