現代美術製作所

1997年から2016年まで、東京の下町、墨田区の向島で活動。2017年11月、京都の…

現代美術製作所

1997年から2016年まで、東京の下町、墨田区の向島で活動。2017年11月、京都の上京区に移転し、NPO ANEWAL Galleryとのコラボにより、ANEWAL Gallery 現代美術製作所の名でアートスペースを運営しています。

最近の記事

第18回 水内貴英 「海の向こうのシルエット」

7年前の春、結婚をきっかけにして、埼玉から房総半島の海辺の町に引っ越してきた。 海のすぐそばの、漁港の裏に中古の家を買った。 ほどなくして子どもが二人産まれた。 毎朝四時に出港する漁船の大音響のエンジン音にも、最近は目を覚まさなくなった。 のどかな田舎での生活は概ね快適だ。 東京湾に面した家の裏からは、海の向こうに東京タワーや臨海部のビル群、東にスカイツリー、西に横浜ランドマークが見える。 ほんの少しの間だが東京近郊に暮らし、池袋の会社に通っていた私には、そのビル群の中

    • 第17回 北條元康 「創造力の鍛え方」

       2019年、北條工務店隣の廃工場を手に入れ、公共のイベントの会場や、イベント備品の制作場として活用した。また私自身も、地方でのイベントや、制作に関わる事が年々多くなり、忙しい日々を過ごして来た。しかし、今回のCOVID-19の影響で、殆どのイベントが中止になり、隣の工場は使用予定が無くなり、私も少し時間的余裕ができた。  都々逸で、『大工殺すに、刃物はいらぬ、雨の三日も降れば良い』とある。一般的に、『大工(職人)は蓄えも少なく、日銭が入らないと生活が儘ならない』と言わ

      • 第16回 Art Lab Ova 「日記から」

        最近ダンボールの家を作っては壊すを繰り返している子。 今日も部屋の中の小屋に大人を招き入れる。 はるか遠く部屋の入り口から双眼鏡片手に要求に応えようとする大人もいる。 _____________________________________ 縮小された密室でかくれんぼ。 あなたからは見えるけど、わたしからは見えない。 在るのに見つからない。 高揚と焦燥。 何度も繰り返す。 _____________________________________ 呼吸をする様に側転

        • 第15回 ティトゥス・スプリー 「コロナの前には、みな同じ人間だよ!」

          ■考えさせるウィルス コロナ感染拡大による波紋の広がり方は独特だ。個人的で身近な場面もありながら、とても大きな枠で遠く感じる場面もある。身近な人から距離を取らないといけないけれど、遠くにいる人とは近くに感じる。 1月中旬、上海生まれで、現在はアメリカに住んでいる私の元妻の父が、中国で亡くなった。娘は沖縄から、息子はドイツからお祖父さんの葬式に参加するため、中国へ行くことなった。ちょうどその時、武漢市で流行っている新型ウィルスが世界のニュースに出始めた。武漢市の地域に限定

        第18回 水内貴英 「海の向こうのシルエット」

          第14回 大岩オスカール 「変化していく世界」

          自分の考えを作品にしていくのが僕の仕事だと思っていますが、それが人の目にふれるまでには色々な人が関わってくるので、ある程度のコミュニケーション能力も必要になってきます。色々な言葉を話せるだけでなく、自分と全然違う文化、年齢、タイプの人たちとどう心を通わせていくかをマスターしなければなりません。僕はもともとあまりおしゃべりではありませんし、メールを書くのが大好きでもないし、携帯電話にくっついているタイプでもありませんが、なんとか必要な時には幅広くコミュニケーションをとってい

          第14回 大岩オスカール 「変化していく世界」

          第13回 大西みつぐ 「NEWCOAST-東京の波打ち際から-」

           江戸川区の臨海部に移ったのは、ちょうどバブルの最中。奇しくも対岸のディズニーランドが開園して数年後。当時、ウォーターフロントブームもあって、東京の新しい観光地として多くの人たちが近くの広い公園にも集まってきた。強風吹きすさぶ人工なぎさで一日中「BBQ」をする家族、テレビのトレンディドラマの主人公になりきって慣れない手つきでワインを開けるカップルなど、シニカルな思いも込め至近距離で写真を撮ってきた。やがて90年代に入り儚い泡ははじけたが、造成された埋立地の風景はその後独り

          第13回 大西みつぐ 「NEWCOAST-東京の波打ち際から-」

          第12回 佐藤史治+原口寛子 「コロナビールを飲みながら」

          小学生から中学生の頃の記憶を遡ると、不和な家庭と居心地の悪い学校のことを思い出す。ちょうど、1995年の震災から新しい世紀を迎えた頃だ。それでも酷く辛い記憶になっていないのは、少しの友人と、覚えたてのインターネットと、絵を描くことや本を読むことが好きだったからだ、と今は思う。新型コロナウイルスが20年早く流行していたら、どうなっていたのだろう。世紀末がもっと濃くなっていたのだろうか。 思い返すと悲しいかな、つまり当時の僕はすでにソーシャル・ディスタンスを実践していた。今

          第12回 佐藤史治+原口寛子 「コロナビールを飲みながら」

          第11回 EAT&ART TARO 「どんな時だって、新しいものを見たい」

           食とアートについて活動している美術家です。もともと飲食の世界から来て、今のような活動をしている変わり種です。僕は飲食店をイメージして参加型の作品を制作することが多く、それは一見普通の飲食店のようだけど、実社会では運営できないお店のような作品を作ることが多いです。  コロナによっていろいろな業種に影響が出ていますが、あたらめて街にある個人経営の飲食店は、社会的に弱い立場にあるなと思いました。アーティストも弱いけど、、、  僕は常々、地域の文化を作るのは個人経営の飲食店だと思

          第11回 EAT&ART TARO 「どんな時だって、新しいものを見たい」

          第10回 谷山恭子 「ポストコロナ-相互扶助の社会は可能か」

          今朝、自転車置き場の地面に薄ピンクの花びらが散らばっていることに気が付いて見上げたら、知らない間に満開を過ぎてもうほとんど散ってしまった桜があった。ああ、この木は桜だったんだっけ、マスクの中で呟いた。外出していない間に満開を見逃してしまった。2017年の暮れから住み始めたベルリンのコロナウィルスによる外出規制は、他国の外出禁止令よりは緩やかだ。家族または同居の2人以内での健康維持のためのジョギング・散歩、個人のスポーツは許されている。でも私はスーパーへの買い出し以外では外

          第10回 谷山恭子 「ポストコロナ-相互扶助の社会は可能か」

          第9回 東野雄樹 「ニューヨークでの一日」

          午後7時。不気味なほど静かなニューヨークの街は毎日この時間に数分だけ活気付く。町中で何万人もの人達が窓から拍手をし、鍋を叩き楽器を鳴らす。教会の鐘も鳴るし数少ない車はクラクションを鳴らす。医療スタッフ、郵便配達人、警察官、スーパーの従業員といった疫病の最中に危険を冒しながらも仕事を続けている、いわゆるエッセンシャルワーカー達に達に喝采を送っているのだ 。 巨大都市でありアートの中心地でもあるニューヨークが完全に機能停止している。そんな時期にここに滞在するのは不思議な体験

          第9回 東野雄樹 「ニューヨークでの一日」

          第8回 鳥光桃代 「Wrong Place, Wrong Time」

          居るとマズい場所に、居るとマズいタイミングで居るとは、このことだ。NYのブルックリンでこれを書いている。今や私の住むNY州だけで、感染者数はアメリカ以外の他の何処の国よりも多い。4月13日の午前11時現在、感染者数195,655人、死亡者数10,056人、911ワールドトレードセンターでの犠牲者数 のほぼ4倍に近い。合衆国全体ではなくてNY州の数値である。 数日前に州知事が、『これは私たちが今までに経験したことのない戦争である』と、言った。 最初は、地球規模での人の移動

          第8回 鳥光桃代 「Wrong Place, Wrong Time」

          第7回 土谷享 「Self-distance」(2)

           19歳の頃、「生活者と芸術家は違うんだよ。」と最も尊敬する彫刻家に言われた事がある。あれから24年経つが、その言葉を理解はするが、今は支持しない。実際にこれまではそうだったのだろう。しかし今は、これからは、どうだろう。「生活者であり芸術家である」という事も可能ではないだろうか。1人の人間なのだからその2つの価値観が同居したって良いだろう。  先週、私の住む地区の自治会の活動の1つ”道作り”があった。手をかけないと自然のチカラに飲み込まれてしまう古い道を守るための保全作業

          第7回 土谷享 「Self-distance」(2)

          第6回 土谷享 「Self-distance」(1)

           暖かな午後1時。  タンザニアコーヒーをミルでひき、娘のマグカップを拝借してドリップする。珈琲は淹れたての一口目が一番美味しいなあと今日も思って、いつもよりひとサイズ小さなマグカップを片手に庭へ出る。  今年の小鳥は活発な気がする。早々に南のどこかの島から我が家に戻ってきたツバメたちが器用に修理した巣の下は既に糞だらけになってるからAmazonのダンボールで糞受けを作らないとならない。既に花は散り新緑が芽吹きはじめた庭の桜の木の下、真っ白な大理石のテーブルの上に梢の影が

          第6回 土谷享 「Self-distance」(1)

          第5回 増山士郎 「世界の終焉的な状況下、アーティストとして考えること」

           自分が住んでいる北アイルランドも3月23日(月)、英国首相・ボリス・ジョンソンのスピーチとともにロックダウンが確定し、事実上の外出禁止令が発令された。 ボリス・ジョンソンはアメリカのトランプ同様、悪く言われることが多い首相だったが、国民のことを真摯に考えていることの伝わるスピーチには、目頭が熱くなり、彼に対する考え方を改めさせられた。 BBC「家から出ないでください」ジョンソン英首相 (日本語字幕有) https://www.bbc.com/japanese/video

          第5回 増山士郎 「世界の終焉的な状況下、アーティストとして考えること」

          第4回 三田村光土里 「憶いとの距離」

          この2ヶ月余り、物理的にも精神的にも、これまでになかった密接さで肉親と過ごしている。得意な料理は魚の煮付けだと言えるようになった。  年明けに、母が末期の胃がんと診断された。90歳を目の前に、いつでも浄土へ還る心持ちではいたのだが、歳に似合わない若々しさで活発だった母は、老いによる緩やかな衰えの末の旅立ちを思い描いていたおかげで、このところ検診を怠っていたのだ。  私はしばらく実家に留まり、緩和ケアで自宅療養する母に寄り添うことにした。(それについては自身のnote

          第4回 三田村光土里 「憶いとの距離」

          第3回 白濱雅也 「来るべき日のために理想を描く」

          絶妙なる神の采配ー 今日の状況は不謹慎を承知でこのような感慨を覚えてしまう。最終戦争や世界恐慌、気象の大変動などは想像していても、こんな形で経済活動や人の交流を止めてしまう事態があるとは全く予想もしていなかった。行きすぎた経済活動を止めて足元をよく見つめよと言われているように感じるのは私だけではないだろう。 今日のような事態は9年前にもあった。震災時も自分たちの生活を見直すきっかけになったのであるが、あのときは切迫していて、いかに支援するか、いかにサバイバルするかに重心が

          第3回 白濱雅也 「来るべき日のために理想を描く」