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第5回 増山士郎 「世界の終焉的な状況下、アーティストとして考えること」

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 自分が住んでいる北アイルランドも3月23日(月)、英国首相・ボリス・ジョンソンのスピーチとともにロックダウンが確定し、事実上の外出禁止令が発令された。
ボリス・ジョンソンはアメリカのトランプ同様、悪く言われることが多い首相だったが、国民のことを真摯に考えていることの伝わるスピーチには、目頭が熱くなり、彼に対する考え方を改めさせられた。
BBC「家から出ないでください」ジョンソン英首相 (日本語字幕有)
https://www.bbc.com/japanese/video-52013808
 ロックダウンとともに、1日1回の食料品等の生活必需品の買い出しとエクササイズ以外の外出が禁止され、従わないものには警察による罰金などの措置が取られる。アートギャラリーや美術館はもちろん、食料品店や薬局以外の店舗は閉鎖された。
 アラスカとカナダの北極圏で大きなプロジェクトの4月実現に向けて、半年間現地と何度も連絡を取り準備をすすめてきたが、アメリカとカナダ両国の鎖国措置とともに、プロジェクトの延期が余儀なくされた。日本の福岡での5月の「糸島芸農」や、6月のベルファストでの日本のグループ展も延期が決定。ベルファストでのスタジオでの作品制作もできなくなり、英国のAmazonも生活必需品の配達以外の業務を停止し、作品制作の材料の入手も困難になった。
 コロナウィルスのアウトブレイクを封じ込める最も効果的な対策として、Social Distancing(社会的隔離)が採用された。世界中の様々なアーティスト・イン・レジデンスを渡り歩いてきたが、制限だらけの中家に隔離される状況は、ある意味特殊なレジデンスプログラムに参加しているようだなと思った。日々自分ができることを模索する中、これまで実現したいくつかの作品が、まさにSocial Distancing的であったことに、今になって気がついた(参考までに写真を添付する)。映画でよく見て来たような、世界の終焉的な状況下でもなお、アーティストとして、なんとかクリエイティビティを保ちたいと、ここしばらくもがいている。
 今回のパンデミックにより、世界中で経済活動がストップし、これまで世界を支配してきた資本主義がもはや機能しなくなっている。スペインがいち早くベーシックインカムの制度を恒久的に取り入れることを決定したように、今回の世界危機を人類全体が乗り切れば、世界全体の多くの国が、ポスト資本主義の方向にシフトしていくのではないか?ホジティブに捉えれば、パンデミックが、ごく一部の特権階級の利権のために成立していた世界のシステムを、終焉させるための十分なきっかけになるのではないか?と期待を抱いている。現在世界で起こっていることは、金持ちだろうが、特権階級だろうが関係なく、人類全てが平等に、危機にさらされている。全人類が国を問わず、力をあわせてウィルスに立ち向かえなければ、人類が滅びかねない、第二次世界大戦以来の、いわゆる世界大戦の状況だ。従来の国と国との戦争とも違う、人類対ウィルスとの戦争なのである。世界中の各個人がこの状況に、どれだけ危機感を感じて、Social Distancingを実践できるかが、この戦争に打ち勝つ鍵になるのだろうと考えている。

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増山士郎
1971年東京生まれ。川崎出身。
1997年明治大学建築学科大学院修了。世界中のアーティスト・イン・レジデンスに滞在しながら、ノマドで活動している。2004年より6年間ベルリンを拠点にした後、2010年に北アイルランドに移住。2013年より、北アイルランド最大のアーティスト・スタジオ組織Flax Art Studiosのボードディレクターに就任し、自らのアーティスト活動のみならず、現地で多くの日本人アーティストを紹介するなど精力的に活動している。


                                     写真上:「Parky Party」オーストリア応用美術館、ウィーン、オーストリア、2006(撮影:Wolfgang Thaler)
オープニングパーティの慣習のために作られた反社交バー

                                     写真下:東京の現代美術製作所のアパートで短期レジデンス中におこなった、パートナー・Sinead O’Donnellとのインターベンションから、2010


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