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映画と本

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#読書

悲しみのなかにある笑い

悲しみのなかにある笑い

なんかもうムチャクチャな話だった。飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーンが、行く先々で暴言を吐き散らし、女のケツを押さえようと追いかけ回し、ムカつく男がいればそいつのケツも蹴り飛ばす…。チャールズ・ブコウスキーの遺作、「パルプ」。

主人公ですら、「こんなダメな奴にケツの一蹴り以外何かを手にする資格があるのか?」と自問するくらい下品な話。それなのに不思議と、作品全体に哀愁を誘う雰囲気が漂っている。

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わたしのケンブリッジ・サーカス

わたしのケンブリッジ・サーカス

何か恥ずかしい思いをしたり、うまくできないことがあって自分を情けないなあと思うとき、いつも心に浮かぶ風景がある。それは幼い頃にわたしが実際に行き、この目で見た思い出の場所でもあるし、それと同時に、わたしの心のなかだけに存在する心象風景であるとも言える。

先日、職場で交通安全講習会があり、30人くらいの従業員が集まって警察職員の指導を受けた。横断歩道や自転車のシミュレーターを使って実際に道路の危険

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あなたの罪を背負って死ぬこと

萩尾望都「トーマの心臓」のあらすじです。

シュロッターベッツ・ギムナジウムの優等生、ユリスモール・バイハン(ユーリ)。彼はある朝、一学年下の美しい生徒、トーマ・ヴェルナーが足を滑らせて陸橋から落ち、亡くなったことを耳にします。素直で可愛いトーマは、学校の生徒たちにとって、恋神・アムールのような存在でした。

誰もが不幸な事故としてトーマの死を悼むなか、ユーリは友人のオスカー・ライザーから、トーマ

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