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自分の仕事に、値段がつけられなかった頃。

わたしはお金が苦手だ。
お金に得意も苦手もないけれど。
たぶんお金ということに対する
あらゆることが苦手な気がしている。

生活ということばが、遠くに感じることも
あるし。

それでも生活力のある人には惹かれる。

たとえ転んでもそこらへんにある砂を
掴んでも立ち上がってやるよっていう
勇気りんりんの人への憧れがある。

お金に対して覚悟のある人をたくさん
みてきてそう思うようになったのかも
しれない。

小さい頃、わたしは近所のちょい意地悪な
さちよちゃんとけいちゃんとよっちゃんに、
買い物ごっこしようと誘われた。

じゃあ、お店の人やってって言われて
きゅうりとかたまねぎとかにんじんを
新聞紙を丸めたもので見立てて、
店びらきをした。

お母さんのような仕草でみんなが
買い物に来たとき、わたしはスーパーでの
野菜の相場がわからなくて。

適当にやさいたちをひとつ1000円に
なりますみたいなことを言ったら、
は? は? ってみんなが口々に言って、
一挙にハブられた。

ま、そりゃそうだよなって。

彼女たちは関西人であるがゆえに、小さい時から、
人の持ち物つかまえて、それナンボなん?って
問う。

問われた者も、それいくらいくらって、値段を
畳みかけられると、すんなりなんぼやでって
答える。

よくできたシステムだといつもわたしは
その様子を眺めていた。

なんらそこに齟齬はなく。

スムーズな会話が繰り広げられていた。

あまりにみんなが聞いいてくるので。
ナンボって? わたしは挨拶なんやなって
思うようにしていたけど。

物に値段を自分でつけたのは、あのお買い物
ごっこがはじめだった。

そして、月日は流れ。

年月を経てちいさな広告プロダクションの
外注スタッフとして働くことになった頃。

通販カタログばかり手がけているところで、
そこに掲載されているファション小物と呼ばれる
アイテムのキャッチやリード、ボディコピーなどを
一点につき、だいたい250文字ぐらいで表現すると
いう機会に恵まれた。

締め切り当日。
〆切だけは這ってでも納品せよとの鉄則にのっとって。
基本は守りました。

カタログ製作みたいなものは、その事務所の
みなさんといつもご一緒していたので
人間関係的には気分的には楽だった

ただ。それ以前とその回でなにが違うかというと。

決定的に違うのは、ギャラで。
その額とかではなくて。

以前は一式いくらいくらでお願いしますと
仕事の値段が決まっていたけれど。

今回は、こっちからそれを差し出さなければ
いけないという、はじめてのパターンだった。

コピーを納品してから、ギャラをおっしゃって
ください系のもので。

コピーをたんまり書いて、タイトな締め切り
間に合わせて、それなりの評価もいただけて、
さぁギャラの交渉をってことになった時。

わたしはフリーズした。

じぶんの仕事に値段がつけられなかった。

まるであの日のお買い物ごっこの
さちよちゃん達にハブられ時を思い出していた。

取引先のN氏に、決めらないですって、おそるおそる
相談を電話口でかけた時。

親しいとはいえ、取引先の方に決められないですって
言うわたしもわたしであるが。

その時にガツンと言葉が飛んできた。

やりとげた仕事への価値を自分で決められないのは
仕事に対して熱心に取り組んでいない証だと。
そうとられても仕方ないよ。
それって、仕事に対してとても無責任な態度だ。

取引先のディレクターの方に言われた今となればありがたい言葉です。


みたいなことを、止まない雨のようにこんこんと
言われ続けた。

あまちゃんだった。

知人のコピーライターはまだ会社勤め
だったからその頃の相場がぜんぜん
わからなくて、
相談もできなかった。

ある日、昔務めていた広告会社の社長さんに
突発的に電話していた。

その時もどっかに、ほんまやねぇって。

わたしの味方になってくれるような甘ちゃけた言葉を
求めていたのかもしれない。

社長の洋子さんは、まったくもってそのN氏が正しい!
と一言。

ぴしゃっと眼の前で扉がしまったようなそんな、
たしなめ方をした。

そして、

じぶんでじぶんの仕事のギャラが
決められるようにしとき。
そこを越えられへんかったらあんた、どんな
コピーこの先書いてもあかんで。

以前勤めていた広告会社社長洋子さんのお叱りの言葉

あれから、時間が経って。

いちどコピーライターをやめている。

そして今は流れ流れてnoteにやってきて
みなさんのキャッチフレーズを書くことを
今年の5月ぐらいからさせていただいている。

オーダーして頂いた方にとてもガツンと心に
響いた言葉をもらったことがある。

その方に納品後、商品代金とは別にサポートして
頂いてメッセージを頂いた。

その額が思いがけなかった。

とても信頼している方からの言葉とサポート。

適正価格って難しいけれど。
言葉を安売りしてはダメです。
誰にでも出来ることではないから。

キャッチフレーズをオーダーして頂いたTさんに贈って頂いたメッセージ。

そして最後に応援していますと言葉が
添えられていた。

温かいエールを贈ってもらって、
とてもありがたかった。

わたしは自分の仕事に値段をつけるという
ことをそれを機にあらためて真剣に考えるように
なった気がする。

自分で値段を決めるというやり方もあるし、
自分の仕事をみて頂いて誰かに値をつけて
もらうというやり方もあるかもしれないとも
思った。

誰かに言葉を贈るということについて
その言葉に価格をつけるということ。

そして言葉をお金という価値に変える
ためには、当たり前すぎるけれど
その言葉じゃなければいけなかったと
わたしが想う以上にオーダーして頂いた
方が思うようでなければいけないのだと。

まだまだ日々迷っている最中ですが。

お金とわたしの付き合い方は、これからも
言葉にするということを考え続けることに
なるのだと思う。


かたことの ことばを知った あの日から
かたことの ことばしか 言えない 日もあった




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