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嫌われているものも、美しいものは美しいと思うクリスマス。

宿命的に漆黒の冬をもち、はかない夏はなにより

自然とふたりきりになりたいと願う人々が暮らして

いる場所があった。

それは世界中の人に愛された童話の街。

そこは他人の自由も頑固に守ろうとする場所。

烏山がこの街に来てもう何年も経つ。

そこはかくれ場所であって、しかもあけっぴろ

げなそんなところ。

ここで誰かを見守ることができるのは、鳥で

ある烏山だけの役目だった。

いつもこの街で鳥の役目をしている烏山は

クリスマスになると羽を一枚だけその街の木の

てっぺんに置いて烏になる。

そして大好きな栞の住んでいる街へと渡り鳥に

なって飛んでゆく。

栞はその日もコンビニのお弁当だけを買って

仕事からの帰り道を急いでいた。

どこか近くの林の中で、鳴く鳥の声が

聞こえる。

誰かを呼んでいるようなやさしくて、

やわらかい鳴き声だった。

その声を聴いた時、栞の中から取り巻いていた

縄のようなものがすっとすほどけてゆくのが

わかった。

目の前が突然暗くなった。

栞が見上げるとそこには漆黒の羽を持った

鳥がいた。

かつてから栞は烏のことを美しいと思って

いた。

誰にも言えなかったけど。

そう思っていた。

その鳥が美しい声で鳴いた。

烏には似つかない声で鳴いた。

さっきの誰かを呼んでいる声の鳥と

そっくりだった。

烏山は必至で栞の名前を呼んでいる。

クリスマスに死んでしまったぼくは

こうやって年に一度だけお寂し山から

栞のもとに飛んでゆく。

ぼくが羽を広げて栞のすぐそばの

空に佇むとき。まわりの光が一瞬

失われる。

それを見上げる時の栞のまなざしは

いつもやさしかった。

栞がうつくしいと言っていた烏に生まれ

変わったことを心から感謝していた。

街のどこからかジングルベルが響いて

いた。


🎄    🎄    🎄    🎄    🎄

今日も毎週ショートショートnoteに挑んでます。

お題はクリスマスカラスでした。

お忙しい中お読みいただきありがとうございました。




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