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この世で、たったふたりぼっちの世界だった。

生まれる時も、死んでゆくときも

ひとりだけれど。

生まれる時に、ひとりなんだけど

ひとりじゃない、そばにいつも

もうひとりの人がそばにいる

ふたごたち。

わたしは今まで生きてきた人生の

なかで、ふたごという方たちに

恵まれて生きてきたような気がする。

幼稚園の時、ちこちゃん、まきちゃんと

同じクラスだった。

ちこちゃんとまきちゃんは、ちこちゃんが

いつもCOOLで。

まきちゃんは、よく泣いていた。

そしていつもふたりで片寄せ合って

教室のちいさな椅子にふたりで

座ろうとして、こちょこちょ

喋ってこちょこちょ笑っていた。

でも、彼女たちの言葉をすんなり

理解するひとはあまりいなくて。

わたしはそれが不思議だったのだけど。

わたしの耳には彼女達の声とその意味が

はっきり聞こえていた。

みんなはちこちゃんとまきちゃんが

わからない言葉を話すふたりなので

一緒に遊ぶこともなく日々が過ぎて

いった。

ある日、らくだ組のわたしたちの

担任の先生。

しのはらたえこ先生が、ちこちゃんまきちゃんの

そばにいながら、一生懸命耳を傾けていた。

わたしは今ちこちゃんが図工のハサミを

忘れてきたことをどうしようって

まきちゃんに相談しているの図だなって

わかったけど。

しのはらたえこ先生はそれがわからなかった。

なんどもとんちんかんなことを言って

COOLなちこちゃんににらまれていた。

その時、しのはら先生はもしかして

ぼんちゃん、ちこちゃんまきちゃんの

言ってる言葉わかる?

わたしは、はいと先生に伝えた。

先生は、心底安心した顔でわたしに

ほほえみかけた。

ぼんちゃんそしたら、今日から

いつもちこちゃんとまきちゃんの

側にいて、先生にふたりが何を言ってるのか

教えてくれる? いや? いい?

びっくりした。いや? って尋ねられて

いやではなかったので、はいと答えて

その日からわたしはちこちゃんまきちゃんの

専属通訳になった。

わたしはその日から、登園するとすぐに

彼女たちのそばに座って。

ふたりの言ってる言葉に耳を傾けた。

時々、先生がやってきて同じように

ふたりのそばで耳を傾ける。

わたしは先生がまだわからないので

その言葉を伝える。

はじめて専属通訳になってから

その言葉を先生に伝えると

しのはら先生は、

「ぼんちゃん、助かったわ。ありがとう」って

ぎゅっとしてくれた。

わたしが記憶している限りで

生まれていちばんはじめて「ありがとう」を

意識した日だったかもしれない。

それとぎゅっとしてくれる意味はあまり

わからなかったけど。

そのそばでちこちゃんはそれこそ

COOLな視線でわたしたちを見ていた。

ただ、わたしは少し居づらかった。

ふたりはふたりで完結していた。

彼らの言葉が誰とも共有できなくても

ふたりだけには伝わっていたのだから。

それでもわたしはいつもひとりだった

から、ひとりが嫌ではなかったし

とても自由だったけど。

ふたりという単位はすこしうらやましかった。

ちこちゃんとまきちゃんはわたしとも

折り合うことはなかったけど。

ふたりとひとりでいつも暮らしていたような

そんな感覚があった。

ありがとうを初めて意識して、そして

わたしはひとりだなって感じた。

みんなひとりなのだけど。

ひとりとひとりなのだけど。

ふたりでひとつの世界を誰にも

譲らずに分け合っているその景色は

ちょっとうつくしいと思った。

この間の12月13日はふたごの日

だったらしい。

Twitterでトレンドワードにあがっていて

ふとちこちゃんまきちゃんのことを

思い出していた。

ふたり まぎれもなく ふたり
ひとり いうまでもなく ひとり



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