わが家の猫生活【その四十一/その後に起きた不思議なこと】
電話が鳴ったとき、「ああ、モモちゃんは天にのぼっちゃったのだな」とすぐわかった。
「みんなで見守ってたのに、私がちょっと目を離した隙に」と、泣きながら姉が電話をかけてきた。
モモちゃんがわが家にやって来て13年目の5月のことだった。
実家には通称・動物霊園がある。私が昔からそう呼ぶ場所だ。祖父が鉄砲打ちだったため、昔はずっと犬を飼っていた。飼い犬のポチやシロのほか、毎年玄関先に巣をつくっていたツバメの雛、家の竈屋(竈門や風呂の焚口のある建物)で息絶えていた野良猫、裏庭で死んでいたタヌキなど、いろんな生きものがそこに埋葬されている。モモちゃんの兄弟猫もここにいる。
ところが、モモちゃんが生きているうちにそのスペースは他の生きもので埋まってしまった。というか、うちの敷地でなぜ死ぬんだ、生きものたちよ……。
そこで家族は、同じ山あいに祖父が亡くなってから建てた家の墓の側に、モモちゃんを埋葬することに。月命日にはカリカリを持ってお参り。もっとも、カリカリはすぐに何者かが食べに来て、いつもスッカラカンになるけれど。
長い間お世話になったかかりつけの先生にも看取ったことを報告。すると翌日、お花が届いた。
人間のような振る舞いが多かったモモちゃん。だから余計に別れは辛かった。家で暮らす他の3匹には申し訳ないが、しばらくは何かにつけて「そういえばモモちゃん、こんなことやらかしたよね」「たぶんモモちゃんなら、こうするよね」と話すばかり。
最期に会えなかった私は、せめて夢で会えないかと毎晩泣きながら眠りについたが、モモちゃんは全く出てこなかった。薄情なやつめ、と毎朝泣き笑いだった。
そんな風に少しずつ時が過ぎ、彼が夢に出てくることもなく季節が変わった頃のこと。
晩ごはんを作ろうと家のパソコンデスクから立ち上がったとき、微かに獣のにおいがした。
これは!! モモちゃんのにおいーーー!!!
ほんの一瞬のこと。ハッとして見まわしたが、何も変わっていない。
いやいや、自分、頭おかしくなってる?
勘違いでは?? と思われても仕方ないのだけれど、確かにモモちゃんのにおいがしたのだ。
すぐ姉に電話。案の定「は~っ? あんた頭おかしくなったんじゃないの?」と失笑された。家族はすっかり日常を取り戻していた。残る3匹の猫の存在が、日々癒してくれたことも大きい。
姉に笑われて、オレ撃沈。
いや、それでも……、間違いなくあれはモモちゃんのにおい(言い張る)。
においの気配は、彼なりの私へのお別れだったのではないか。「お別れの挨拶、待たせて悪いね、フフン」みたいな。そう思うと、気持ちがストンとした。だからそう思うことにした。
モモちゃん、ゆっくり休んだら、また野に山に遊びに行くんだよ。トラちゃんともヤモリとも遊びなよ。
それから今の今まで、モモちゃんが夢に出てきたのは、その半年後に一度きりだ。
引き戸に囲まれた例のわが家の食卓で、カニを食べている家族。部屋の周りをグルグルグルグルまわりながら「ガオーーーーン!カニ!カニ!カニくれ! ガオオーーーン!!」と(いう心情で)雄叫びをあげるモモちゃんだった。これ、既視感ある……(笑)。
君は夢の中でも相変わらずだねえ。
野良猫のナケちゃんが、うちの裏庭に置き去りにした子猫の君。わが家にやって来て楽しかっただろうか。わからないけれど、今も盆と正月にはご先祖様と一緒にわが家に帰ってきていると信じたい。帰ってきても、魚は勝手に食べちゃだめだよ。
(猫生活は、まだまだつづく)
これまでの「わが家の猫生活」はこちら。
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