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わが家の猫生活【その三十一/近所で顔パス】

実家の近所のおばちゃんたちからは、「あらモモちゃん、また鼻の頭にキズができてるで。決闘でもしたか?」「今日はどこで昼寝するん?」と声を掛けられるような日々。昔の田舎で猫を飼ったら、こんなことは日常茶飯事だった。

モモちゃんがわが家にやって来て10年も経つと、彼の同期(?)は次々に行方知れずになったり天に召されたりした。本人(猫)も歳を取って少しは食が細くなるのかと思っていたけれど、そんなことは全くなかった。いつもワシャワシャごはんを食べて、ちょっと家で寛いでからまた出かける毎日だった。

母が、野良猫の世話をしているお寺さんへ所用で出かけたときのこと。境内には猫たちがたくさんいて、ちょうどごはんをもらっている最中だったという。

「ごはんの時間か。よう食べるねえ」と母が話しながら近づくと、ごはんに群がる猫の中に、見覚えのあるキジ猫がいるではないか。

「モモちゃん! 何しとるの!!」

母は驚いて、お寺の奥さんに「すまんねえ。ちゃんと家でもごはん食べとるんやけど」と謝った。

「モモちゃん、毎日来るんよ。けど、どの猫も全然いがまんし(いがむ…威嚇の声を出すという意味)。仲間と思うとるんかね(笑)」と奥さん。

確かに……。見た目もすっかり野良化してしまったし。それにしても毎日!? 毎日ここでごはんを食べて、家でも食べていたというのか!?

母は恥ずかしさと申し訳なさとで戸惑い、傍らに寄って来たモモちゃんに、
「あんた、どこでも顔パスなんか? よその猫のごはんを食べたらダメやろ! うちでちゃんと食べとるやろう?」と言い聞かせ、やんわり叱った。

理解したのかしなかったかはわからないが、話しかけられたのでとりあえず、いつも通りガオーーンと鳴いて尻尾をピーンと上げたという。

母は、「ばあちゃん(母)、お寺にちょっと用事があるけん、終わるまでここで待っときよ」と、モモちゃんにまた言い聞かせて寺の本堂へ。

思ったより時間がかかり、ようやく用事を済ませて境内に戻ってくると、ごはんに群がっていた猫たちはもう解散していた。モモちゃんもどこかに遊びに行ったのだろうと思った母は、寺の入り口を見て驚いた。

モモちゃんが、隅っこでじっと母を待っていたのだ。

忠犬ハチ公かよーーっ!!


忠猫モモ公……(なんかダサい名前になってしまった)。

モモちゃんは、ガオーン、ガオーーン!!と鳴きながら、母の足にまとわりついてきた。一人と一匹は一緒に家まで歩いて帰り、母は自慢の息子(もう爺さんになりかけの猫)を抱っこして玄関の戸を開けた。そして父と姉に、寺でのできごとを嬉々として語った。それは即座に私の耳にも入った。

姉は「あんなに家で食べてるのに、まさか、よそ様でもごはんを食べていたとは……。しかもいつの間にか顔パス! それに私が行ってたら、絶対モモちゃん待ってくれない。相変わらずマザコンや」と話し、驚きを隠せない様子だった。

「もしかして、今晩は魚やったんじゃ?」と私。

案の定、その日の晩ごはんでモモちゃんは魚にありついたそうで。親バカはどこまでも続き、そしてモモちゃんの顔パスも、このまま続いたのだった。(つづく)

51顔パス


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