49モモちゃんの話カニ鍋

わが家の猫生活【その十四/カニ鍋で大騒動】

年末年始はすっかり野良猫・クロちゃんの話になっていたけれど、本妻(夫)ならぬ、本猫(?)の話に戻そう。

猫にも食の好みがある。モモちゃんは甲殻類が大好きだった。猫にとって甲殻類はNGと言われている。生のエビやイカ、カニなどは体内のビタミンB1を壊し、ビタミンB1欠乏症になるケースがあるそうだ。ふらふらしたり(腰を抜かす)吐いたりという症状が出るという。

家族はそのことを、近所のおばちゃんたちから聞いていたけれど、何しろ本人(猫)が異様なまでに欲しがるので、甲殻類がたまに食卓に上ったときにはお裾分け程度与えていた。ほとんどは生ではなかったが、イカだけは困った。わりと安くスーパーに並ぶ、イカ刺しだ。

今だったら見ず知らずの人にも怒られる案件だろうな、これ。当時の田舎では、猫といえばネコまんま、たまに魚(サザエさんのタマだって、魚をときどき強奪してた)、みたいな雰囲気だったし、家族もどちらかといえば「好きなものを我慢するより、食べて食べて、それで天にのぼっても本人(猫)は本望なんじゃないのか」という、どこか野生の本能を認めておきたい、という認識だったように思う。

ウオオーーーーーーン!!! とけたたましい雄叫びを上げ、一心不乱にイカ刺しに食いつこうとする愛猫に、最初こそ「ダメ!! モモちゃん!! ダメ!!」と叱っていた母も、根負け。本当はダメですからね。


両親は、法事や集落の寄り合いで出た仕出し弁当にボイルの海老が入っていると、いつも残して持ち帰った。私が夕飯時に「この海老食べていい?」と尋ねると、「ダメ! それモモちゃんのために残してきたんだから」とほざく二人。

当時の家での勢力図は、完全に
私  <<< モモちゃん  だった。


年に一度、姉が奮発してカニ鍋をする日があった。この日は、家人と猫とで凄まじい攻防戦を繰り広げることに。人間が食べ終わるまでモモちゃんが外から戻ってこないことを願いながら「いただきます」を言うのが恒例だ。

ところが、どこから嗅ぎつけるのだろうか。
「モモちゃん、まだ帰ってこないね。ゆっくり蟹が食べられるぞ!」と話しながら“いただきます”の儀式を終えた途端に、裏庭からガオオオーーーーーン!!!と鳴きながら戻って来る。

ウソでしょ!? あんた、どこかで見てたん? モモちゃんはいつもジャストタイミングで帰ってくる。

わが家は築80年近い古い家で、田の字型住宅(襖を開け広げるとひと部屋になる、廊下のない家)だ。食事する部屋の周りは壁ではなく、全部引き戸。一旦モモちゃんを家の中に入れ、食事部屋の引き戸を閉めきり、家族全員無言でカニ鍋を急いでつつく。

「もっとゆっくり食べたかった……」と、蟹を購入した当人(姉)。

その間、甲殻類大好き猫が、ウオオーーン! ガオオーーン!!と鳴きながら、部屋の周りをグルグル走る。ガラスの引き戸の向こうから、涙目で鍋を見つめている。そしてまた走って別の引き戸の向こうで鳴き続ける。モモちゃんはこれを何度も繰り返し、家族はまったく落ち着けずにカニを食べて夕飯終了となる。

29モモちゃんカニ鍋

「こんなに焦って食べるカニ鍋なんて、味わからんわっ!」と文句を言いながらも、恨めしそうにこちらを見ている猫様には到底敵わない。

結局蟹の足を数本残し、モモちゃんが満足そうに食べるのを見て、「アホや、うちらも、猫も」と家族でボヤくのだった。(つづく)

※これはあくまでもわが家の話です。猫の食べものにはご注意ください。

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