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文の文 1

401
文というハンドルネーム、さわむら蛍というペンネームで書いていた作文をブラッシュアップしてまとめています。
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3年7組クラス会

3年7組クラス会

4/21は伏見の味福さんというお店で
高校三年生の時のクラス会があった。
先生を入れて13人が参加した。
横浜や神戸、大阪から駆けつけた人もいた。

自分たちより14歳年上の先生のお誕生会でもあった。
おおらかで優しげな雰囲気は今も変わらない。

先生は先だっての書道展にも参加されており
水泳もなさっておられるそうで
そんなお元気な様子にこちらが励まされる。

人生で一番愉快なクラスだったと思う。

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ガラクタ

ガラクタ

「また、そんなガラクタを!」
と家人に言われてしまいそうなものを
eightさんの「八の市」で見つけた。

まあ、そう言われたら
返す言葉もないんだけど
これを見てると
あったかく思い出すことがあるから
連れ帰ってきた。

☆☆☆

あたしの実家のお隣は大工さんで
その家には町内の子どもたちが
なんだかんだといつも集まっていた。

男の子の多い町内で
将棋もトランプも
ケン玉もメンコもビー玉も

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変形のもの

変形のもの

無農薬で育った大根が並んでいた。てんでに個性的な姿をしている。

どこか人体に似た意味ありげな造形に見えたりもして、笑みを誘うが、市場には出ないそれらは、廃棄されるか、売られるにしても価格は安価だ。

こういうのを変形野菜というらしい。なぜそんな風になるのかを調べると、こんな文章に出会う。

「成長点に障害」という言葉が心に残る。

この大根たちは真っ直ぐ伸びようとして伸びられなかったんだな。

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老婆心ながら

老婆心ながら

再びの門出に

残念ながらあたしはお勤めをしたことがない。だからあたしの言葉は的外れで、ちっとも現実的でないかもしれないけど、それなりに長く生きてきて、あれこれ見聞きしてかたから、少しは役にたつこともあるかもしれない。

老婆心ながら、書いておくね。

優しさ君が優しいことを一番よく知ってるのはあたしだと思う。おだやかで、相手の立場に立つことができて、抱える痛みも共感できるすごくいいやつだと思う。

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さとこさん

さとこさん

「クラスにフランス人形のような女の子がいる」

中学生になったとき、違うクラスになった小学校の友達が言った。

おおげさな、と思いつつ見に行くとほんとにその女の子はそんなふうだった。色が白くて目が大きくて鼻筋が通って髪が天然パーマでゆるやかに波打っていた。

「ほんまや」とため息をついた。それがさとこさんをはじめて見たときのことだ。

その後、自分がそのフランス人形と話をするよつになり、親しい友達

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深海魚

深海魚

かなり前のこと。

*****

横浜文学館の開高健展の講演で.作家の高樹のぶこさんが「男は回遊魚で女は深海魚だ」と言った。

回遊魚はどこまでも泳ぎ続ける。止まったら死んでしまう。

深海魚は近づいてくるものをじっと待つ。あるいは明かりでおびきよせる。

高樹さんは回遊魚が男で深海魚が女だと言った。

それは実に含蓄のあることばで、なるほどそういうものかとうなづきもしたのだが、最近アクティブなひ

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そんな日がありました。

そんな日がありました。

冬の日、思い出すこと。反省すること。

*****

物事を最後までやり遂げること 、ちかごろのわたしは、そいつがなかなかむずかしい。

こっちをやるとあっちが気になる。 あっちにいくとこっちの遣りっぱなしがまた気になって 、こっちへ戻ろうとすると 、その途中にあるものに気を引かれてしまって そこでまた何かし始める。

あかんあかん、とこっちに戻ると また、あっちが気になって・・・ 家の中でこ

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憎まれ役

品川区民であったころのこと。

*****

待合室でおばあさん達の四方山話を聞く。

「○○銀座もさびれちったねえ。不景気なんだねー。風呂屋までつぶれちまったよー」と赤い目をしたおばあさんが言う。

「どこもそうよ。みんなヨカドーみたいなおっきなスーパー行くもんね。風呂だってみんな自分ちにあるんでしょ」と真ん中の眼鏡のおばあさん。

もうひとりのおばあさんは補聴器を外しているのでちょっと聞こえが

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愛でる

愛でる

「mayumiさんのこと」https://note.com/bunbukuro/n/n7f76c0a31974のところで書いた料理屋「田園」のご亭主さんのこと。

*****

ときどきうかがう料理屋がある。ここのご亭主は今年80歳なのだが、なんとも色気がある。

カウンターに向かうすらりとした立ち姿、とくにその背が美しい。かくしゃくとして、品もある。

この店を紹介してくれた友人によると、なん

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沢木さんの本

沢木耕太郎さん、すきやったな。

*****

ブックオフで買った
沢木耕太郎さんの「彼らの流儀」を読む。
これは新聞連載をリアルタイムに読んで
そのあとも本を買って読んだのに
ほとんど覚えていない。

わたしの活字の記憶はとてもはかない。

「胡桃のような」まで読み進み、
ラインを引きたくなって立ち止まる。
それは63ページにある一節だ。

「胡桃のように堅牢な人生を送れるのは
そんなふうに生き

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みどりさんの言葉

みどりさんの言葉

友人のみどりさんが長逗留先から帰ってきたおりのこと。

*****

とても元気そうな声だった。ちょっと安心する。

あちらではだんだんわけのわからなくなってきた
90歳の老婦人が隣人だったという。

「そういう年寄りにどう接すればいいのか、教えてあげる」

とみどりさんはもったいをつける。

「あのね、そのひとにむかって、ひたすら愛を叫べばいいのよ」

90歳の老婦人に必要なのは、まわりに人間に

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大丈夫❗️

大丈夫❗️

処方箋薬局で順番を待っていると杖をついた老婦人とそれより少し若そうなそのひとがやってきた。

若いといっても60代はじめという感じだ。きちんと髪をまとめてすっきりした顔立ちの女性だ。

このふたりとは耳鼻科でもいっしょだった。待合室で、のべつ幕なしに老婦人が喋る話のあれこれにそのひとはふんふんふんと耳を傾けていた。

老婦人はずっとふたりの共通の知り合いである井上さんというひとの悪口を言っていた。

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がらんどう

がらんどう

実は自分はがらんどうで
自分の中には
自分じゃない人の言葉ばかりが満ちている
そんな気がする日がある。

えらそうな台詞も
気の利いたひとことも
くすりと笑えるおかしなたわごとも
みんな誰かの言葉が
自分の中で反響してるだけ。
そんな悪夢にときどき襲われる。

なにを言っても
だれかの受け売りで
端と端をくっつけたり
斜めに縫い合わせてみたりしても
いずれ素材はだれかの持ち物。

でもそれってわた

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物憂げなドイツ文学者

物憂げなドイツ文学者

それはかつて住んだ大井町駅でのこと。

*****

駅のエスカレーターで、出かけるたびにすれ違う男性がいる。あたしが降りるとき、いつもそのひとはあがっていく。

すれ違うひとの顔をいちいち覚えているわけではないのだが、そのひとはいつもおなじ服を着ていた。

それも、35度を越えようという真夏の盛りに、濃紺のシャツをのど元まできちんと留め、そのうえに裏地の付いた厚手のジャケットを着込んでいた。

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