クナイとって

他にやりたいことがなさ過ぎて…主に小説を投稿しております

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最近の記事

〈47〉席

 学校という場所は二つの席がある。  それは授業中の席と休み時間の席である。  休み時間、ワイワイガヤガヤしているようでみんなちゃんと休み時間の席に着いている。席と言っても細かく言えば場所のことである。机の上に座る子もいれば、友達の席の隣に立っている子もいる。もちろん授業中と休み時間の席が同じ子もたくさんいる。  芦原君は西崎君の隣を死守している。そしてその周りに数人の男子が囲み、必ず人だかりになる。よく二人だけでしゃべっている男子も女子もたくさんいるが、芦原、西崎の周

    • 〈46〉価値

       とにかく西崎君の地位は芦原君の媚びへつらいによって担保されている。まるで通貨の信用度のようだ。この程度の信用などいつデフォルトするかわからない危うさがあるが、それでもこれにより西崎君と近いということがそれだけ自分を高く認識できる根拠にはなっているようである。  というのも2年生の時、修学旅行とは別に移動教室というスキーを習う2泊3日の行事があり、その当時同じ部屋になった子たちが妃願望アホ女子と西崎グループ女子で半数を占めたことがある。  というわけで消灯後、案の定恋愛話

      • 〈45〉寺田君は逆転できるか?

         相変わらず芦原君と西崎君は寺田君を中傷し、周りはそれで笑っている。  芦原君は西崎君と「共同作業」をすることで仲を深められていると思っているらしい。寺田君も一応一緒になって笑ってはいる。逆に言えば彼が笑うことで冗談の範囲として収めていると言ってもいいし、彼が笑って冗談に収めることを見抜いているので標的にしていると言ってもいい。しかし笑いが起こった時、寺田君の目の力は芦原君と西崎君では違う。寺田君は笑いながらも明らかに西崎君に対しては「お前が言うな」という目を一瞬だけする。

        • 〈44〉現象学どこ行った

           矢野君は芦原君とも西崎君とも仲がいいと思いたい人である。みんなと仲がいい、友達が多い、というのが彼のアイデンティティを支えている。とにかく友達が多い事をいいことだと思っている人は一定数いる。しかし問題はその中身である。友達が多いことはいいことだと思っている人のトモダチコレクションにさせられている感じに嫌悪感を抱く人は一定の距離を置こうとするので、もう友達とは何のかよくわからなくなってくる。  つまり本人の自己解釈次第である。  というわけで芦原君と西崎君からは一歩距離を

          〈43〉西崎君

           その芦原君に媚びへつらわれているのが西崎君である。成績が常にトップである。もう絶対東大とかに行く感じである。色白でひょろっとしていて、野球部に所属しているが運動は得意ではない感じで、いわゆるガリ勉に見えるが、芦原君と仲がいいというアドバンテージで表面的には勉強ができる方を評価されている。             しかし芦原一派は芦原君の子分であるのは受け入れるが、西崎君の子分であるのは認めない感じである。  その芦原君の西崎君へのへつらい方と言うのは、またあからさまであ

          現象学女子〈42〉私がいじめられたらどうとらえるか

           中学生ともなると、彼らの関係のようにいじめなのかどうなのかはっきりしない、人間をよく見定めてから微妙に相手を傷つけるような、ある種の高度化したことが行われる。だがそこに属す必要がないのに属している以上、周りが不快でも本人たちの了解の範囲内と捉えるしかない。  私は1年の時、椅子に画びょうの針が上向きの状態で置いてあったことが1度だけある。その時はそれに気づき刺さることはなかったが、私の席は窓際で画びょうがそこに落ちる必然性は全くない場所だった。つまり誰かの意図によるもので

          現象学女子〈42〉私がいじめられたらどうとらえるか

          現象学女子〈41〉いろんな自我が現実をとらえるとこうなるんだ

           いじられ役をやっている寺田君も、いじられることで芦原一派に属しているという恩恵があると思っているらしいので、距離をとったり逃げたりもしない。おそらくその集団自体が上位であると本気で思ってる、あるいはそう思おうとすることでそれこそ自我の安定を図っているようだ。  外から見てる方は不快だが、彼らは彼らで調和がとれているらしい。いじめとして表面化しない程度の精神的な攻撃。でも本人たちはじゃれ合ってるという認識でその場をやり過ごしている。  そして笑えるのは、寺田君は妃願望女子

          現象学女子〈41〉いろんな自我が現実をとらえるとこうなるんだ

          現象学女子〈40〉芦原君

           C組の芦原君はサッカー部のキャプテンである。いわゆるイケメンである。そして、他のサッカー部の人にいじりといじめのちょうど中間くらいのことをやっている。その人の弱点や気にしていることを平気で指摘して笑っている。本人は空気を読んでいるつもりで冗談の範囲だと思っているらしいが、私から見れば完全にアウトである。  私はC組に休み時間に用があるときによくこの光景を見る。  つまり相手をよく見て、こういうことをやっていい人というのを完全に見定めている。決して歯向かってはこない相手で

          現象学女子〈40〉芦原君

          現象学女子〈39〉マシンガントークは止められん

           金井君のいわゆるこれが鳩が豆鉄砲食らったような顔を見て、私は大丈夫だろうかと反省する。女子の見せてはいけない部分を見せてはいまいか今の会話を反芻したが、大丈夫なはずだ。我々は今、非常に学術的で硬派な話しをしている…はずである!ただここまで話しを進めてしまったらもう少し注釈を入れないと気が済まないので私はまた続けた。  「今、結婚を生存戦略なのか恋愛の延長なのかっていう2択で言ったけど。実際はそんなくっきりなんて分かれてないはずだわ。物事って言うのは大体グラデーションになっ

          現象学女子〈39〉マシンガントークは止められん

          現象学女子〈38〉結婚と現象学

           「なるほど、結婚を生存戦略上のパートナーとして見た瞬間に今まで何とも思わなかった人が、違うように見えるのかもね」と福田さんが言った。  「あそうそう。ギターとハンマーの例えで言いたかったことはそういうことよ。別にどっちで選んでもいいのよ。でも結婚したいと思ってる時に、いい条件の相手が見つかったとして、例えばその人が仕事ばかりしていることを仕事熱心 自己主張が強いことを自分の意見を持っているみたいに、その人のただの個性を長所として見てしまうと、それが結婚する前はそこを長所と

          現象学女子〈38〉結婚と現象学

          現象学女子〈37〉ハイデガーと女子

           「ってことよ」  「え?どういうこと!?」と松井さん。  「なんかハイデガーのおっさんの話してたら疲れちゃった」と私は言ったが、最低限のフォローはせねば…あ、そうだ。  「福田さんは今…」  「由衣奈って言って!」……わしゃ彼氏か……どいつもこいつも…  「と、とにかく由衣奈ちゃんは、矢野君の友達の金井君の気を悪くさせないように、恋愛対象ではないってことを遠回しに伝えようとしただけなのよ。それと由衣奈ちゃんは今わざと現実的な人間を演じたかったんだと思う。おそらく理

          現象学女子〈37〉ハイデガーと女子

          現象学女子〈36〉物とは意味のことである

           「もしうちが火事なって扉に火が回って扉からは脱出できないとします。窓は開閉式じゃなくて嵌め殺し窓でそれを割って脱出しようとするとき、割るのにちょうどいい物を探したらこいつがあるわけ」と私はギターを指さした。みんながそれを見る。  「その時、こいつは『何』になるかしら?」と私はみんなを見た。そしたらみるくが  「ハンマー?」と答えた  「そう。その瞬間、ギターはハンマーとか鈍器として私の前に存在しているの。こいつのネックをもって窓にボディをスイングしてぶつけるために。こ

          現象学女子〈36〉物とは意味のことである

          現象学女子〈35〉武闘派と戦略派が来た

           ピンポーン。  家のチャイムが鳴った。松井さんと福田さんが来た。私の部屋の長方形の小さいテーブルは5人でひしめき合う感じになった。机に紅茶と菓子を追加する。カーペットの上に金井君はあぐら、他は女子座りである。  しかし金井君は違和感なく溶け込み、私含め女子4人も特に気にしていない。こいつは異性に見られていないが同性とも見られていない。かと言って中性的でもなくゴリゴリのオスであるが、コミュ力の高さと察しの良さで、いれば必ず話は弾む。なので女子からはかなりの信頼感はあるのは

          現象学女子〈35〉武闘派と戦略派が来た

          現象学女子〈34〉真・美

           「あと真ね。これは知りたいって気持ちよ。学者なんかはそうよね。ただなんでこうなってるのか知りたいって気持ちも何で知りたいのかわからないけど知りたいって思うわけよね。人間は知的好奇心があるからというのはもちろん後付けの理由で、そんなこと知らなくても知りたいって気持ちを持っていたわけだから。これもなんの対価も得られなくても自然に起こる根源的な意欲よ。だから科学って言うのは人類がいる限り勝手に発展しちゃうものなのかもしれないわ」  「ああなるほど。科学の発展自体がもう物理現象み

          現象学女子〈34〉真・美

          現象学女子〈33〉他者

           日曜日、金井君とみるくが家に来た。紅茶とお菓子を出す。金井君は貸してた太宰の本を返しに紙袋に本を入れてきた。学校で返せばいいのに。  「体育のバスケの松井さん凄かったね」と金井君が言った。体育館の半面では男子もバスケで、松井さんのファイトに男子は釘づけだったらしい。  「女の敵は女ってなんかの本で読んだ気がする…まあ、あくまで小説の中の架空の登場人物の考えだけど…でも本に書いてあることが現実に起こるとなんかうれしいよ」と金井君が続けて言った。  「やっぱあれなの?あの

          現象学女子〈33〉他者

          現象学女子〈32〉やっぱ松井さん

           ボールが来たのですぐに誰かに渡す。ボールとなるべく関わりたくないが、一応今5時間目の体育の授業がバスケットなので、私はボールをもらったら「探ってる風」な動きを少しだけ入れてパスを出す。松井さんがドリブルで切れ込みシュートを決める。松井さんの運動神経はバスケ部の子も一目置くほどで、相手のC組のバスケ部の子も松井さんには本気でついてるが、それでも松井さんは強引に踏み込んで決めてしまう。  私なんかちょっとしたボディコンタクトも嫌なので、ボールはすぐにポイっである。体育などこの

          現象学女子〈32〉やっぱ松井さん