現象学女子〈35〉武闘派と戦略派が来た
ピンポーン。
家のチャイムが鳴った。松井さんと福田さんが来た。私の部屋の長方形の小さいテーブルは5人でひしめき合う感じになった。机に紅茶と菓子を追加する。カーペットの上に金井君はあぐら、他は女子座りである。
しかし金井君は違和感なく溶け込み、私含め女子4人も特に気にしていない。こいつは異性に見られていないが同性とも見られていない。かと言って中性的でもなくゴリゴリのオスであるが、コミュ力の高さと察しの良さで、いれば必ず話は弾む。なので女子からはかなりの信頼感はあるのは間違いない。なんて思ってると金井君がいきなりあけっぴろげに
「福田さん矢野っちとかどう?」と聞きやがった。私は内心「おい、どうした金井。助走もなしに」と思ったが福田さんは特に動揺する風でもなく
「今は違うかな~」と淡々と答える。
「ふ~ん」と金井君も答えた。
金井君の様子は別に「賭けに出た」感じでもなく、このメンバーならこの話題でも大丈夫だろうという確信がうかがえる。
いつのまにか私の知らない間に、この二人の間ならではの関係が形成されているのがちょっと悔しい。しかし金井君に嫉妬しているのか、福田さんに嫉妬しているのか自分でも全く分からず。もしかしたら金井君の人間を見る見切りの良さに嫉妬しているのかもしれない。そしたら松井さんが
「今は?」と話を戻した。
「そうねえ。私が20代になって結婚する人が見つからなくて向こうがちゃんとした職業についてたらその時意識するかもしれないわ」と福田さんはずいぶん冷静に答える。そしたら松井さんが
「要は恋愛より結婚タイプかしらね。まあ確かに、矢野はちょっと暑くるしいかもね。中学生だからあのくらいの元気でいいと言えばいいけど」と、どの目線で言うとるんじゃ、と外から見たら怒号が飛びそうだが、ガールズトーク(?)とはまあこんなものである。我々女子はこういう会話をするために生きていると言っても過言ではない。
「てゆーかこの前の木下の時とは全然違うのね。あんな困ってそうだったのに今回はかなりはっきりと分析してるのね。なんか怖いわ。うつつといい勝負よ」と松井さんがぼやく。
「だって本当にわからなかったんだもん。それに私なんてまだまだよ。うつつちゃんの方があれよ」と福田さんが否定するが、何がいい勝負で、何があれなのかわからないのに会話だけは噛み合って行く。しかも「あれ」の方がなにか重症な感じがするのは気のせいだろうか?そしたら金井君が
「木下?」と言うと(それは知らなかったみたいだ)
「由衣奈、木下にコクられたのよ」と言った。
「てことは、断ったんだ?」と金井君
「まあそんなもん」と松井さんが自分のことのように答える。
「木下のくせに意外と紳士的で理性的だったから、面白みには欠けるけど品格的な意味で言えば、確かに矢野よりもいいかもしれないわね」とまるで松井さんが告白されたことみたいになってて、言いたい放題であるが、ここは密室である。密室に女子4人(その他一人)、がいればこういう感じになるのは必然である。
「しかしあんたもドライね~。そんなに恋愛と結婚て簡単に分けられるもんなの?」と松井さんが言うので、ここは私も福田さんの擁護に回らざるを得なくなった。
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