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現象学女子〈34〉真・美

 「あと真ね。これは知りたいって気持ちよ。学者なんかはそうよね。ただなんでこうなってるのか知りたいって気持ちも何で知りたいのかわからないけど知りたいって思うわけよね。人間は知的好奇心があるからというのはもちろん後付けの理由で、そんなこと知らなくても知りたいって気持ちを持っていたわけだから。これもなんの対価も得られなくても自然に起こる根源的な意欲よ。だから科学って言うのは人類がいる限り勝手に発展しちゃうものなのかもしれないわ」

 「ああなるほど。科学の発展自体がもう物理現象みたいなものなのか」と金井君がちゃんとついてきてくれた。

 「それと美ね。実は今ここにいる3人は私たちの周りでも穏健派だという感覚があるんだけど、それは他者よりも美に対する意欲が強いからな様な気がしてるの。金井君が最初私に話しかけた時『井戸ってなんかいいよね』って言ったよね?ああいう、ただ生活で使うだけの道具にも何か違う意味を感じられる感性っていうのが、美に対する意識というか意欲の表れなのよ。別に美というのは自分自身の美容だけじゃなくてもっと広い意味ね。みるくはそもそも美術部だし。まあ私は音楽への情熱が減退してるけど…あれ?私なんでこんな話してるんだっけ?」

 「たぶん人間て言うのは他者か、真か、美に生きる意欲を感じる生き物だってことが言いたいんだと思う」とみるくが要約した。こいつがいないと私はハンドルを失ったエンジンだけの車になってしまう。

 「あそうそう。てゆーか全部だけどね。それぞれの意識や意欲がどこにより強く出るか、どういうバランスで存在しているかでその人の個性って言うのが生まれると言ってもいいわ。まあ知的好奇心の全くない人も、美にまったく無頓着な人も、他人に無関心な人もいるけど…あっ!」

 「え?何?何?」と金井君は驚く。みるくは無反応だ。もう慣れたのかしら。

 「なんか嫌。もうこんな話したくない…でもしちゃう…」

 「いいのよ。落ち着いて」みるくが私をなだめる。

 「そこのギターかっこいいよね」金井君が気を遣って、ギタースタンドにかけてあるストキャスに目をやった。

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