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現象学女子〈40〉芦原君

 C組の芦原君はサッカー部のキャプテンである。いわゆるイケメンである。そして、他のサッカー部の人にいじりといじめのちょうど中間くらいのことをやっている。その人の弱点や気にしていることを平気で指摘して笑っている。本人は空気を読んでいるつもりで冗談の範囲だと思っているらしいが、私から見れば完全にアウトである。

 私はC組に休み時間に用があるときによくこの光景を見る。

 つまり相手をよく見て、こういうことをやっていい人というのを完全に見定めている。決して歯向かってはこない相手で、そして登校拒否をするほどメンタルの弱い人でもないということをちゃんと見極める目は持っているのである。だから同じ部活でも圭ちゃんには絶対にやらない。

 そしてその光景は明らかな上下関係として認識できるゆえに、イケメンであることも手伝って、芦原君に気に入られれば自分も上位になれると思うバカには支持されている。つまりイケメンだからいじりで収まっているとも言える。

 彼の人間に上下を作る性質が、見ようによってはリーダーシップがあるとも見えるために、キャプテンになったみたいだ。キャプテンの仕事はよくやってるみたいで実際それなりのキャプテンシーも発揮して、純粋に部の向上に努めているので、人間悪いところばかりではないのは確かである。そして「彼を良くとらえたい人」にはおそらくそういうところが、ひたむき、純粋、ストイックと見えてて、青春をサッカーに捧げている人として美しく映っているようだ。

 というわけで、この王様的な存在感が「妃願望」のあるアホな女子から絶大な人気があり、人数で言えば圭ちゃんと同じくらいモテる。B組の矢野君も彼といい関係でいようとたまにC組に来たりしている。とにかくそういうヒエラルキーが生まれる場には上位になりたいと思う人がやってくるみたいだ。

 そして例のいじりなのかいじめなのかの微妙な感じのことに対して笑いながら

 「おいやめろよ~ははは」という感じで一応止めているが、本気ではない。つまり矢野君も「俺は芦原を注意できる位置にはいるんだぜ」ということを誇示したいらしい。こういうヒエラルキー争いに加わりたい人っているんだよな~と中学3年まで人間を見ているとつくづく思う。

 圭ちゃんは同じ部活のチームメイト、つまり「立場としては味方」というスタンスをとっている。同じ空間にいればそれなりに友達としてふるまう程度であるが、絶対自分からは部活上の用がない限り芦原君に話しかけたりしていない。

 つまり、圭ちゃんと金井君は矢野君とも仲がいいが芦原君とは少し間がある。矢野君はみんなと仲がいいというのが本人の自尊心につながっているらしく、金井君はさておき、芦原君と圭ちゃんの微妙な距離感のある二人の間にいるのが、自分であると思うことはそれなりの特別感、アイデンティティになると思っているらしい。

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